女「えーと…男さんですね?」
男「はい、男です。宜しくお願いします。」
女「私はこの会社の社長兼チーフデザイナーをやらせて貰っている女と言います。宜しくお願いします。」
男「はい。」
女「じゃ、まず志望動機だけ。聞かせてもらえますか?」
男「はい。御社の企業理念を拝見させていただきまs…」
女「あ、ちょっとちょっと。ストーップ。」
男「えっ?」
女「変に畏まったり、形式に当てはめようとしないでいいよ?正直に言っていいから。」
男「は、はい…」(そう言われると逆に答えづらいな…)
女「〇〇大学なんて、良い所出てるんじゃない。どうしてうちなんかに?」
男「えぇ、と。」
男「お恥ずかしい限りですが…履歴書に書きました通り、私は大学を出てから二年間、まだ職に就いていません。」
女「あれ、本当だ。卒業が二年前だね。」
男(え、気付いてなかったのかよ…)
女「うん、それで?」
男(しかもスルー!?)
女「どうしたの?続けて?」
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:10:49.62 ID:8umytB1B0
男「あっ、はい。働こうと決めて、求人広告を見ていたらこの会社の名前を見かけました。」
男「学生の頃に洋服が好きだったので、」
男「バイトをしてお金を貯めて、たまになんですが、ここの服を買わせて頂いていたのを思い出しました。」
男「どのような形でも好きなことに関わる仕事が出来れば、」
男「俺でも続けられそうかな、と思いまして。」
女「ふむ…。洋服が好きなんだ?」
男「はい、好きなだけでセンスは無いと思いますが。」
女「えっ、と…。」
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:12:40.23 ID:8umytB1B0
女「えっ、と。うちの会社は、凄く小さいです。従業員も私を入れて三人。」
男(…?)
女「やっていることは殆んど趣味みたいなもので、規模が小さいから利益も殆んど出ていないんだ。」
女「お金儲けが目的では無いから私はそれでいいんだけど、お給料は雀の涙だよ。申し訳ないんだけれど。」
女「でもみんな文句言いながらも一生懸命やってくれてるから、有難いんだけどね?」
男「はぁ」
女「あははっ、随分気の抜けた返事だねぇ」にこっ
男「もっ、申し訳ありません」
女「まぁいいや、採用っ!」
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:16:29.49 ID:8umytB1B0
男「えっ?」
女「何?嫌なの?」
男「あ、いえ。普通もっと後日に連絡が来たりするものだと。」
女「善は急げって言うじゃない。じゃあ明日は9時に来てね。」
男「え、あっ、はい。」
女「あ、服装は自由だから。でも他所様に伺うときはフォーマルな格好で行くから、ロッカーに一式入れとけばいいんじゃないかな。」
男「はい…」(服装自由とか逆に困るっての…どうするかなぁ)
女「まぁ書類とか手続き関係は後日ってことで。悪いんだけど私、もう出なくちゃいけなくてねぇ。」
男「あ、お忙しい所お時間頂きまして有り難うございました。明日から宜しくお願いします。」ぺこり
女「だからそんなに畏まらなくていいってば。これから一緒に働くんだから。ね?」
男「あ、はい…」
女「じゃ私出るけど、駅まで一緒に行く?」
男「あ、はい。ご一緒させて頂きます。」
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:19:48.07 ID:8umytB1B0
しとしとしと…
女「んー、雨の季節だねぇ」
男「はい、もう梅雨入りしたんですよね。」
女「雨ってさ、部屋に籠って作業とかしてる分には好きなんだけどなぁ。」
男「あ、なんか分かりますそれ。」
女「なんかアンニュイっていうか。でも意外と作業は捗っちゃったりして。」
男「外に居る人たちは傘さして歩いてんのか、って思うと優越感だったり。」
女「ははっ、そうそう。あー、うちの会社雨の日はお休みにしようかなぁ。今日は各々自宅で作業してください、ってさ。」
男「あははは。それ賛成です。でも梅雨明けするまでは休みだらけになっちゃいますよ?」
女「おおっ!」
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:21:43.17 ID:8umytB1B0
男「え?何ですか?」
女「男君が笑ったの初めて見たなぁ、と思って。」にこっ
男「あぁ、見苦しいものをお見せしてしまって。」
女「いやいやっ、人間は笑った方がいいんだよ。寂聴さんが言ってたよ。」
男「意外と渋い趣味をお持ちなようで。」
女「あ、私は総武線なんだけど男君は?」
男「あぁ、千代田線です。じゃあここで。」
女「うん。じゃ改めて、明日から宜しくね。」
男「はい、宜しくお願いします。失礼します。」
女「はーい、じゃねー。」
しとしとしと…
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:27:42.72 ID:NcldIWck0 舞台は御茶ノ水か
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:35:34.92 ID:8umytB1B0 >>32 発覚早すぎワロタwww
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:30:54.14 ID:8umytB1B0
――翌日 事務所
がちゃっ
男「お早うございます。」
パタンナー女「…お早うございます。」
女「おっ、来たね。おはよっ!」
女「じゃ、男君のデスクはこれなので、今日からしっかり業務に励んでねっ」にこっ
女「とりあえず我が社員のメンバー紹介、なんだけど。まだ一人来てないんだよねぇ。」
パタンナー女「…彼は昨日も帰りに千葉方面では無く東京方面の電車に乗っていた。」
女「――はぁ…。今日も朝まで飲んで遅刻、ね。そろそろ減給しちゃおうかしら?」にやりっ
パタンナー女「…我が社のこれ以上の減給は、基本的人権が保証されている日本国に於てあってはならないこと。違憲。違法。」
女「むむぅ…」
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:32:33.28 ID:8umytB1B0
男(――ひょっとして…。この職場の人って皆…)
がちゃっ
デザイナー男「ややっ、これはこれは皆さん。お揃いのようで。」
女「…あら、デザイナー男さん?今日もお早い出勤ねぇ?」ぴきっ
デザイナー男「――痛いっ!女っ、やめろ!革靴の先端で臑を蹴るのは反則だっ!」
男(――皆…変わってる?)
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:33:35.73 ID:ErXiSoms0 このパタンナーは絶対メガネかけてる あとボブに近いショートカット
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:34:55.53 ID:bvsgdbjqO >>36 いや、もう長門って言えよ
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:39:32.27 ID:8umytB1B0
しゅごーっ ぷしゅーっ
女「ん。よしっ、と。」
女「みんな飲み物は行き渡ったよね?」
男(会社にスチーマー付のエスプレッソマシーンがあるのかよ…)
女「さてさて。じゃあ改めて自己紹介ターイム!」
デザイナー男「おやおや、なんか合コンみたいだねぇ。」
女「…は?」ぴきっ
デザイナー男「ごめんなさい許して下さい、黙りますから。臑だけは止めて下さい。」
パタンナー女「…口は禍の門。」
女「第一ねっ、私は合コンなんて行ったこと無いんだからね!あ、一度も誘われなかったんじゃなくて、興味が最初から無かったんですっ。アンダスタン?」
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:42:30.24 ID:8umytB1B0
男「えーと、自己紹介。俺からでいいですか?」
デザイナー男「おぉ、ついに我が社の混沌と化した会話の舵を取るキャラが!」
パタンナー女「…まず自らが混沌の大きな要因だということを自覚すべき。」
女「はい皆黙る!男君が喋れないでしょ!」
男「今日からお世話になる男です。出来るだけ早く仕事を覚えて皆さんの力になれるよう頑張りたいと思っています。よろしくお願いします。」
女「はい。男君は総合職ってことで、まぁ色々やってもらうことになるんだけど。とりあえずそのお話はまた後でね。」
男「はい。」
女「じゃ次、パタンナー女ちゃんっ。」
パタンナー女「…名前はパタンナー女。よろしく。」
デザイナー男「えっ、それだけ?」
パタンナー女「…質問があれば適宜答える。以上。」
デザイナー男「まぁ、こういう奴だけど、(たぶん俺以外には)怒ってる訳じゃないからさ。安心していいよ。」
男「は、はぁ…」
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:47:48.39 ID:isM0nYDM0
パタンナーってなに?
パンナコッタ?
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:53:05.32 ID:8umytB1B0
>>46 いずれそのお話も入ると思いますが、パターンっていうのはデザイナーがデザインした画を元に、
どのように生地をカットして縫い合わせればいいかの型紙を作る人です。
デザイナーとは違った技術を要求されます。説明が後になってごめんなさいっ!
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:55:35.24 ID:8umytB1B0
>>50 失礼しました、型紙を作ることを「パターン」それを行う人が「パタンナー」と呼ばれます。
パンナコッタ食べたい
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:48:57.14 ID:8umytB1B0
デザイナー男「んで、俺がデザイナー男ね。今まで男は俺一人だったからさ、嬉しいよ。一緒に頑張ろう。」
男「はい、宜しくお願いします。」
女「んで、私が女ね。まぁ一応形の上では社長ってことになってるんだけど、本職はデザインだからさ。 外とのお仕事とかを少しずつ男君に任せていきたいなって思ってます。あ、これも後で話すね。おとめ座AB型!よろしく!」
男「宜しくお願いします。」
女「じゃ、今日の朝礼はこれくらいかな?二人は引き続き作業に当たってもらう感じで、何かあれば私のところまで。男君は朝礼終わったらここに残ってね、色々説明するから。」
女「じゃ、皆。今日も宜しくお願いします。」
パタンナー女「…宜しくお願いします。」
デザイナー男「ほい、宜しく。」
男「宜しくお願いします。」
―。
――。
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 13:58:08.48 ID:8umytB1B0
女「さてさて、男くん。」
男「はい。」
女「今日から男君は、我が社の社員の一人として身を粉にして働いて貰う訳なんだけれど。」
男「はい。」
女「なんと、我が社は現在10月に控える来年のS/Sのコレクションに向けて制作期真っ只中です!」ぱちぱちぱち
男「えーと、すいません。エスエスっていうのは。」
女「あぁ、ごめんごめん。S/SはSpring/Summerの略称で、春夏(物)ってこと。 コレクションってのはモデルさんに洋服を着て貰って作品を紹介するショーのことね。 ほら、『パリコレ』とか聞いたことあるでしょ?あれはパリで行われる世界最高峰のコレクションのことなんだ。」
男「あぁ、なるほど。つまり10月にもう来年の春夏物の発表をしてしまう、と。」
女「そうそう。せっかちで気が早い業界なのよー。えとっ、それで。男君のお仕事についてだね。」
男「はい。」
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 14:02:16.73 ID:8umytB1B0
女「男君は今日から総合職、普通の会社でいったら総務ってところかなぁ。それをやって貰います。」
男「はい。」
女「それでゆくゆくは、問い合わせしてくれた販売店さんとかセレクトショップさんなんかに説明をしに行く営業みたいなことも、少しずつやって貰いたいと考えているのね?」
男「大変そうですね…」
女「うーん、楽な仕事ではないかな。でも初めは私が付いて教えながらやるから。」
女「ほら、うちは他の二人があぁじゃない?だから今は私が細かい手続きとか、他所様との仕事をやってるんだけれど。」
男(まぁ確かにあの二人に営業が出来るとは思えないな…)
女「やっぱり一人だと限界があるんだよね。服を作る仕事もしなきゃいけないし。」
女「だから、ね?男君が慣れてきたら、そういう仕事はお任せしちゃいたいと考えてるんだ。」
女「あぁ、勿論報告と相談はしてもらうんだけどね?」にこっ
男「はい、頑張ります。」
女「それで、だ。」
男「はい。」
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 14:07:18.00 ID:8umytB1B0
女「あぁ、そっか。ちょっと待ってて?」
男「え、はい。」
とてててて。
がちゃ ぱたん
がさごそ
女「んー、どれがいいかなぁ」
がさごそ
女「うーん、やっぱりこれかな?」
男(…?)
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 14:08:21.67 ID:8umytB1B0
とててて。
がちゃ
女「ん、お待たせっ。」
ぱたん
男「いえ。…それは?」
女「これはね、次のシーズンに向けて今作ってるメンズのパーカーなんだ。まだ試作品なんだけどね。」
男「へぇ、かっこいいですね。」
女「そう?えへへっ、ありがとう。」にこっ
男(――。)
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 14:13:51.15 ID:8umytB1B0
女「それでね?」
男「ああっ、はいっ。」あせっ
女「これ、どうやって出来てるか。分かる?」
男「えっ、いや…全然分からないです。」
女「うん。まぁ、そりゃそうだよね。じゃ売るときに値段が幾らくらいになると思う?」
男「えーと…1万5千円位でしょうか?」
女「うーん、残念っ。大体その倍くらいかなぁ。」
男「えっ」
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 14:14:54.47 ID:8umytB1B0
女「高いと思う?」
男「はい、正直…。」
女「でもね、この商品でこの値段って会社として、必要な利益が出るギリギリのラインなんだ」
男「そんなにですか?」
女「うん。確かに高いけどね?それにはちゃんとした理由があって、値段が付いてるんだよ。」
男「理由、ですか?」
女「それを、まず分かって貰おうと思うんだ。どうやって洋服が出来ていて、何でこの値段になるのか。」
男「…人に胸を張って勧められるように?」
女「そう!分かってるじゃない、偉い偉いっ!」にこっ
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 14:16:05.66 ID:8umytB1B0
男「ええと。それで俺は何をすれば?」
女「明日、出掛けるよ。動きやすい格好してきて貰えればいいかなぁ。」
男「え?どこにです?」
女「ふふーん、まだ秘密!」
男「はぁ。」
女「あ、今日は事務の細かい仕事を少しずつ教えていくよー。」
男「はい、お願いします。」
―。
――。
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 14:49:52.14 ID:8umytB1B0
女(うーん、駄目だぁ。資料室に籠ってても全然思い浮かばないや。)
女(あ、そういえば男君は教えといたファイルの処理終わったかな?)
女(よいしょ…っと。)
とててて。
がちゃっ
女「やっほ、男君。どんな感じー?」
男「あ、はい。今、原画をフォトショに取り込んで、シーズン毎に並べ直した所です。デザイナー男さんと女さんの画は一応別けてあります。」
女「えっ、なにそれ凄いっ!」
男「いえ…。」
デザイナー男「どれどれ? ――へぇ、パソコンってこんなことも出来るのか。」
パタンナー女「…アナログ人間の巣窟である我が社には貴重な能力。デジタル化。」
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 14:54:32.18 ID:8umytB1B0
女「え?なに?私頑張って教えなきゃ、とか思ってたのが凄い恥ずかしいんですけど!」
男「いえ、やっぱり知らないソフトの使い方は教えていただかないと何もできませんよ。」
女「え、いやいやぁ」にへらっ
パタンナー女「…部下に顔を立てられる上司の図。」
女「うっ…」
デザイナー男「ってか社長さん、もう定時だ。男君は上がりじゃないの?」
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 14:57:12.58 ID:8umytB1B0
女「いけない、本当だ。男君上がりですっ、お疲れ様!」
男「え、あぁ。はい。」
女「明日も9時に来てね!お姉さんとイ・イ・ト・コ・ロに行く約束だからねー!」
男「あ、はい。」
デザイナー男「なんだよそれ?お姉さん、俺も連れてって欲しいんだけど!」
女「あんたはいいの。黙って仕事しなさい?」
デザイナー男「はい…」
女「じゃ、男君。また明日ね!」
デザイナー男「お疲れ!今度一緒に飲みに行こう!」
パタンナー女「…悪の誘いに乗ってはいけない。お疲れ様。」
男「はい、お先失礼します。」ぺこり
きぃ ぱたん
―。
――。
90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:03:11.14 ID:8umytB1B0 ――翌日 事務所
がちゃ
男「お早うございます。」
パタンナー女「…お早う。」
女「おっはーっ!」
パタンナー女「…古い。時代を感じる。」
女「うぐっ…。し、しかしマヨネーズは正義だよ?」
パタンナー女「…あれは卵から出来た油。コレステロールの塊。絶対悪。」
女「む、むぅ…。」
男「タイムカード押しちゃいますねー。」
がしゃこん
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:04:57.90 ID:8umytB1B0
女「よし、じゃ少し早いけど朝礼。始めようかっ。」
男「え、デザイナー男さんはいいんですか?」
女「あぁ、デザイナー男君は始発で帰ったからさ。今日は昼から出ればいいって言ってあるんだ。」
パタンナー女「…昼夜逆転。ダメ男の典型。」
女「まぁまぁ、そう言わずにさ。よし、じゃまずはコーヒー淹れようかなっ。」
とててて。
しゅごーっ ぷしゅー
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:09:06.45 ID:8umytB1B0
男「あの、気になってたんですけど。あれ、エスプレッソマシーンですよね。凄い高そうな。」
パタンナー女「…社長の趣味。昔、洋服のデザインと引き換えに貰ったものらしい。」
男「なんか凄いですね…」
女「男君、なにがいいー?エスプレッソ、ラテ、カプチーノ、ブラック、アメリカンと何でもござれだよー。」
男「あ、ブラックでお願いします。」
女「あいあいー。」
しゅごーっ ぷしゅー
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:14:54.30 ID:8umytB1B0
女「よし、っと。それじゃ朝礼始めるね。」
女「まずは今日の予定から。朝礼終わったら私と男君は出るから。帰りは夕方になるかなぁ。」
男(夕方って…いったいどこ行くんだ?)
女「直帰するか戻るかは追って連絡するから。パタンナー女ちゃん電話番よろしく。何かあったら私の携帯に連絡入れてね。」
パタンナー女「…了解。ダメ男はどうする?」
女「12時になっても来ない場合は寝てる可能性大だから、家に電話してあげて。 あ、あとレーヨンのカットソー、あれまだデザインいじるかも知れないから、まだパターン引かなくていいよ。」
パタンナー女「…了解。」
女「よしっと。んじゃ皆今日も宜しくお願いします。」
パタンナー女「…宜しくお願いします。」
男「宜しくお願いします。」
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:18:26.57 ID:8umytB1B0
がたんごとん がたんごとん…
男「女さん、そろそろ教えてくださいよ。どこ行くんですか?」
女「うーん、まぁいいかぁ。今から行くのは綿花を栽培してる農家さんの所だよ。」
男「綿花、ですか」
女「うん、服が出来るまでのスタート地点だよね。」
男「まぁ、確かに。」
女「何年か前から綿はそこの農家さんの所のを使わせて貰ってるんだ。」
男「ほう」
女「男君。オーガニックコットンって、知ってる?」
男「えぇ、聞いたことはあります。」
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:23:47.54 ID:8umytB1B0
女「なら話は早いね。まぁ要は化学肥料とか農薬を使わないで育てた綿のことなんだけどね?」
男「無農薬栽培、ですか。」
女「うん。しかも正式には過去三年間、化学肥料とか農薬を使ってない土地じゃないとオーガニックだって認められないらしくて。」
男「厳しいんですね。」
女「うん。綿ってさ、柔らかいから虫も大好きな訳だよ。」
男「なら無農薬で育てるのは大変そうですね。」
女「そう。普通、綿花の畑には大量の農薬が使われるものなんだって。」
男「ふむ。」
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:25:38.14 ID:8umytB1B0
女「綿って水分を吸いやすいし、根っこから吸収した農薬は洗っても流せないよね。」
男「えぇ」
女「だからね。普段私たちが身に付けている衣服は農薬が残留してるものが殆どなんだ。」
男「なんだか恐ろしい話ですね。」
女「特に肌にアレルギーを持ってる人だね。 かぶれちゃったり、痒くなっちゃったりするから。大事な事なんだよ。」
男「…なるほど。無農薬は手間がかかるし取れる量も少なくなる。これが値段が張ってしまう理由ですか。」
女「勘が鋭くて助かるなぁ。うん。まぁ幾つかある理由の一つ、だね。」
男「ふむ…」
車掌「次はー、〇〇。〇〇です。お降りの方はお忘れものございませんよう…」
女「お、ちょうど着くね。降りるよっ。」
男「あ、はい。」
がたんごとん がたんごとん…
―。
――。
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:30:31.59 ID:8umytB1B0
女「ほい、ここだよっ。」
男「うわ、広いですね…」
女「あっ、おじさーん!お久し振りですー!」
農家「あぁ、なんだお前また来たのか。」
女「はは、毎回毎回そんなに邪険にしないでくださいよ。」
農家「今日は何の用だ。」
女「今年もいい綿が出来てるかなー、って視察と。」
農家「当たり前だ。今年はここ数年で一番いい。」
女「おっ、それは期待しちゃいますよ。」にやっ
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:35:04.63 ID:8umytB1B0 女「あと、うちにニューフェイスが来たので。彼にここを見て貰いたくて。」
男「男です。宜しくお願いします。」ぺこり
農家「…ふん。見るのは勝手だが邪魔はするなよ。」
女「あ、今日は男君が是非お手伝いをしたいとのことなので!」
男(えっ!?)
農家「…今から虫取りだ。着いてこい。」
ざっざっざっ…
男「あ、えっ?」(虫取り?…クワガタ?)
女「頑張ってねっ!」にこっ
農家「おい!さっさと来い!」
男「は、はいっ!」
ざっざっざっ…
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:42:28.59 ID:8umytB1B0
女「ふぅ…」(さて、と。男君には悪いけど、私は日陰で見学と洒落込みますかねっ。)
女(結局昨日も眠れなかったしなぁ。一度家に帰れたのが救いだね。家が事務所の近くでよかったぁ。)
女(やばい、また倒れる前に点滴打ちに行かないと…)ふらっ
ピルルルル ピルルルル
女(くそう…誰よ)
ぱかっ
女(――はぁ、よりによって…)
ぴっ
女「はい、女です。」
―。
――。
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:48:13.34 ID:8umytB1B0
農家「虫は大別して二種類いる。」
男「二種類、ですか?」
農家「こいつが綿を食う害虫。そしてこいつが、その害虫を食うために俺が放した益虫だ。」
男「あぁ、なるほど。そうやって農薬を使わない工夫をしてるんですね。」
農家「御託は要らん。害虫は殺せ。以上だ。」
男「は、はい。」
農家「お前が先に歩け。見逃した分は俺が取る。」
男「はい。」
農家「さっさと行け。」
男「は、はい。」(この人怖ぇよ…)
115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:52:16.85 ID:8umytB1B0
男「…。」
農家「…。」
男(き、気まずい…)
農家「おい。」
男「はっ、はいっ!」
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:53:47.71 ID:8umytB1B0
農家「あの女、あんな所で寝てるぞ。」
男「…え?」
女「すぅ、すぅ…」
男「…あ。」
農家「あれが俺の家だ。運んでやれ。」
男「えっ?」
農家「さっさと行け。」
男「は、はいっ。」
農家「台所のやかんに麦茶がある。持って戻ってこい。」
男「あ、はいっ。」
ざっざっざっ…
農家「…ふん。」
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 15:57:53.18 ID:8umytB1B0
男「女さん、こんなところで寝ちゃ駄目ですよ」ゆさゆさ
女「…すぅ、すぅ…。んぅ…」
男「女さーん?」ゆさゆさ
女「すぅ…すぅ…」
男(駄目、か。てかよく見ると目の下クマあるじゃんかよ…)
女「ん…すぅ…」
男(なるほど、どうやらこれが役得って奴みたいだな。)
男「んしょ、っと。」
女「すぅ…すぅ…」
男(軽いなぁ。ちゃんとメシ食ってんのかなぁ。)
女「…すぅ」
男(寝息がっ…!いかんいかん、素数をっ、素数を数えるんだ!)
女「ん、くふぅ…。すぅ…」
男(2、3、5、7、11、13、17、19、23、29……。)
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:01:20.68 ID:8umytB1B0 ―。
――。
男「すいません、お待たせしました。」
農家「まぁいい。麦茶、二つ注げ。」
男「あ、はい。」
とぷとぷとぷ
農家「飲め。」
男「あ、頂きます。」
農家「…。」
ごくっごくっごくっ
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:03:40.71 ID:8umytB1B0
男「ぷはっ、うまいです。」
農家「ただの麦茶だ。世辞はいらん。」
男「いや、やっぱり汗を流した後は冷やした麦茶ですよ。」
農家「…口の上手い奴はどうも信用できん。」
男「ははは、そうですか。」にこっ
農家「信用できん…が、あの女が選んだ部下だ。」
男「女さん、ですか?」
農家「あんな小娘だが中々見所のある奴だ、あれは。」
男「――俺も、そう思います。」
124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:08:08.00 ID:8umytB1B0
農家「…ふん。喋りすぎた。女が起きたら連れて帰れ。俺はまだ畑に用がある。」
ざっざっざっ…
男「あ、あのっ!」
農家「…なんだ。」
男「ありがとうございました!」ぺこり
農家「…ふん。」
農家「あぁ。あの女に伝えておけ。」
男「はい?」
―。
――。
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:12:43.08 ID:8umytB1B0
女(…あれ?ここ何処だろう?)
女(あったかい…)
女(深くて、温かい泥の中みたいな…)
女(え、あれは…お母さん?)
女母「…。」
女(…っ!)
女(お母さん!何処行ってたのよ!)
女(私、ずっと…っ。ずっと探してたんだからね!ねぇお母さんっ!)
女母「…。」ふるふる
女(なんか言ってよ!首振るだけじゃ何も分かんないよ!ねぇっ、ねえ!)
女母「…。」ぺこり
女(お母さん!何処行くの、駄目っ!何か答えてよ!)
127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:14:48.36 ID:8umytB1B0
女母「…。」にこっ
とてとてとて…
女(お母さん!行っちゃ駄目!どうしてそうやって逃げるの!?ねぇ!)
――さん。
女(もう、何で足が動かないのよ!お母さん待って!待ってっ!)
とてとてとて…
――女さんっ。
女(もう、誰よ!邪魔しないでよ!お母さんっ!)
――女さんっ。起きてください。会社戻りますよ。
女(…へ?会社?)
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:16:25.66 ID:8umytB1B0
ぱちっ
男「あぁ、お早うございます。すいません起こしちゃって。」
女「あれ?…あ、ねぇお母さんは?何処行ったの?追いかけないと…」ぽけー
男「へっ?」
女「えっ?」
男「…あぁ、お母さんの夢を見てたんですか?」くすっ
女「――っ!あっ、いや!あのっ!ち、違うんだ!違うんだよ男君っ!」かああっ
男「あははは、そんなに焦らなくて大丈夫ですよ。」
女「い、いやっ!そうじゃなくてっ!」あせあせっ
男「農家さんがもう帰って良いって言ってました。会社戻りましょう。」
女「…分かった。」(むう。なんだい、年下の癖に妙に大人ぶっちゃってさっ)
男「行きましょう。今戻れば夕方前には着けそうです。」
女(なんか…母親の夢見るなんてこっちが年下みたいで恥ずかしいじゃないのさ、うぅ…。)
131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:18:45.52 ID:8umytB1B0
女(もう、消化した筈だったんだけどなぁ…。)
男「…女さん?」
女「あ、あひゃい!?う、うん分かった、行こうかっ!」あせっ
男(…?)
男「――あぁ、そうだ。女さん。農家さんが女さんに伝言を、と。」
女「へ?伝言?」
男「はい、『去年と同じ量を用意しておく。俺の綿を使うからにはいい仕事をしろ。』だそうです。」
女「あははは、おじさんも相変わらずツンデレだなぁ。」
男「ははっ。ええ、全くです。」
女「ん、何か元気出たなっ。来て良かった。よし、じゃあ戻ろうか!」にこっ
男「はい。」
―。
――。
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:29:28.58 ID:8umytB1B0
――同刻 事務所
がちゃ
デザイナー男「うぃ、おはよー。」
デザイナー男(…って、あれ?誰もいないのか?)
デザイナー男(まぁいいや、眠い。とりあえずコーヒー飲みてぇ。)
ぷしゅーっ しゅこー
デザイナー男(わざわざ屋上の喫煙所まで煙草吸いに行くのかったるいな…)
デザイナー男(誰も居ないし、いいかぁ。)
しゅぼっ じりじりっ…
デザイナー男「ふーっ…」(しかし何で誰もいないんだ?あぁ、資料室に誰か居ねぇかな。)
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:31:40.08 ID:8umytB1B0
がちゃっ
デザイナー男「おいおい、なんだよ。居るじゃんかよ。」
パタンナー女「…!」あせっ
デザイナー男「よっ。資料なんか漁って何してんの?」
パタンナー女「…くっ、来るな。煙草。事務所内禁煙。」
デザイナー男「ありゃ、そうでした。消してくるわ。」
パタンナー女「…ついでに私にもコーヒー。ブラック。」
デザイナー男「へいへい。お嬢様少々お待ち下さいねっと。」
パタンナー女(…危ない、所だった。早く片付けないと。)あせっ
ぷしゅーっ しゅこーっ
―。
――。
149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:36:52.87 ID:8umytB1B0
――夕方 事務所
がちゃ
女「ただいまー。」
男「戻りました。」
デザイナー男「おお、お帰り。お土産は?」
女「ほい、コージコーナーのコーヒーゼリー!」
デザイナー男「おっ、いいね。」
女「コーヒーゼリーなら太らないからねっ。」にぱっ
男(そんなことないと思うけど。)
151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:39:06.26 ID:8umytB1B0
デザイナー男「ちょうど行き詰ってた所だったんだわ。皆のコーヒー淹れるよ。」
男「あ、そんな俺がやります。」
デザイナー男「ああ、いいって。座ってなよ。」
男「あ、はい。じゃ、お願いします。」ぺこり
ういーん ぷしゅーっ しゅこー
パタンナー女「…社長、上から電話があった。」
女「あぁ、わざわざ私の携帯に掛け直してくれたよ。これ食べたら行かなきゃなんだ。」
154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:41:58.71 ID:8umytB1B0
男「…上?」
女「あぁ。うちの親会社のことね。うちは一応独立した会社なんだけど、
株式とか色々そこが持ってるからさ。意味合い的にも法的にも子会社ってことになるんだ。」
男「ふむふむ。」
デザイナー男「お待たせ、っと。まぁ口煩いだけの連中だよ。愛想笑いして頭下げてる分には実害は殆ど無いさ。」
パタンナー女「…あいつらは嫌いだ。」
女「こらこら、こうやってやってけるのも上のおかげなんだから。そう文句ばっか言わないの。さ、食べるよ!私の奢りだから心して食すように!」
パタンナー女「…頂きます。」はむっ
男「頂きます。」ぱくっ
女(デザイナー男君。後でちょっと。)ぼそっ
デザイナー男(…ん、了解。)ぼそっ
女「うん、美味しい!」はむっ
デザイナー男「ん、やっぱりシュークリームよりもこっちだよなぁ。」ぱくっ
―。
――。
157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:46:16.11 ID:8umytB1B0
女「じゃ、行ってくるね。皆定時になったら自由に切り上げちゃっていいから。」
パタンナー女「…了解。行ってらっしゃい。」
男「はい、行ってらっしゃい。」
デザイナー男「さて、俺は屋上で一服してくるかね。」
パタンナー女「…サボリ。良くない。」
女「まぁまぁ。じゃ、また明日ねっ!」
がちゃ ぱたん
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:33:10.50 ID:tiHPdQORO ブランドはどういう設定?
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:53:13.38 ID:8umytB1B0 >>146 大手アパレルの形式上は子会社。ドメブラで、昨年から所謂「東コレ」に参加。
ターゲットは20~30くらいの会社員。大学生も。
東コレ参加シーズンよりウィメンズの製作も開始。フラッグショップは構えていないのでセレクトショップやzozoなどで販売している。
質の高さの割りに低い価格設定のため売り上げはそこそこあるが、経営は苦しい。
って感じでしょうか。正直設定甘いです。ちゃんと投下もするんで臑蹴らないで下さい。ww
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:54:47.76 ID:8umytB1B0
――屋上 喫煙所
しゅぼっ じりじり…
デザイナー男「ふぅーっ…。――それで?」
女「さっきの上の件なんだけどね。」
デザイナー男「あぁ。これから会議だろ?ご苦労様だな。」ふぅーっ
女「それが…。どうやら今回は本気みたいなんだよね。」
デザイナー男「…あぁ。――そりゃ、参ったな。」ぽりぽり
女「まぁ会議出てみないと分かんないんだけど、多分。」
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:57:15.39 ID:8umytB1B0
デザイナー男「…あっちも本腰入れないと、ってことか。」
女「うん。お願い、していい?」
デザイナー男「…了解。」
女「ま、そういうことで。じゃ行ってくるねっ。」
デザイナー男「あぁ、頼んだ。」
女「内容は連絡入れるから。」
デザイナー男「了解。…色々押しつけて済まない。」
女「いいのいいの。じゃねっ。」
とてとてとて…
デザイナー男「ふぅーっ…」(…さて、と。どうするかなぁ。)
166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 16:59:12.21 ID:8umytB1B0
――数週間後 事務所
ガガガガガガガ…
女「――で、出来たぁ…」くたぁ
パタンナー女「…今時プロのデザイナーが試作のミシンを踏むのは珍しい光景。世界遺産。」
デザイナー男「どれどれ?…メンズのジャケットね。へぇ、アームホールは一部切り返しか。面白いねぇ。」
女「へへん、今作は自信作ですっ。袖裏も半分で切り返して違う柄を使用しています!」
デザイナー男「ほう、芸が細かいねぇ。」
女「へへへん。あっ、男君!」
男「え、はい?」
167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:00:41.27 ID:J/j9yFzd0 >>166 ミシン?今、服飾関係のデザインって
ホールガーメントっていう全自動の織機で編むんじゃないの?
171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:04:14.00 ID:8umytB1B0
>>167 布になった状態から縫っている設定です。俺も全然詳しくないので…
そこでお仕事されてる方から見ると変かも知れませんがご容赦をっ。
168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:01:08.74 ID:8umytB1B0
女「ちょっとこれ着てみて!」
男「へ?俺がですか?」
女「ほい!サイズは大体合ってるはずだから。」
男「はぁ」
するっ
男「えっ…?」
女「どう?どう?」わくわく
男「え、これ凄い軽い…です。」
デザイナー男「うん、かっこいいじゃん。俺も早くボトム考えないとなぁ。」
パタンナー女(…あのジャケットは一昨日私がパターン引いたばかり。それであの出来?)
172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:05:33.24 ID:8umytB1B0
男「なるほど、春夏ならこれくらいの生地感が丁度いいんですね。」
パタンナー女(…これだから社長には敵わない。)
女「ふふん、気に入った?」
男「あ、はい。着やすいだけじゃなくて凄いかっこいいです。」
女「ふふふんっ。でしょでしょ?」にぱっ
パタンナー女(…っ。何が足りない?才能?努力?)
女「あ、それ一度縫製の工場にサンプルとして預けるけど、返ってきたら男君にあげるからっ!」
男「え?いいんですか?」
女「もちろん!」にこっ
173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:07:28.05 ID:8umytB1B0
女「あ、みんな時間取らせてごめんっ。作業に戻ってー。」
デザイナー男「うし、俺もテンポあげるかね。」
パタンナー女「…雑な仕事にならないように。ダメ男は社長ほど器用じゃない。」
デザイナー男「うっ…。」
女「あははは、えへんっ。私これでもチーフデザイナーですからっ!」
男(よく分かんないけど、やっぱ女さんって凄い人なんだな…)
―。
――。
175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:10:01.72 ID:8umytB1B0
女「男君、定時だよー。お疲れ様、お上がりなさいっ。」
男「あの、」
女「ん?」
男「俺、いつも帰るの最初ですよね。皆さん何時まで残ってるんですか?」
女「あははっ、まぁ今は制作期だからね。でも日に依るよ?」(ううっ、今日で会社に三泊目だなんて社長としても女としても言えない…)
男「ふむ。女さん。」
女「ん?なに?」
男「時間がある時でいいので…」
女(え?なに?これっ。ひょっとして… い、イマドキOLが経験するという後輩からのデ、デートの誘いって奴ですかっ!?ち、ちょ待っ!)あたふたっ
176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:12:23.89 ID:Toug/KIm0 女社長が可愛すぎるwwww
177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:14:06.91 ID:8umytB1B0
男「事務とか細かい仕事を俺にもっと教えて貰えませんか?」
女「…へっ?」ぽかーん
男「あ、いや。俺も段々慣れてきましたし。女さんに制作に集中して貰えるように出来るだけ仕事覚えたいな、と。」
女「うーん。男君はよくやってくれてるよ。元からパソコンが得意だったみたいだし、かなり助かってる。既に貴重な戦力だよ。」
男「いえ。まだ出来ます。やらせて下さい。」
女「そう言ってくれるなら、もう少しお仕事任せちゃうけど…本当にいいの?」
男「はい、お願いします。一人だけ定時上がりの仲間はずれは良くないですよ。」
女「あははは、じゃあ今から帳簿関係も教えちゃおうかなっ。」
男「はい、スポンジの如き吸収力を発揮します。」(この人…笑った顔がいいなぁ。)
女「あはははっ、男君って真顔で冗談言うよね。」にぱあっ
男(くそ、この人は俺にどこまで素数を数えさせるつもりなんだ…)
女「じゃ、準備してくるからちょっと待っててねっ」
とてててて
男(――277、281、283、293、307、311、313、317、331…)
178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:14:53.21 ID:Ti20PGKy0 数えすぎwwwwwwww
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:49:57.38 ID:8umytB1B0 ――数日後 事務所
女「じゃ、朝礼始めるよー。」
男「あ、じゃ俺コーヒー淹れます。」
デザイナー男「お、よろしく。俺ブラックで。」
女「私カプチーノね!」
パタンナー女「…ブラック。」
男「はーい。」
女「さてさて。皆の衆、改めておはよう。朝礼始めるねー。」
女「まずは一日の予定だけど、私はお昼くらいまで男君と出てくるから。留守番よろしく。」
男「えっ?」
188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:51:20.40 ID:8umytB1B0
女「ごめん、事前連絡し忘れちゃってて…。」
デザイナー男「ははは、ドジっ子属性か。」
パタンナー女「…黙れ。アニメイト行ってろ。」
男(…最近突っ込みが酷くなってきてないか?)
女「それで、だ。二人はいつも通り作業お願い。デザイナー男君、デニムのデザイン画いつ上がりそう?」
デザイナー男「もう詰めの段階だから、今日中には仕上げるよ。」
女「うし、皆からは何かある?」
女「無いようならこれで。じゃ、皆今日も宜しくお願いします。」
男「宜しくお願いします。」
パタンナー女「…お願いします。」
デザイナー男「よろしくー。」
192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:53:57.34 ID:8umytB1B0
女「じゃーん!今日は社用車ですっ!」
男「おお、初めて乗ります。」
女「じゃ、運転宜しくっ!」
男「いいですけど、目的地も道も分かりませんよ。」
女「ふふん、大丈夫。こないだデザイナー男君が自腹切った(切らせた)最新式カーナビが付いてるから!」
女「設定、っと」ぴぴぴっ
男「また道すがら目的地の説明ですか?」
女「ま、そうだね。じゃ、安全運転でお願いします!」
男「はーい。」
ぶおん ぶーん…
193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:55:25.22 ID:JpwRc5zQO
くそっ!何で俺の上司は女みたいじゃないんだ!くそっ!
こんな女社長がいたら一生の忠誠を誓うぜ
194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:56:19.40 ID:8umytB1B0
――数時間後 事務所
デザイナー男「――なぁ、パタンナー女さんよ。」
パタンナー女「…何用。」
デザイナー男「そういえば、何でうちの会社入ったの?」
パタンナー女「…何故聞く?」
デザイナー男「まぁ、個人的興味と業務的必要が6対4くらいかなぁ。」
パタンナー女「…話したくない、と言ったら?」
デザイナー男「うーん。駄目元で昼メシという釣り針を仕掛けてみる、かな?」
パタンナー女「…デザートは?」
デザイナー男「杏仁豆腐でどうだろうか?甘すぎず、さっぱりと、つるんと。」
パタンナー女「…冗談。奢って貰わなくてもいい。薄給はお互い様。」
デザイナー男「ほう、優しいな。」
195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 17:58:06.25 ID:8umytB1B0
パタンナー女「…社長が、居たから。」
デザイナー男「女が?」
パタンナー女「…私は元はデザイナー志望だった。」
デザイナー男「あぁ、聞いたことあるね。」
パタンナー女「…専門学校も同じだった。社長は一つ先輩だった。」
デザイナー男「ふむ。」
パタンナー女「…学園祭でショーがあった。コンテストのような。」
デザイナー男「あぁ、俺の学校にも似たようなものはあったな。」
197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 18:00:30.42 ID:8umytB1B0
パタンナー女「…社長は、自らのチームで作ったドレスを着てランウェイを颯爽と歩いた。眩しかった。」
デザイナー男「…まぁ、あの顔であのスタイルだもんな。下手なモデルより綺麗だ。」
パタンナー女「…憧れ、という感情を初めて持った。ずっと目標にしていた。」
デザイナー男「――。」
パタンナー女「…大手のアパレルに就職して数年後、社長が独立したという噂を聞いた。 いてもたっても居られなかった。」
デザイナー男「――それで、うちにアポ無しで半分殴り込みみたいに面接に来たって訳か。」
パタンナー女「…パタンナーとして雇われたけど、デザインを諦めた訳じゃない。いつか、追い付きたい。」
デザイナー男「まぁ、気持ちは分かる。俺もずっと二番手だからなぁ。」
パタンナー女「…。」
デザイナー男「よし、そろそろ昼メシ食いに行くか。約束通り奢ってやる。」
パタンナー女「…駅前の蕎麦屋の辛子かつ丼。味噌汁とお新香付き。」
デザイナー男「あははっ、随分重いものを食うなぁ。よし、任せろ。行こう。」
パタンナー女「…。」こくり
198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 18:03:08.16 ID:8umytB1B0 こっから更に俺も知識が無いマニアック分野に入るので、間違い等見逃してくださいっ!
199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 18:04:31.84 ID:8umytB1B0
ぶおん ぶーん…
女「それで、今から行くのは糸を織って布にする工場さんね。」
男「織る…ですか。」
女「本当は製糸も見て欲しかったんだけど。まぁ、それはまた今度ねっ」
男「はぁ。」
女「こないだ綿の畑見たよね。あそこで採れた綿花は、製糸って言って糸にされる訳なんだけど。」
男「ふむ。」
女「服は布の状態にしないと作れないよね。糸を布に変えるのが『織る』っていう作業なんだ。」
男「機織り機、とか聞いたことありますね。」
女「そうそう、大体そんなイメージね。 今は出来た状態の布を卸しから買うメーカーとか、 あと縫製をしないで服自体を織って作れる機械も開発されたからさ。 古臭いかもなんだけどさ、 やっぱり織りって大事だと思うから。直接織ってもらうようにお願いしに行くんだ。」
男「なるほど…」
201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 18:05:37.04 ID:Ti20PGKy0 勉強になります
202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 18:06:03.42 ID:8umytB1B0
女「ギャバジンっていう、織りがあってさ。」
男「ほう。」
女「ウールでもスーツとかによく使われるんだけどね、綿でギャバを使ったのはバーバリーがトレンチを作ったのが最初だって言われてるんだ。」
男「また高級そうな名前が出てきましたね。」
女「まぁ私も織り方についてはあまり詳しくないからさ、うまく説明出来ないんだけど。」
男「俺なんか織るって聞いても鶴の恩返し位しか思い浮かびません。」
女「ははっ、まぁ要は細い糸を細かく織ることで密度の高くて、しなやかな布が出来るって訳さ。ドレープが綺麗に出るのが大きな長所かな。」
男「ドレープ?」
女「あぁ。うーん、なんて言えば良いかな。ゆるやかな皺をデザインで意図的に作るんだよ。」
男「ふむ、まぁ要はそれもこだわりの点の一つってことですね。そして値が張る理由の一つ。」
女「うむ、物分りのいい部下を持って余は満足じゃ。」にまっ
『この先、300メートル先、右方向です。』
ぶおーん ぶーん…
205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 18:10:43.77 ID:8umytB1B0
がしゃこん がしゃこん がしゃこん
女「お久しぶりです。お忙しいところお邪魔して申し訳ないです。」ぺこり
工場長「あぁ、いいんですよ。特に忙しい訳でもありませんし。あ、お茶どうぞ。」
女「あ、頂きます。今日はこの間お願いした物を見せに来させて頂いたのと、 うちに一人新人が入ったので、彼にここを見て貰いたくて来ました。」
男「男です。よろしくお願いします。」(…ほっ、今回は優しそうなお爺ちゃんだな。)
工場長「はい、よろしくね。あぁ、それでこれがこの間発注してもらった綿ギャバです。」
女「ありがとうございます。――綺麗な玉虫調の光沢ですね…相変わらずいいお仕事をなさる。」
工場長「丁寧に織らせて頂きましたよ。今時うちみたいな小さな工場に発注をかける所も少なくなりましたしね。ははは。」
女「いえ、感謝しています。大きな工場ではなかなかこれほど手の込んだ仕事はして頂けませんし。」
工場長「まぁ、規模から来るコストの問題でしょうなぁ。頂いている料金に違う仕事は出来ませんよ。」
女「ははっ、うちも似たようなものです。遣り繰りが大変で。」
工場長「ははは、今後も陰ながら応援させて頂きますよ。」
女「いえ、こちらこそ今後とも宜しくお願いします。」
男(…あれ?俺空気?)
206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 18:13:25.12 ID:8umytB1B0
工場長「折角ですから、男さん少し中を見ていきませんか?」
男「いいんですか?」
工場長「ええ、こんな小さな工場でよければ。」
男「是非、お願いします。」
工場長「ええ。女さんはどうされます?」
女「ご一緒させて下さい。」
工場長「分かりました。じゃあ行きましょうか。」
がしゃこん がしゃこん…
工場長「これがうちの生命線ともいえる織機です。」
男「大きいですね…。」
工場長「織機というのは昔から基本的に経糸と緯糸を組み合わせて布を作るものです。 現在はその前に整経、仮筬、ビーミングなど多くの工程が必要ですが、 まぁ今回は置いておきましょう。」
男「はぁ」
210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 18:17:09.65 ID:8umytB1B0
工場長「今回お渡ししたギャバジンは60番より上の糸を使って織ります。」
男「えと。すいません、60番とは?」
女「簡単に言うと糸の細さの単位だね。数が大きくなるほど細くなるよ。」
工場長「はい、そして経糸の密度を緯糸の倍にします。 斜めの織り目と玉虫調の光沢、しっとりとした手触り。あとは防水性な高さが特徴でしょうか。」
男「綿なのに防水、ですか。」
工場長「いえ、『綿にしては』という所でしょうか。もちろん化学繊維には勝りません。」
男「それは密度の高い織りだから、ということですか?」
工場長「ええ。化学繊維の無かった時代、塹壕に篭らなければならなかった兵士のためにバーバリーが開発したのが祖と言われています。」
女「へぇ、なるほど。それは知りませんでした。」
―。
――。
212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 18:21:35.51 ID:8umytB1B0
男「工場長さん、今日はありがとうございました。」ぺこり
女「ありがとうございました。あと綿ギャバも。確かに頂きました。」ぺこり
工場長「いえいえ、たいしたお持て成しもできませんで。あ、女さん」
女「はい?」
工場長「今年も、いいお仕事を期待してます。頑張って下さいね。」
女「はい、ありがとうございます!」ぺこり
男 ぺこり
女「さて男君、帰りも安全運転で頼むよっ!」
男「お任せください。」
236 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 19:49:12.99 ID:3PLYTzB3O
――数日後 事務所
ちっ、ちっ、ちっ…
デザイナー男「…。」じいっ
ちっ、ちっ… ――かちっ
デザイナー男「18時だ!我々圧政に強いたげられた市民が改革に立ち上がる時間だ!」
パタンナー女「…家畜に神はいない。」
女「あら、今日は定時に上がって飲みに行くの?」
デザイナー男「あぁ、行くさ。今夜は浴びるように飲むさ。なぁ、男君?」
男「えっ?」
デザイナー男「ほれ、さっさと片付けしてさ。行こうぜ。いい店に連れてくから、さっ。」
男「え、あのっ。ちょっ…」
237 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 19:51:33.03 ID:3PLYTzB3O
デザイナー男「はい、光速で保存。シャットダウン。」かちかちっ
男「ははっ、分かりました。行きましょう。」
デザイナー男「うむ、物分かりのいい後輩でよろしい。」
デザイナー男「んじゃ、行ってくるわ。」
女「はいはい、明日ちゃんと9時に来てよー」
パタンナー女「…あぁやって悪は拡散していく。インフルエンザのように。」
男「えっと、失礼します。」
女「はーい、お疲れー」
パタンナー女「…お疲れ。」
デザイナー男「お疲れー。よし、行くぜよ。」
がちゃ ぱたん
242 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 20:01:40.44 ID:3PLYTzB3O
――新宿歌舞伎町 ジャズバー『音叉』
男「――なんか、凄いところですね。」
デザイナー男「はは、いい音楽といい酒は仕事の疲れを癒してくれるんだ。」
男「ジャズとか、俺全然詳しくないですよ。」
デザイナー男「あぁ、俺もだよ。」
マスター「何になさいますか?」
デザイナー男「俺はシーバスのオンザロックで。」
男「…ギネスください。」
マスター「畏まりました。」にこっ
244 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 20:10:26.78 ID:3PLYTzB3O
――同刻 事務所
女「うーん、だめだ!出来ないっ!」のびー
パタンナー女「…。」
女「パタンナー女ちゃん、どんな調子ー?」
パタンナー女「…あまり、順調ではない。ダメ男が描いたデニムが難しい。」
女「あー。なんか変わったデザインだよね、あれ。ん、じゃあさ!」
パタンナー女「…?」
女「男共もいないことだし、コンビニパーティしないっ?」わくわく
パタンナー女「…ハーゲンダッツ食べ比べはもういい。」
女「いやいや、アイスは正義でしょ!」
パタンナー女「…。」
女「ほい、行くよ!コンビニっ!」にこっ
パタンナー女「…はい。」
女「よし、れっつらごー!」
がちゃ ――ぱたん
247 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 20:15:56.25 ID:3PLYTzB3O
デザイナー男「男君はさ、」
男「――はい?」
デザイナー男「彼女とかいないの?」しゅぼっ
男「はは、いませんよ。デザイナー男さんこそどうなんですか?」
デザイナー男「んー?」ふぅーっ
男「…いや。かっこいいし気立てもいいし、もてそうじゃないですか?」
デザイナー男「ははっ、俺の事務所でのキャラとは正反対なご意見だな。」にこ
男「…で?どうなんですか?」
277 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 21:09:54.57 ID:3PLYTzB3O
デザイナー男「いやいや。まぁ、いいじゃないか。こんな中学生みたいな話は。」
男「いや、なんかズルイですよっ」
デザイナー男「ははっ。あ、煙草吸う?」
男「…あ、いえ、ごめんなさい。もう止めたので。」
デザイナー男「ふむ、偉いな。俺なんか軽くしようと努力してやっと9ミリだ。」
男「…体に毒ですよ。」
デザイナー男「…うむ。それでさ、真面目な話なんだけど。」
男「――何ですか?」
279 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 21:13:01.46 ID:3PLYTzB3O
デザイナー男「悪いが少しプライベートな聞きづらい話を聞くよ。」
男「はい。」
デザイナー男「――2年ぶりに働いたんだって?」
男「あぁ、そのことですか。はい。そうです。」
デザイナー男「なんでまた急に働こうと?」
男「あぁ…えっと。」
デザイナー男「――。」
男「――親父が、入院しまして。」
280 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 21:14:12.60 ID:3PLYTzB3O
デザイナー男「―っ。」
男「あ、いや多分大丈夫なんですけどね?」
デザイナー男「…悪い、そんな事情があったなんて。」
男「ああ、いえ大丈夫ですよ。ははっ、何か湿っぽい話しちゃってごめんなさい。」にこっ
デザイナー男「――そういう事なら尚更、ひとつ言っておかなきゃいけないことがあるんだ。」
男「…?」
―。
――。
281 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 21:17:31.92 ID:3PLYTzB3O
女「ふっふっふ…」にやり
パタンナー女「…これはいくら何でも買いすぎ。」
女「あ!クッキークリームは私のだからねっ!?」がばっ
パタンナー女「…私は抹茶でいい。後は仕舞ってくる。」
女「お、なかなか通だねぇ。お客さん。」
がらっ
パタンナー女「…もっと大きな冷凍庫付きのを買うべき。」
女「え?入らない?」
283 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 21:20:41.70 ID:3PLYTzB3O
パタンナー女「…。」こくり
女「なん…だと…!」
パタンナー女「…もっと整理整頓を覚えるべき。」
女「已むを得ん、冷蔵庫に保管だっ!」
パタンナー女「…いや、それは流石に。」
女「心配いらん、溶ける前に私が食す!」
パタンナー女「…アイスより社長のお腹の方が心配。」
285 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 21:24:15.07 ID:3PLYTzB3O
男「…それ、どういうことですか?」
デザイナー男「――あくまで保険に、という話だよ。」
男「理由が、あるんですね?」
デザイナー男「済まない、今は詳しいことが分からんから言えないんだ。」
男「…遠慮しておきます。」
デザイナー男「――どうするかは男君の自由だが、従っておいた方がいい。念の為だ。」
男「…。」
デザイナー男「…。」
286 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 21:25:33.28 ID:3PLYTzB3O
男「煙草、貰っていいですか?」にこっ
デザイナー男「――あぁ、ほい。」しゅぼっ
男「…ふぅーっ、ありがとうございます。でも、」
デザイナー男「…?」
男「ご忠告には従いません、ごめんなさい。」
デザイナー男「そう、か。分かった。」
男「あ、そういえば聞いてませんでしたよ?彼女いるんですか?」にこっ
デザイナー男「…。」(成程、社長も俺も負けるわけにはいかないってことか…。)
―。
――。
300 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 21:57:53.87 ID:3PLYTzB3O
――数日後 事務所
女「さて、男君。」
男「はい。」
女「こないだまでで、布が出来るまでを見て貰いました。」
男「そうですね。」
女「ついに!ここから舞台はこの事務所に帰ってきます!拍手っ!」
男「おおーっ。」
女「は!く!しゅ!」じろっ
男「…。」ぱちぱちぱち
303 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/20(土) 22:00:31.48 ID:32KDjOGj0 >>1 この業界の話を書こうとするなんてなんてコアな1
SHOP店員の俺が支援
304 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 22:03:11.35 ID:3PLYTzB3O 女「で、次がデザインを元にパタンナー女ちゃんがパターンを引いてくれます!」
男「あの、前から疑問だったんですが。」
女「ん?」
男「パターンって具体的に、どういう作業なんですか?」
女「えっ、今頃!?」
男「…すいません。」
306 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/20(土) 22:08:42.93 ID:3PLYTzB3O
女「まぁそういえばちゃんと説明してなかったもんねっ。ごめんごめん。」
男「…いえ。」
女「パターンっていうのはね。私たちデザイナーが描いたデザイン画を元に、生地をどういう風に裁断して、どう縫えばいいかを考えることなんだ。」
男「あぁ、なるほど。そういう意味で布を織った続きですか。」
女「よし、じゃあ早速。パタンナー女ちゃんの所へゴー!」
男「目の前ですけどね。」
女「あれ、『おーっ!』は?」
男「…おーっ。」
パタンナー女(…こいつら五月蝿い…。)
374 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:09:34.40 ID:9F0jC85pO
女「お姉さん、こんにちはっ!」ぬうっ
パタンナー女「…デスクの下から現れても特に見せるものは無い。」
男(…この二人何だかんだ良いコンビだよな。)
女「そんなぁ、折角だから立体裁断について教えて下さいよー。」
パタンナー女「…立体裁断とは、人の体に合わせてパターンを引く方法。ドレーピングとも言う。対義語は平面裁断。」
男「人の体に合わせて?」
パタンナー女「…例えばこんな風に。」するっ
女「ちょっと、パタ…っ!あはは!やめっ、やっ!くすぐった…!はは!やめっ!」
男(――こ、これは…)ごくり
378 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:12:34.78 ID:9F0jC85pO
パタンナー女「…実際に人間の体に型を合わせて線を引く。特に女性は体に凹凸があるので、平面裁断だと上手くいかないことが多い。」
女「…そ、そんな。酷い…」ぜえぜえ
パタンナー女「…平面で寸法を合わせるだけでは着心地のいい服は出来ない。ドレーピングにより机の上では見つからないラインが見つかる。」
男「なるほど…」
パタンナー女「…でも平面裁断が悪い訳ではない。現に平面裁断で素晴らしい仕事をするパタンナーも多くいる。」
女「まぁ、でも今は立体裁断が出来るってのがステータスみたいになっちゃってるよね。」
男(あ、復活した。)
382 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:17:24.96 ID:9F0jC85pO
パタンナー女「…確かに時代の流れはそう。ドレープを作る技術や、近年流行のタイトでフィット感のある洋服は立体裁断の方が向いてはいる。」
男「なるほど…。じゃあちょっと参考にもう一回実際にドレーピングをするのを見せて貰っていいですか?」
女「へっ…!?」
パタンナー女「…了解。」がばっ
女「ちょ、待っ!!…あははははっ!や、やめっ!お、男くっ!止めっ!やだっ!!はははは!」
―。
――。
386 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:21:19.06 ID:9F0jC85pO
――数日後 事務所
女「――はい、今日の午後3時には伺えると思います。はい、――いえ。」
パタンナー女「…。」
女「はい。お忙しいところ申し訳ありません。――はい、畏まりました。」
デザイナー男(…やれやれ。こっちの準備はまだだってのにねぇ。)
女「――はい、では。はい、失礼いたします。」
がちゃ
女(…。)
389 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:26:18.05 ID:9F0jC85pO
デザイナー男「うーん、だめだ!出来ん!」かたっ
パタンナー女(…?)
デザイナー男「ってことで俺、昼メシ食ってくるわ。誰か一緒に行くか?」ちらっ
女「あ、じゃ私も出る前に食べちゃおうかなっ。」こくっ
デザイナー男「いやー、悪いね。奢って貰っちゃって。」
女「…。」げしっ
デザイナー男「――痛いっ!だから臑は痛いから!奢るからやめろって!」
女「あら、悪いわねぇ。」にやりっ
デザイナー男「くそっ…。」
392 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:30:34.97 ID:9F0jC85pO
女「じゃ、行って来るね。帰りにコンビニ寄るけど何か要る?デザイナー男君が奢ってくれるらしいわよ?」にこっ
パタンナー女「…アセロラドリンク。杏仁豆腐。」
女「了解。男君は?」
男「え、いえ。俺は。」
女「遠慮しないでいいってば。じゃ私と同じ物買って貰うねっ。」
男(デザイナー男さん、すいません。後で払います。)
女「じゃ行って来まーす。」
デザイナー男(まぁ…しゃあないか。)
きぃ ぱたんっ
パタンナー女「…。」
395 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:35:42.26 ID:9F0jC85pO
――駅前 喫茶『ゴダール』
女「あ、すいません。カツスパゲティとアイスティー下さい。」
デザイナー男「コーヒーを。」
ウエイトレス「畏まりました。」
女「あれ?ご飯食べるんじゃなかったの?」
デザイナー男「ん、あぁ。なんとなく。」しゅぼっ
女「煙草ばっかり吸わないでちゃんと食べなきゃもたないよ。」
デザイナー男「まぁ、な。それで?」ふぅーっ
女「…うん、」
397 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:41:52.27 ID:9F0jC85pO
女「…今日正式に決定みたいよ。細かい説明を受けに行く。」
デザイナー男「ふぅん。奴らもこんな時だけ決断がお早いんだな。」
女「まぁ、ね。二人には早めに言った方がいいよね?」
デザイナー男「――まぁ。時期を見て、だな。」
女「…うん。」
ウエイトレス「お待たせいたしました。カツスパゲティとアイスティ、コーヒーでございます。ごゆっくりどうぞ。」にこっ
398 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:43:48.46 ID:9F0jC85pO
デザイナー男「…こっちは間に合うか分からんぞ。」
女「まぁ、しょうがないよ。」
デザイナー男「とりあえずは今日次第、か。」
女「うん。……ごめんね。」じわっ
デザイナー男「なんでお前が謝るんだよ。皆でやってきたんだ、悔いは無いさ。」
女「あはっ、そうだよね!あれっ、参ったなぁ。歳取ったからかなぁ、涙もろくなっちゃってねぇ。あははっ」ぽろっ
デザイナー男「…ほれ、拭け。化粧崩れるぞ。」
女「――ごめん、少しすれば大丈夫だから…っ」
デザイナー男「…あぁ。」じりじり… ふぅーっ
―。
――。
403 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:48:19.51 ID:9F0jC85pO
――数週間後 事務所
女「だめだ…燃料が切れた。…アイス食べたい。」くてぇ
男(…あれ、このドキュメントって前期の財務諸表だよな。)かたかた
女「…クッキークリーム、チョコミント、キャラメル。」
男(――当期純利益…)
女「…コーヒーゼリー、エクレア、うまい棒。」
男「女さん、うまい棒は無いでしょう、うまい棒は。」
女「え、美味しいよ辛子明太子味。」
男「残念ですが、理解しかねます。」
409 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:54:47.06 ID:9F0jC85pO
女「えー。じゃ私にハーゲンダッツ買ってきてよー。社長命令っ」くてぇ
男「…記念すべき初の社長命令がそんな内容でいいんですか?」
女「だって今男君しか居ないし。――うむっ!」がばっ
男「お、復活しましたね。」
女「じゃ、せめて一緒にコンビニ行こう?」
男「…了解です。」
女「やたっ!」にぱっ
男(▲って…)
410 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/21(日) 00:56:20.76 ID:LXzX5thLO くぅ・・・ 社長かわいいよ社長
413 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 00:59:57.47 ID:9F0jC85pO
コンビニ店員「ありがっしたー。」
ういーん
女「んー、この時期の雨あがりの夜は気持ちがいいねぇー」のびー
男「あぁ、そういえばうちの会社雨の日は休みじゃなかったでしたっけ?」
女「あー、懐かしいね。まだ男君が入ったばかりの頃の話だ。」
男「はい。気づいたらいつのまにか、です。」
女「あ!神田明神でアイス食べてこうよ!」
男「…はい。」(――まったく、この人は…。)
416 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 01:03:24.45 ID:9F0jC85pO
女「チョコミントうまー。」はむっ
男「しかし大きな神社ですね。」ぱくっ
女「5月には神田祭があったんだけどねー。残念っ。」はむっ
男「お祭りですか。――行ったんですか?」
女「いやぁ、行けなかったよ。一人で行っても侘びしいだけでしょ?」
男「へぇ。」ぱくっ
女「あ、今寂しい仕事女だなって思ったでしょ?」じとっ
男「いやっ、思ってませんよ。」
女「あぁそうか、私の浴衣姿を想像して夢見心地だったのかなー?」にやり
男「それは無いです。」
女「うわ、きっぱりと否定されたっ!」
419 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 01:07:23.19 ID:9F0jC85pO
男「…食べ終わったなら帰りましょう。事務所。」
女「ほーい。」
男「…。」
女「あっ!男君!」
男「何です?」
女「忘れてたよ、折角神社来たんだからお祈りしていかなきゃ。」
男「あー、まぁ確かに。」
423 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 01:13:45.38 ID:9F0jC85pO
ちゃりーん ぱんっぱんっ
女「……。」
男「……。」
女「……。」
男「―よし、っと。」ぺこり
女「……。」
男(――随分長いな。)ちらっ
女「…よしっ!ばっちり!」
男「いや、最後の一礼忘れてるんでばっちりじゃないですよ。」
女「なっ!?」
女(…3秒ルールっ!)ぺこり
424 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 01:15:56.19 ID:9F0jC85pO
男「さて、帰りましょう。」
女「あれ?ここは展開的に乙女チックに『ねぇねぇ、何お願いしてたの?』とか言い合うシチュではないの?」
男「キャラじゃ無いでしょうし、そんな眠いことに付き合ってたら日付変わっちゃいますよ。」
女「そんなっ…私の乙女心がばっきばきに粉砕された…ううっ。」
男「泣き真似はいいですから。行きますよ。」
女「ほーい。」
男(…。)
女(まぁいいやっ。…キャラじゃないよね。そういうの、向いてないもんねっ。)
男「…。」
女「あ、雨あがりの夜は気持ちいいね!」
男「…女さん、それさっきも言ってましたよ。」
―。
――。
460 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 02:12:50.22 ID:9F0jC85pO
――数日後 事務所 資料室
パタンナー女(…出来た。)くてっ
パタンナー女(…でもどうやって渡す?手渡しは無理だ。絶対無理だ。)
パタンナー女(…机に置く?――いや、あの汚いデスクに置いたって遭難するだけだ。)
パタンナー女(…とりあえず、保留か。)
パタンナー女(…保守的思想。)ごそごそ
がちゃ ――ぱたん
462 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 02:16:09.22 ID:9F0jC85pO
――数日後 朝 事務所
しゅこーっ ぷしゅーっ
女「はい、飲み物は行き渡ったよね。」
女「んじゃ、朝礼始めるね。お早うございます。」
男「お早うございます。」
パタンナー女「…お早うございます。」
デザイナー男「お早う。」
女「いよいよ暑くなって夏も本番だね。ということは!」
男(…?)
465 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 02:22:01.79 ID:9F0jC85pO
デザイナー男「そろそろ毎年恒例の追い込みの時期、だね。恐ろしい…」
パタンナー女「…うだる暑さ。エアコンも古びたこの部屋で、深夜まで仕事。まさに時刻絵図。」
男「えっ…そんなに辛いんですか。」
女「時は満ちた!皆の衆!気持の持ち様だ!この旗の下に集い、立ち上がれ!奮起せよ!」
パタンナー女「…五月蠅い。」
466 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 02:22:46.06 ID:9F0jC85pO
女「あ、ちなみに私、制作やばいので。デスクワークは男君に丸っと投げちゃいます!てへっ。」
男「えぇぇ…。」
パタンナー女「…権力の濫用に抗議して立ち上がろう。」
デザイナー男「男君、遊べるうちに遊んどいた方がいいよ。」
男「まぁ…頑張ります。」
女「うむ、偉いなぁ男君は。皆の衆!この物を規範とし、作業に励め!」
デザイナー男「…。」
パタンナー女「…。」
男「…。」
女「あれっ?皆。『おーっ!』は?」きょとん
―。
――。
468 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 02:29:03.61 ID:9F0jC85pO
男(…。)かたかた
男(――やっぱりだ。)かたかた
男(前期も、か。)たたんっ
男(支払利息が多いのは…あ、資産に対する長期負債の割合が高いのか?)かたかた
男(…ふむ。)のびーっ
男(女さんは…分かってるんだよな?)
男(…。)
女「なーにサボってるのかなー?」ぬっ
男「うわっ!なんで人が考え事してる時に死角から現れるんですか!」びくっ
472 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 02:32:31.62 ID:9F0jC85pO
女「ふふふ…私、実は絶が使えるんだよ。」
男「さっさと仕事して下さいよ富樫さん。」
女「集英社と契約打ち切られたって噂は本当かな?」
男「知りませんよ。それよりこれっ!」
女「ん?」
男「財務諸表ですよ、うちの。」
女「…あぁ、それ見ちゃったかぁ。」ぽりぽり
男「…てことは、分かってたんですか。」
473 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 02:37:54.90 ID:9F0jC85pO
男「真っ赤っかじゃないですか。前期も、その前も。」
女「いやぁ、面目無い。」
男「こんな利息払ってどうするんですか。この借入先の会s――あ。」
女「はは、そゆこと。」にこ
男「…いいんですか、これで。」
女「――んっと…。」
男「こんな新人が口出す問題じゃないって分かってます。でも俺もここの社員の一人です。」
女「…ところが、事態はそれに収まらないんだなぁ。」
男「…え?」
480 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 02:49:03.09 ID:9F0jC85pO
女「もうしょうがないよね、デザイナー男君。」
デザイナー男「…ああ。」
女「じゃ、話します。パタンナー女ちゃんも来て。」
パタンナー女「…。」
女「――えぇ、と。」
デザイナー男「…俺が話すか?」
女「いや、社長は私だから。責任持って話させて。」
男「…。」
483 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 02:54:15.97 ID:9F0jC85pO
女「男君が見つけた通り、うちのここ数年の当期純利益は赤字が続いています。主な理由は2つ。商品の価格設定の低さと上への借入金による支払い利息の支払い。」
パタンナー女「…。」
女「一つ目の価格は、出来れば上げたくないんだ。それでも最近少し上げたんだけどね。やっぱり多くの人に着て貰ってこその洋服だし。」
男「でもそれはっ、」
デザイナー男「…まぁまずは話を聞いてやってくれ。」
男「――っ。」
489 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 03:00:29.58 ID:9F0jC85pO
女「2つめ、上への借入金とそれに対する支払利息。これは私がデザイナー男君と事務所を立ち上げた時から少しずつ、増えています。これがうちの癌って訳。」
パタンナー女「…癌なら手術で取り除けばいい。」
女「今思えば、殆ど無一文で事務所を作ったのも悪かったんだね。実績も無いから融資先も見つからないで、手を差し伸べられたと思って上のグループに入った。」
女「借入金で初期設備投資をして。何年かやったらもう身動き取れなくなってたよ。 実績を積んでも、もうこんな財務状態の会社に融資してくれる銀行なんて見つからない。だから癌は切除出来ない。」
男「…っ。」
491 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 03:05:53.76 ID:9F0jC85pO
女「何とかしなきゃって、思いながらズルズルとここまでやってきた。でもさ、そしたら…」じわっ
デザイナー男「…。」
女「上の方からね、切るってさ。さすがに途方に暮れたよ。」ぽろっ
男「なんでっ、上にしてみたらうちはっ…」
デザイナー男「…もう利用価値は無いと、判断したんだろう。」
男「そんな…っ。」
498 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 03:18:02.41 ID:9F0jC85pO
女「掌返されちゃってねぇ。上はうちの株式を処分して、連結グループから外して。それから今まで目を瞑ってた期限切れの短期貸付金の支払い請求するみたい。」
パタンナー女「…上のそれは法には触れない?」
デザイナー男「…弁護士にも公認会計士にも相談してみたが、揃って首を横に振ったよ。」
パタンナー女「…でも。そんなことっ。」
女「短期貸付金を払って、素寒貧にして倒産。残った固定資産で残りの貸付金も可能な限り回収、が筋書きだと思う。いやぁ、参ったよね、ははっ…」ぽろぽろ
男「…デザイナー男さんがジャズバーで俺に『転職先を探しておけ』って言ったのも、これなんですね。」
デザイナー男「…ああ。」
男「――なんとか、ならないんですか。」
デザイナー男「…無理、だな。」
男「…っ。」
501 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 03:24:52.72 ID:9F0jC85pO
女「だからさっ、もう最後のコレクションを精一杯やって…っ」
女「それでっ、それで成功させるしかやることがないんだよっ!ね?そうでしょ?」ぽろっ
デザイナー男「…そうだな。その通りだ。」
パタンナー女「…。」こくり
男(…。)
女「折角っ、こんないいチームで仕事が出来てるんだもん。最後まで楽しくやろうよっ、ねっ?」ぼろぼろっ
男「――はい。」
女「うむ、偉い…ぞっ。」にぱっ
―。
――。
505 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 03:29:00.45 ID:9F0jC85pO いやぁ…山場なのに書き貯めなくて、山場だから書き貯め休憩も出来なくて、投下遅くなってしまいました。ごめんなさいっ!
しかも六法とか会社法見ないで適当にでっち上げた論理なので、上の対応は実は違法かもしれませんww
誤字脱字多くてすんません。
なんか謝ってばっかだなww やっと一区切りしたので、コーヒー淹れてきまふ。
507 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/21(日) 03:31:30.36 ID:UPHZny8zO
そんな細かい法律知らんから気にしないw
510 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/21(日) 03:33:47.58 ID:igNmbWXzO
職業柄他人事とは思えないorz
513 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/21(日) 03:36:57.96 ID:YcxTE5WQO そんな弱者が虐げられる法などあってたまるかと言いたいが 実際国や巨大な企業を相手にすると小さな会社や個人では たとえ非がなくとも無力に等しい現実っていうね
522 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:04:05.50 ID:9F0jC85pO
――数日後 深夜 事務所前
男(家の鍵忘れるなんてついてない…。)
男(ふあーっ。さすがに眠いな。事務所開いてたらエスプレッソ飲もう…)
男(まだ誰か居るかなぁ。)
かちゃっ ――きぃ
男(お、開いた。これはラッキーだな。)
ぱたん
男「お疲れ様でs…」
男(あれ?コンビニでも行ってんのかな?)
524 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:05:19.82 ID:9F0jC85pO
男(――ん?)
男(ピアノの音?CDか?)
男(資料室から…?)
かちゃっ ――きぃ
男(――はは、資料室にキーボードなんて隠してあったのか。)
男(…全く。つくづく芸達者な人だなぁ。)
男(ラフマニノフ『パガニーニの主題による狂詩曲』第十八変奏…か。)
男(…あ、上手い。)
男(ははっ、目瞑っちゃって。俺に気付く様子もないな。)
525 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:06:23.74 ID:9F0jC85pO
女(…やっぱりピアノはいいなぁ。)
女(余計なこと考えなくて済む…。)
女(って駄目駄目。集中しないとすぐミスタッチするんだから――。)
女(…要らない気持ちは、全部捨てちゃいたいんだから。)
528 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:07:36.98 ID:9F0jC85pO
女(――ふぅ…っ。)
ぱちぱちぱち…
女「へっ!?」
男「良いものを聴かせて貰いました。」にこっ
女「い、いつの間にっ!?」
男「丁度この曲が始まった頃に、ですかね。」
女「き、貴様さては伊賀の者かっ!」
男「ふふふ、バレては仕方あるまいっ!」
女「逃がすかっ!曲者じゃっ、であえー!であえー!」
男「くっ…!」だっ
女「…あれ、本当に逃げちゃうの?」
男「…んな訳無いでしょう。」くるっ
女「そっか…、そっかぁ。」ぱあっ
529 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:09:44.28 ID:9F0jC85pO
男「…アンコール、してもいいですか?」
女「あははっ、恥ずかしいなぁ。」
男「もう一曲だけ。」
女「わかった、いいよ。」
男「…お願いします。」にこっ
女「――ではっ。」
男「…ショパン『夜想曲 第二十番』」
女(…。)
男(やっぱり女さん上手いな…)
男(しかし…)
男(――悲しい、曲だ。)
―。
――。
530 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:11:34.10 ID:9F0jC85pO
女(…ふぅ。)
男 ぱちぱちぱち
女「へへ、なんか恥ずかしいね。人前で弾くなんて久しぶりだよ。」
男「以前ピアノを?」
女「あー、…うん。母親が、音楽家でね。やらされたんだ。」
男「へぇ。やっぱり血、でしょうか。」
女「もう何年もちゃんと触ってないし、酷いもんだよ。」
男「お母さんはピアニストですか?」
女「――うん。…いや。ピアニストだった、って言うのかな。」
男(…?)
533 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:13:34.49 ID:9F0jC85pO
男「辞められたんですか、ピアノ。」
女「…死んだんだ、私が小学生の頃にね。」
男「えっ…」
女「事故だったらしいんだけどさ。お父さんがさ、変に気遣っちゃって。」
男「…っ。」
535 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:15:15.79 ID:9F0jC85pO
女「『演奏の為にフランスに住んでる』なんて嘘吐いちゃってねぇ。」
男(そんな…っ)
女「馬鹿だからなぁ。丸々信じちゃってさ、帰ってきたら誉めて貰おうって練習頑張っちゃったりして。」
男(…もう、いい。)
女「ははっ、気付いたら音楽高校なんて通っちゃっててさ。」
男(…そんなに。強くなくて、いい。)
女「先生が言っちゃったんだよね。『日本の音楽界は本当に惜しい人を亡くした』なーんて。馬鹿だよねぇ。」
男(…っ。)
女「それで、それでっ…」じわっ
だきっ
女(っ!?)
538 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:16:41.94 ID:9F0jC85pO
男「…もう、強がるのは止めて下さい。」
女(――あったかい、なぁ…。)
男「女さんはそのままで充分格好いいです。だから…」
女(――あれっ?ひょっとしてこれって…)
男「…もう、止めて下さい。」
女(…でもっ)
男「…。」
女「――離して。…そんなつもりで言ったんじゃないの。」
男「…ごめんなさい。」すっ
542 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:22:18.63 ID:9F0jC85pO
女「いや、こっちこそ変な自分語りして…ごめん。」
男「…いえ。」
女「悪いけれど、今日は帰って。明日になれば大丈夫だから。」
男「――。」
女「お願い…。」
男「――分かりました。失礼します。」
がちゃ ――ぱたん
543 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/21(日) 04:24:01.64 ID:y7JfrBQrO
人間模様の描写が緻密過ぎる
いいよ>>1
がんばって!
544 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 04:24:09.78 ID:9F0jC85pO
女(これで、良かったんだ。)
女(…きっと正しかった。)
女(…駄目だ。甘えちゃ、駄目なんだ。)
女(あはは、参ったなぁ。今日はもう仕事どころじゃない、かなぁ。)
女(…私も帰ろう。帰って、ゆっくりお風呂入って、寝ちゃおう。)
女(…明日になれば大丈夫。この変なもやもやも、全部、治る。)
女(あー、もう…っ)ぐしゃぐしゃ
―。
――。
545 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/21(日) 04:24:25.54 ID:Dn/QTsmR0 こっちまで胸が締め付けられるぜ
636 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 12:20:19.91 ID:TElEthSx0
――数日後 事務所
パタンナー女(…もう日付が変わった。)
パタンナー女(…誰も帰らない。気合?)
パタンナー女(…少々、休憩。)かたっ
パタンナー女「…社長。」
女「んー?どしたー?」
パタンナー女「…コンビニに行ってくる。」
女「あー、じゃうまい棒とアロエヨーグルトとスプライト買ってきてー。」くてっ
パタンナー女「…了解。うまい棒は何味?」
女「うーん、コーンポタージュ味っ!3本!」
パタンナー女「…了解。」
638 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 12:27:35.97 ID:TElEthSx0
パタンナー女「…男衆は?」くるっ
男「あー、俺お茶とおにぎりお願いします。」かたかた
パタンナー女「…了解。ダメ男は?」
デザイナー男「んんー。俺も気晴らしに歩きたいな。一緒に行くよ。煙草も切れたし。」のびっ
パタンナー女「…了解。」さっ
デザイナー男「んじゃま、行ってくるわ。」
女「ほーい。よろしくー。」
男「お願いしまーす。」かたかた
がちゃ ――ぱたん
641 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 12:33:25.17 ID:TElEthSx0
しとしとしと…
デザイナー男「うわ、雨降ってるなぁ。」
パタンナー女「…。」
デザイナー男「なぁ、パタンナー女さんよ。」
パタンナー女「…何用。」
デザイナー男「前に、『社長が居たからこの会社に入った』って行ってたよな。」
パタンナー女「…。」
デザイナー男「その気持ちはまだ変わらんのかい。…その、なんだ。えぇ、と。」
パタンナー女「…今のところ再就職先を見つける気は無い。」
デザイナー男「はは、女も随分惚れ込まれたもんだ。」
パタンナー女「…。」
ういーん
コンビニ店員「らっしゃいませー。」
642 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 12:39:46.33 ID:TElEthSx0
――同刻 事務所
男「…。」かたかた
女「…。」
男「…。」かたかた
女「…あの、さ。」
男「――はい。」かたかた
女「えっ、と。そのっ、」
男「この間は、すいませんでした。」かたかた
女「え?あぁ。あの事?いいんだって!」
男「俺、明日一通りの都内のセレクトショップに行ってきます。 ひょっとしたらシーズン途中でも扱ってくれる所が、あるかもしれませんし。」かたかた
女「えっ?」
男「俺はまだ諦めていないですから。」たたんっ
女「…うん、ありがとう。」
647 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 12:46:44.01 ID:TElEthSx0
コンビニ店員「ありあしたーっ。」
ういーん
デザイナー男「うしっ、帰るかね。地獄であり楽園である我等が事務所に。」がさっ
パタンナー女「…地獄でも、楽園でもない。」
デザイナー男「んー?」
パタンナー女「…これが現世。現実。辛い事ばかりだけど。割り切ってやるしかない。」
デザイナー男「あはは、こりゃ敵わんなぁ。凄いよ、お前さんは。」
パタンナー女「…先が見えないのもまた、一興。」
648 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 12:47:55.63 ID:TElEthSx0
デザイナー男「おおっ、なんかカッコいいな、パタンナー女さんよ。」
パタンナー女「…だから、これ。やる。」すっ
デザイナー男「――ん?…シャツ?くれるのか、俺に?」
パタンナー女「…デザインの勉強がてら作っただけ。」
デザイナー男「ん、おお。あんがとな。」にこっ
パタンナー女「…。」
しとしとしと…
651 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 12:55:24.51 ID:TElEthSx0
女「――コレクションが終わったらさ、どっか遠くに消えちゃいたいねー。」
男「…現実逃避は良くないですよ。」かたかた
女「もう残務処理とかさ、全部丸投げして。何処がいいかなぁ、やっぱりヨーロッパかなぁ。」
男「ヨーロッパにうまい棒はありませんよ。」
女「それは男君が定期的に日本に帰って仕入れてくればいいんだよ。」
男「…え?」
女「二人で移住しようっ!」
男「…からかわないで下さい。」かたかた
女(…。)
男「…。」かたかた
女「んー。まぁ社長の私が逃げ出す訳にはいかないもんねっ。さーて、仕事仕事っと。」
男「…はい。」かたかた
―。
――。
654 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 13:04:33.06 ID:TElEthSx0
しゅこーっ ぷしゅーっ
女「皆さん、お早うございます!今日も元気出して行きましょう!」
男「…おーっ」
デザイナー男「おーっ!」
パタンナー女(…調教の成果?)
女「よっし、皆気合入ってきたね!」
656 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 13:07:00.10 ID:TElEthSx0
パタンナー女「…社長。」
女「ん?」
パタンナー女「…エアコンの修理、いつになる?」
女「貧乏会社は扇風機で我慢です!タッチ・エコです!」
パタンナー女「…むごい。」
女「じゃ、もう1ヶ月くらいしか無いからね!気合入れてラストスパートしましょ!」
デザイナー男「そだな。生憎、眠気は自宅に忘れてきたし。」
パタンナー女「…私はちゃんと持ってきた。」
女「つべこべ言わない!じゃ、今日もよろしくお願いします!」ふんっ
男「よろしくお願いします。」(女さん、鼻息、鼻息っ!)
デザイナー男「よろしくお願いします、っと。」
パタンナー女「…よろしくお願いします。」
660 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 13:10:28.14 ID:TElEthSx0
女(…。)
男(やべ、目がしぱしぱする。目薬何処やったっけなぁ。)ごしごし
パタンナー女「…。」こくんっ こくん
デザイナー男「…ぐー。ぐー。」すやすや
女(…皆、そろそろ限界、か。)
女(――かく言う私も、ちょっと辛いかな。)ふらっ
女(…。)
662 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 13:14:52.12 ID:TElEthSx0
女「はい!皆の衆!」かたっ
男「…え?」
パタンナー女「…はっ。」ぱちっ
デザイナー男「――んー。ぐぅ。」すやすや
女「――まずはそこのヘビースモーカーを起こそうか。」ぴきっ
男(ま、まさか…)
パタンナー女「…。」
しゅっ
男(風を切り裂く音!?)
デザイナー男「――痛いっ!足がっ、足があ…っ!」
女「…ふんっ。」
663 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 13:21:07.84 ID:TElEthSx0
女「さて、改めて忠実なる我が部下達よ。心して聞け!活目せよっ!」だんっ
男(…。)
パタンナー女「…。」
デザイナー男「――うう、臑がぁ…。」
女「朗報じゃ!今日は皆強制帰宅!明日も強制休養っ!拍手ーっ!」
男「え?」
パタンナー女「…え?」
デザイナー男「なん…だと…!?」
女「は!く!しゅっ!」だんっ
665 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 13:25:40.37 ID:TElEthSx0
男「え、いいんですか?」ぱちぱちぱち
パタンナー女「…家畜にも神はいたのか。」ぱちぱちぱち
デザイナー男「それが貴様の卍解かっ!ふははは、素晴らしいっ!」ぱちぱちぱち
女「おいおい、皆そんなに私を崇め奉らなくてもいいんだぜっ!」
男「…。」
女「ってことで皆帰宅の準備!我が隊は一度戦線から離脱するっ!」
―。
――。
703 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 14:40:21.76 ID:TElEthSx0
女「戸締り大丈夫ー?」
男「はい、OKです。」
デザイナー男「全員で、しかも日が出ているうちに会社を出るなんて、これは夢だろうか…。」
パタンナー女「…。」つねっ
デザイナー男「…あ。夢じゃないのか…うう、この日のために我々は体制と戦ってきたのだ…」
女「電気落とすよー。」
ばちんっ
707 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 14:45:57.82 ID:TElEthSx0
女「おっ、外は暑いねー。太陽がさんさんだぁ。」
パタンナー女「…紫外線は悪。」
デザイナー男「んー腹減ったな。ラーメン食いに行かないか?」
女「おっ!いいね!」
パタンナー女「…ラーメンは油。油は悪。でも行く。」
男「この辺って有名なラーメン屋結構ありますよね。何処行くんですか?」
デザイナー男「うーん…。」
709 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 14:53:44.60 ID:TElEthSx0 ――らーめん 二代目つじた 食券券売機前
女「…じゃあ、いくよ?」
パタンナー女「…。」こくり
男「はい…。」
デザイナー男「かかって来いやぁ!」
女「では。――じゃーんけんっ」
男「…っ!」
パタンナー女「…。」
デザイナー男「うおりゃあああ!」
女「――ぽんっ!」
712 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:00:27.34 ID:TElEthSx0
男「――なん…だと…!?」
女「いやぁ、悪いねぇ。あっ、私二代目ラーメンでっ。」にまっ
パタンナー女「…二代目つけ麺。」
デザイナー男「俺二代目ラーメンと生ビール!」
男「はいはい。」
ういーん ぴっ
ういーん ぴっ
ういーん ぴっ
―。
――。
713 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:03:49.43 ID:TElEthSx0
女「ん、では皆、じゃね!」
パタンナー女「…男、ご馳走様。」
男「いえいえ。」
デザイナー男「うぃー、今日は帰って眠るぞ。泥のように。」
女「そうそう、しっかり休むこと!じゃ!解散っ!」
男「お疲れ様でしたー。」
デザイナー男「お疲れー!」
パタンナー女「…お疲れ様。」
714 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:08:41.73 ID:TElEthSx0
――翌日 御茶ノ水総合病院
医者「…過労、ですな。」
女「はぁ。」
医者「お忙しいのは分かりますが、ある程度は休まないと。」
女「いやぁ、今ちょっとそれどころじゃなんですよっ。」にこ
医者「大体ね、ちゃんとした食事採ってるんですか?そんなに痩せて。」
女「え、えぇ。」(うまい棒ちゃんと食べてますよ、とは言えない…)
医者「――まぁ、取りあえず点滴打ちましょう。飲み薬も出しておきます。」
女「はい、有難うございます。」ぺこり
719 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:16:10.05 ID:TElEthSx0
――同刻 御茶ノ水法律事務所
男「――何とか、なりませんでしょうか?」
弁護士「…親会社と子会社の間の債権・債務は連結貸借対表上では相殺されます。 御社が子会社である限り、経営状態の正しい判断はしかねるんですよ。」
男「…。」
弁護士「――ただ。」
男「…?」
弁護士「ただ、貴方の言っていることが正しいのであれば。或いは。」
男「え?」
弁護士「というより、『貴方たちの言うことが正しければ』ですね。 今日はいつもいらっしゃるあの元気な女性はどうされたんですか?」
男「…へっ?」
723 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:20:41.37 ID:TElEthSx0
――同刻 パターン女自宅
パターン女(…。)
ぱらっ
パターン女(…?)
ぱらっ
パターン女(…。)じいっ
ぱらっ
パターン女(…理解できる訳、無い。)
どさっ
【よく分かる!会社と債権債務のしくみ】
727 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/21(日) 15:24:08.40 ID:YqcrboUe0 パターン女・・・だと・・・?!
729 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:26:55.47 ID:TElEthSx0 >>727 あー。ついにやっちまいますたww 今から貴方に「パターン」が「パタンナー」に見える魔法を掛けます。
730 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/21(日) 15:27:24.53 ID:YqcrboUe0 >>729 どう見てもパタンナーでした。 本当に(ry
731 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:27:37.22 ID:TElEthSx0
――同刻 事務所
がちゃっ ――ぱたん
デザイナー男(休めって言われて休むほど素直じゃねぇんだよ、俺は。)
デザイナー男(まずはパソコン立ち上げて、っと。)
かちっ ぶいーん…
デザイナー男(次にコーヒー、だな。)
しゅこーっ ぷしゅーっ
デザイナー男(…今度こそ、誰も居ないよな?)
しゅぼっ じりじり…
デザイナー男 ――ふぅーっ…
734 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:31:46.92 ID:TElEthSx0
男「そ、それどういうことですか?」
弁護士「え?どうも何も、お宅いつもはあの綺麗な女性が来てるじゃないですか。 確か…お名前が女さんでしたっけ?」
男(…成程、ね。)
男「はい、今日は女はお休みを頂いておりまして。」
弁護士「あぁ、そうなんですか。」
男「それで、」
弁護士「はい?」
男「申し訳ありませんが、引継ぎが上手くいっておりませんで。うちの社長はどのようなご相談を?」
弁護士「ええ。先ほどお話したものと重複するものもあるんですが…。」
―。
――。
740 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:45:31.16 ID:TElEthSx0
――数週間後 喫茶『ゴダール』
デザイナー男「――本当は、この修羅場を越えてから言おうと思ってたんだけどさ。」
女「…ん?」
デザイナー男「…もう一度、やり直さないか?俺たち。」
女「――えっ」
デザイナー男「あの頃は子供だった。二人で事務所立ち上げて、気楽に洋服作っていた。 暖かい所に閉じ籠ってたんだ。」
女「…うん、そうだね。」
デザイナー男「お前が其所から抜け出ようとした気持ちが、今ならよく分かる。」
女「…。」
741 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/21(日) 15:47:13.60 ID:EQdZaKEa0
こいつら出来てやがったのか・・・・
糞ッたれええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!
744 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:47:53.12 ID:TElEthSx0
デザイナー男「パタンナー女ちゃんが来て、男君が来て、仲間が増えた。 でもようやくチームが上手く回り始めた頃に、こんな有様だ。」
デザイナー男「今頃気付いた。あの事務所は俺にとっても、大切な場所だ。」
デザイナー男「もう甘えるための場所じゃない。守るための場所だ。」
デザイナー男「まぁ、パタンナー女ちゃんや男君から教わった事なんだけどなっ」にこっ
女「私も…あの二人には、色々教わったよ。」
デザイナー男「もうあの頃とは違う。だから、言う。」
女「…。」
デザイナー男「好きだ。俺と付き合ってください。」
女「…。」
747 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:49:45.29 ID:TElEthSx0
デザイナー男「…。」
女「…。」
デザイナー男「…だめ、か?」
女「――ごめん…っ。」
デザイナー男「はは、そうか。しゃあないね。」
女「気持ちは嬉しいんだ、でも…っ」
デザイナー男「…言わなくていい。惨めになるだけだから。」しゅぼっ じりじりっ
女「…ごめん。」
デザイナー男「あ、安心しろ?これで仕事のやる気無くなったりしないからなっ?」にこっ
女「…うん、知ってるっ。」
デザイナー男「うしっ。じゃ俺、仕事戻るわ。後でな。」しゅっ
女「あ、ここは私がっ…」
デザイナー男「いーのいーの。さてさて楽しい仕事、っと。」
たったったっ…
749 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:51:38.75 ID:TElEthSx0
女「――デザイナー男君っ!」
デザイナー男「んー?」
女「…ありがとう。」ぺこり
デザイナー男「…おう。」
たったったっ…
店員「1680円です。」
デザイナー男「ほい。」ぱさっ
店員「2000円お預かり致し…あ、お客様!お釣りをっ!」
きぃ ――ぱたん
753 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/21(日) 15:52:24.10 ID:YqcrboUe0 デザイナー男・・・
759 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 15:57:41.23 ID:TElEthSx0
――数週間後 事務所
ういーん しゅこーっ ぷしゅーっ
女「さて。秋の気配が訪れ、いよいよ本番が3週間後に迫った訳ですが!」
パタンナー女「…これほど切羽詰るのも久しぶり。」
デザイナー男「まぁ、それも醍醐味じゃあないの。」
男「制作も手伝えればいいんですが…。」
デザイナー男「いやいや、男君は充分働いてるよ。」
パタンナー女「…あとは私たちが踏ん張るだけ。」
女「よし!じゃあラストスパートってことで、今日もよろしくお願いしますっ!」
デザイナー男「よろしくー。」
パタンナー女「…よろしくお願いします。」
男「よろしくお願いします。」
778 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 16:33:24.19 ID:TElEthSx0
女「ほい、縫製工場から第一波が届いたよー。」
デザイナー男「どれどれ。」
パタンナー女「…。」
男(…。)
ぱかっ
女「おおっ!」
パタンナー女「…やっとここまで来た。」くてぇ
デザイナー男「ん、こりゃまた大漁だねぇ。」
女「今週中に第二波も届く予定だからねー。そろそろ本番の準備も始める段階だねっ。」
男「はい。」
女「使わせてもらう会場と打ち合わせと、モデルさんたちも本格的に選んでもらって。 んー、いよいよ大詰めだなぁ。」
パタンナー女(…でも。このシーズンが終わったら解散、か。)
786 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 16:38:48.46 ID:TElEthSx0
ホール責任者「――では、当日の段取りはこのような形で。」
女「はい、よろしくお願いします。」ぺこり
ホール責任者「いえいえ、こちらこそ。今年も、楽しみにしていますよ。」
女「はい、有難うございます。」
ホール責任者「では、また何かありましたらご連絡差し上げますので。」
女「よろしくお願いします。失礼します。」
788 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 16:41:53.72 ID:TElEthSx0
ぴりりりりっ ぴりりりりっ
ぴっ
女「はい」
パタンナー女「…社長、工場から荷物が届いた。」
女「あ、ほんと?じゃ検品始めちゃっていいよ。私も今から戻るから。」
パタンナー女「…了解。」
女「じゃ、また後でねっ。」
パタンナー女「…はい。」
ぴっ
女(――もう、秋かぁ)
794 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 16:46:41.73 ID:TElEthSx0
デザイナー男「これで、一通りそろった訳、か。」
女「そうだね。何とか間に合ったよ。」
パタンナー女「…史上稀に見るギリギリセーフ。ヘッドスライディング。」
男「皆さんお疲れ様でした。」
パタンナー女「…頑張ったのは男も同じ。皆同じ。」
デザイナー男「うん、皆お疲れ様だったね。コレクション終わったら打ち上げだな!」
女「あっ、涼しくなってきたから日本酒がいいねー。」
男「ああ、じゃ適当な店を見繕っておきます。」
デザイナー男「うん、助かる。あ、男君。二次会は二人でイイトコロに行こうなっ!」
男「へっ?」
女「まーたそんなこと言って。」
パタンナー女「…男は醜い。家畜以下。」
デザイナー男「え?ちょ、なんか俺叩かれてる?」
男「みたいですね。あははっ」
796 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 16:50:46.83 ID:TElEthSx0
――数週間後 事務所
男「――はい、では女に伝えておきますので。はい。 ―いえ、とんでもございません。――はい。よろしくお願い致します。では、失礼致します。」
デザイナー男「誰だったー?くてん
男「あはは、そんな制作終わったからってガリガリ君片手にぐだらないで下さいよ。」
デザイナー男「いや、だって。ねぇ?」
パタンナー女「…気持ちは分からなくない。」
男「モデルの事務所からでした。正式に決まったので、一度女さんに見に来て欲しいそうです。」
デザイナー男「あぁ、成程。しかしあれだ。」
男「なんです?」
797 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 16:54:15.45 ID:TElEthSx0
デザイナー男「ショーモデルってのはな、恐ろしい生き物だよ。」
男「へっ?」
デザイナー男「頭がさ、凄い小さいんだ。体は細いし。」
男「あぁ、そういうことですか。」
パタンナー女「…一度見れば分かる。あれは凄い。」
男「…はぁ。」
798 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 17:06:30.20 ID:TElEthSx0 しゅこーっ ぷしゅーっ
女「さて、ついにやって来ましたね。10月が!」
デザイナー男「明日、だな。」
パタンナー女「…明日。」
男「…。」
女「まぁ、あれだ!良かったよ、このチームで仕事出来て!」
デザイナー男「打ち上げは盛大に行おう!」
パタンナー女「…しみったれた事を言うのはまだ早い。明日がある。」
デザイナー男「…そう、だなっ。」
女「ふっふっふっ…、明日は私の『モデルさんを早く着替えさせる術』が発動する日だ!」
男「あぁ、それよく聞きますね。裏では高速で着替えてるって。」
パタンナー女「…社長の術は凄い。音速。」
男「…そんなに?」
812 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 17:47:07.20 ID:TElEthSx0
―。
――。
女「じゃ、今日は少し早いけど皆あがりねーっ。」
男「まぁ、明日の準備も殆ど済んでますし、特にやることもないですからね。」
デザイナー男「うーし、今日は真っ直ぐ家帰って寝るかな。」
パタンナー「…。」
女「皆っ。」
男「はい?」
デザイナー男「ん?」
パタンナー女「…。」
813 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 17:50:54.20 ID:TElEthSx0
女「今日まで、こんな情け無い社長と一緒に仕事してくれて、本当にありがとうございましたっ。」ぺこり
デザイナー男「こちらこそ。お疲れ様だったよ社長。」ぱちぱちぱち
パタンナー女「…ありがとうございました。」ぱちぱちぱち
男「短い間でしたが、本当に、お世話になりました。」ぱちぱちぱち
女「ははっ、私『拍手』って言ってないのにっ。 うし、じゃ私は会場と最後の確認しに行ってくるから。 皆は帰宅なさいっ。明日は8時に現地集合ね!」
男「…はい、お疲れ様でした。お先失礼します。」
デザイナー男「うい、よろしくな。お先っ」
パタンナー女「…失礼します。」
女「ほーい、じゃまた明日ねーっ。」
がちゃ ――ぱたん
815 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 17:53:21.25 ID:TElEthSx0
女(…あーあ。このぼろ事務所とももうお別れかぁ。)
女(エスプレッソマシーン、どうしようかなぁ。家の台所には大きすぎるなぁ。)
女(…。)
女(よしっ、戸締りして打ち合わせ行かなきゃだね。)
がちゃっ
女(今まで、お世話になりました。あ、エアコン修理しないでごめんなさいっ。)ぺこり
――ぱたん。
―。
――。
819 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 17:58:01.85 ID:TElEthSx0
――翌日 ホール内関係者控え室
がちゃ
男「お早うございます。」
女「おっ、来たねっ!」
パタンナー女「…お早う。」
女「いよいよだねー。」にこ
男「はい。あれ、デザイナー男さんは?」
パタンナー女「…相変わらず。でももう来ると思う。」
デザイナー男「セーフ!」
パタンナー女「…まぁ、セーフ。」
822 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 18:03:09.19 ID:TElEthSx0
女「ん、じゃ今日は缶コーヒーで朝礼だね!」
女「じゃ、始めます。お早うございます。」
男「お早うございます。」
パタンナー女「…お早うございます。」
デザイナー男「ん、お早うございます。」
女「うむ!…いよいよだね。」
パタンナー女「…。」こくり
男「はい。」
825 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 18:07:59.84 ID:TElEthSx0
デザイナー男「ま、いつも通りやろうぜ。たぶん緊張なんてする暇ないけどなっ」にこ
パタンナー女「…緊張なんてしない。ランウェイ歩く訳でもない。」
女「あはは、よーし。じゃ今日もよろしくお願いしますっ」ぺこり
男「よろしくお願いします。」
デザイナー男「よろしくー。」
パタンナー女「…よろしくお願いします。」
826 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 18:12:20.83 ID:TElEthSx0 ――PM7:00
女「それでは、よろしくお願いします。」ぺこり
ホール責任者「はい、宜しくお願いします。では、開場しますね。」
女「はい、お願いしますっ。」ぺこり
ホール責任者「こちら責任者。正面扉開けてください。」
係員「お待たせいたしました。開場でございます。」
――がちゃっ
829 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 18:18:00.96 ID:TElEthSx0
――ホール ランウェイ裏
デザイナー男「はい、こっち出来たよ!あ、君。」
モデル「は、はいっ。」(以後モデルの発言はフランス語で)
デザイナー男「今日は宜しくな。」にかっ
モデル「はいっ!」(多分励ましてくれたんだろうな!)
雇われスタイリスト「次お願いします!」
デザイナー男「はいよ!」
パタンナー女「…こっちも終わり。次。」
―。
――。
832 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 18:21:59.11 ID:TElEthSx0
パタンナー女「…ふぅ。」くてぇ
デザイナー男「よっ、お疲れっ。ほれコーヒー。」
パタンナー女「…ありがとう。」ぷしゅっ
デザイナー男「始まったらまた着替えで忙しいな。」
パタンナー女「…今まで苦労した時間に比べれば一瞬。それに。」
デザイナー男「ん?」
パタンナー女「…これで解散だと思うと、終わって欲しくない。終わらなければいい。」
デザイナー男「――そう、だな。」
女「おーい!そこの二人なにサボってんの!始まるよ!」
デザイナー男「うしっ、行くか。」
パタンナー女「…。」こくり
836 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 18:37:23.34 ID:TElEthSx0
男(はぁ、やっと関係者の対応終わった…)
男(日本語話せないなら通訳くらいつれてきて欲しかったな)
男(やばい、急がないとっ)
がちゃっ
男(間に合っ…た。)
女「モデルの皆さん今日は私たちの発表の場に協力してくださって、ありがとうございます。」
女「これがうちのチームです。全員で気持ちを込めて作らせて頂きました。 今日協力して下さる皆さん、どうか宜しくお願いします。」ぺこり
デザイナー男「よろしくお願いします。」ぺこり
パターン女「…宜しく、お願いします。」ぺこ
男「宜しくお願いします。」ふかぶか
女「では、始めます。お願いしますっ。」
―。
――。
894 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:26:53.74 ID:9F0jC85pO
女(ついに…始まった。始まっちゃった…。)
女(こんな、一時間もしない間に、全部…。)
女(――駄目だ、今はやること全力でやらなきゃっ…!)
デザイナー男「ウィメンズ1番帰ってきたぞ、頼むっ。」
女「――了解っ」
パタンナー女「…メンズ、少し遅い。」
男「はいっ、すいませんっ。」
899 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:30:56.32 ID:9F0jC85pO
デザイナー男「ほい、メンズ21番行けるぞっ。」
女「…こっちも次っ!」
男「…早いっ。」
女「ふふんっ、私の音速着替えさせ技術を見るがいいっ!…刮目せよっ!」ずばばばっ
男(…なんか、真面目にやってても面白い人たちだな。)
デザイナー男「ほれ、メンズ次っ。」
男「は、はいっ!」
―。
――。
903 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:33:23.89 ID:9F0jC85pO
女「うんっ。よし、行ってらっしゃい!」
モデル「…。」こくり
かつかつかつ…
女「…ふうっ。」ふらっ
パタンナー女「…終わった。」くてっ
男「今行ったモデルさんが帰ってきたら終わり、ですか。」くたぁ
912 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:38:16.51 ID:9F0jC85pO
デザイナー男「いやぁ、今年も女の『音速早着替えさせ』が見れて良かったな。」
女「あはは、我ながら語録が悪いねぇ、それ。」くらっ
男(…あれ?立ち眩みかな。)
パタンナー女「…これで、解散。」
男「…まぁまぁ。あ、最後の人が帰って来ますよ。」
女「ねぇ、今年は皆で顔出そうか。ちょっとだけ。」 パタンナー女「…え?」
920 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:42:57.76 ID:9F0jC85pO
男「普通デザイナーが一人でモデルさん全員と一緒にランウェイ一周しますよね。」
デザイナー男「いや、うちは毎回、モデルだけで一周してもらってから、女がちらっと顔出してただけなんだわ。」
女「ね?最後にちょっとだけ、さ。皆でお辞儀してすぐ引っ込んじゃおう?」にこっ
女「あ、ねぇ!貴方日本語出来たよね?」
モデル「ええ。すこしだけ、ですが。」
女「私たちは最後にちょこっと挨拶するから、あなたたちだけでぐるっと回ってきてくれないかな?」
モデル「ウィ、マドモアゼル」にこっ
女「うん、よろしくっ」にこっ
924 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:44:59.20 ID:9F0jC85pO
女「…よし、帰ってきた。お帰りーっ。」
モデル「ありがとございます。」にこっ
男「本当に俺も行くんですか?」
デザイナー男「当たり前だろう。4人でチームなんだから。」にかっ
パタンナー女「…つべこべ言わない。行く。」
女「よし、行くよっ!」
――。
931 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:46:33.08 ID:9F0jC85pO
ぱちぱちぱちぱちぱち…
男(――うわっ…凄い、拍手。)
デザイナー男(初めてランウェイ立った…しかし凄いな。)
パタンナー女(…。)
ぱちぱちぱちぱち…
女(――あははっ、今年は皆と一緒だから、全然恥ずかしくないや)にこっ
女「…っ。」ふかぶかっ
男(…改めて。――このチームの一員になれて、よかった。)ぺこり
パタンナー女(…ありがとう。)ぺこりっ
デザイナー男(ははっ、皆感慨深い顔しちゃってるな…)ぺこり
934 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:48:04.12 ID:9F0jC85pO
ぱちぱちぱちぱち…
女(拍手受けるって、こんなに気持ちよかったんだ…。)
女(――シャワー?…そうだ、シャワーみたい。)
女(気持ちいいな…)
女(さて、そろそろ引っ込んじゃおうかねっ)ふらっ
女(――あ、れ…?)
パタンナー女(…っ!)
デザイナー男「…危ないっ!」
男「女さんっ!」
――どさっ
―。
――。
942 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:52:25.92 ID:9F0jC85pO
――数日後 御茶ノ水総合病院
がらっ
女「あらら。お見舞いなんか来なくて大丈夫なのにっ」
男「うまい棒、差し入れに来ましたよ。」
女「おっ、でかしたっ」にぱっ
男「――体は大丈夫なんですか?」
女「うん、全然大丈夫っ。」むしゃむしゃ
男「…そんなうまい棒両手に一本ずつ持たなくても。」
女「うわっ、口が乾いたっ!水分が奪い取られたっ!」
男「…当たり前でしょう。はい、麦茶。」
女「ん、ありがとっ」ごきゅ ごきゅ
946 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:54:27.88 ID:9F0jC85pO
女「――何かさ、あんな拍手貰ったの初めてだったからさ。」
男「…?」
女「なんかシャワーみたいで気持ちよくって。トリップ?みたいな。意識がすーっ、って遠のいたんだよ。」
男「倒れたのをトリップのせいにしないで下さい。」
女「んー、相変わらずつれないなぁ。」むすっ
男「…女さん。」
女「んー?」
950 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:56:38.55 ID:9F0jC85pO
男「俺、女さんの事好きですよ。」
女「へっ?」
男「一生懸命格好付けてるのに、抜けてる所とか。 なのに強がって自滅しそうになってる所とか。全部です。」
女「はは…それは誉められてるの?馬鹿にされてるの?」にまっ
男「そんなことどうでもいいです。」
男「好きです。付き合ってください。」
女「…私ね。私はっ――」
―。
――。
956 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 21:57:48.25 ID:9F0jC85pO
――一週間後 御茶ノ水居酒屋『糸の雫』
男「では、乾杯の音頭を我らが社長から。」
女「皆さん、ご心配お掛けしましたっ!復活しました!コレクションお疲れさまっ、かんぱーい!」
デザイナー男「よーし、今日は飲む。とにかく飲む。」
パタンナー女「…潰れない程度に。飲む。」
963 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 22:00:05.55 ID:9F0jC85pO
男「あー。すいませんあと、皆が酔っちゃわないうちに真面目な話を。社長から。」
パタンナー女「…?」
デザイナー男「ん?」
女「えーと。皆さん。実は…」
男「…。」
女「わが社に対する会社更生法の適用を申請致しましたっ。」
パタンナー女「…へっ?」
デザイナー男「…えっ?」
966 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 22:02:20.37 ID:9F0jC85pO
男「…説明しますと。上が株式を持ってる間は親子会社なので、連結貸借対照表には不算入だった訳です。」
男「親会社がうちの株式を売り叩いた時点で、親子関係は切れますから、 そのタイミングで会社更生法を申請して貰うように弁護士さんにお願いをしていた訳です。」
男「その時点なら借入金は全額算入なので。まず会社更生法は通るかと。」
デザイナー男「…でも会社更生法ってどうなんだ?今まで通りに仕事出来るのか?」
女「まぁやっぱり多少規制はかかるけれど、基本的に今まで通り出来るみたい。」
男「融資はちゃんとした銀行がしてくれるみたいですしね。」
971 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 22:06:02.21 ID:9F0jC85pO
デザイナー男「え、じゃ今まで通り仕事出来るのか?」
パタンナー女「…本当に?」
男「適用を受ければ、の話ですが。 会社更生法が適用されると貸付金は無効になるので、遣り繰りは大分楽になるかと。」
男「…まぁ、全て弁護士さんの受け売りですが。」
女「そこでっ!」だんっ
デザイナー男「…!?」びくっ
975 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 22:08:59.19 ID:9F0jC85pO 女「我が社は新しく生まれ変わるので、また採用面接を行いたいと思いますっ!」
男「…は?」
デザイナー男「――酔ってる?」
パタンナー女「…。」
女「うるさいっ、三人同時に面接するからねっ!」
男「…。」
983 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 22:13:07.42 ID:9F0jC85pO 女「では、皆さん。我が社を志望する理由を、教えてくださいっ。」
デザイナー男「…長年やって来た会社が好きだからです。」
女「うむっ、次っ。」
パタンナー女「…目標にする人がいるから。」
女「よし、次っ。」
男「…一緒に仕事したいチームが、あるからです。」
女「…ふむ。」
男「…?」
女「まぁいいや、採用っ!」にぱっ
988 : ◆8YB9C3Jg.. :2009/06/21(日) 22:14:23.79 ID:9F0jC85pO
女社長「まぁいいや、採用っ!」 おわり。
スペシャルサンクス:見てくれた人全員っ!