サンサーラ速報❗️

【こんな事もあるんだな】男の子を助けてあげた→バスの座席で必ず隣に座ってくる男の子→意味がわからなかったが・・・

まあよかったら聞いてって

書きためてないから遅いけど

当時私は中3、男の子は恐らく中1くらい

出会いは大雨が降った日、バスの車内が混み混みで大変な日だった。

    男の子は所謂軽度の知的障害者でそれは誰の目から見ても分かるような感じだった。混雑した車内で男の子は小銭をばらまいてしまった。 私は泥水に濡れた小銭を拾うのを手伝ってあげて、彼は無事ばらまいた小銭をすべて回収することができた。

その日は何事もなかったかのように彼とは別れた。

    男の子の出会いから3日後、その日は快晴なので空席が沢山あり、私を含めて乗客は5人くらいしかいなかった。 2人席に1人で座っていて今日は学校で友達とどんな話をしようかとかくだらない考え事をしていた。

すると男の子が乗車してきた。 普通に空いている席にすわるものだと思っていたら、私の隣に腰かけてきた。

    他に空席が沢山あるのになぜわざわざ私の隣に座るの?! 私の頭ははてなでいっぱいだった。 しかしその子の知的障害は至って軽度のもので車内で騒いだりブツブツ無意味に独り言を呟いたりすることはなく物静かにしているマナーのある子だったので別段不快ということはなく、この席に座ったのは単なる気まぐれかもしれないとあまりその日は深く考えずにいた。

    翌日、昨日と同じバス停でまた彼が乗車してきた。この頃は4月の半ばあたりで彼も学校にバスで通い始めたのだということをなんとなく理解した。

そしてこの日も天気は普通。車内はほとんどが空席という状態。 私は昨日と同じいつも座るお気に入りの席に座っていたのだが、お察しの通りまたしても彼は私の隣に腰かけてきた。 なぜだ、意味がわからない。

    とりあえず様子を見ようということで特に私は何もせず、そのまま1週間同じ席に座り続けた。 けどやはり彼も私の隣に断固として座り続ける。 彼が知的障害者だからという理由ではなくてただわけもなく隣に座られることが気味悪く感じてきた私はこのことについて原因を考えた。 彼は私の隣に座りたいのではなくて、もともとこの席が好きなだけではないのか、そこにたまたま毎回私が先に腰かけてしまっているから隣になってしまうだけなのではないか。

    そう考えた私は翌日からいつもとは違う席に座ることにした。 私が座っている場所以外いつもと変わらぬ車内とバス停。 彼が乗車してきた。 私はなぜかとても緊張していた。 すると彼は徐ろに私の席めがけて歩いてきた。 嘘だろ?!

    お約束通り、彼は私の隣になに食わぬ顔で座った。 私の手はなぜか震えていて心臓が激しく警告音を鳴らしていた。

いや別にいいんだよ、どこの席に座るかはその人の自由だし。 でもさ、なんでやねん!!なんでやねん!! なにがしたいんだ君は!

と心の中で叫び続けた。 彼はいつもように大人しく前を向いて座っていて、その様子があまりにも自然なのがかえって不気味だった。

    彼は何も悪いことはしていないし、注意するのもおかしい。 他に沢山席空いてますよと促したところでちゃんと理解してもらえるかわからないし、今まで物静かにしていたけど声をかけたことで激高されては困る。 というかそもそも声をかける勇気がなかった。

しかしここで私は名案を思いつく。なぜもっと早くこうしなかったんだ。 2人席に座るからいけないんだ。1人席に座ればいいんだ。

    私は翌日少し気が引けたけど優先席に座った。この時間はお年寄りや妊婦さんは少ないし、もし乗ってきても譲ればいいやと思って。

彼が乗車してきた。

この時点で私は心の中で勝った・・・と思っていた。 しかしホットするのは早かった。 彼は私の近くまで歩いてきた。 そしてまさかのつり革に掴まって私の真横にスタンディング。

これはある意味隣に座られるよりも悪質である。

    彼は私の想像をいつも超えてくるやばい奴だった。 ここで彼が気まぐれに席を選んでたまたま横が私だった説は完全に消滅した。

彼はなぜ私の隣にそこまでこだわるのか。 私は彼がマジで怖くなってきていた。 しかし私の住んでいる地域は田舎すぎてバスの本数が少なく、このあとの便だと遅刻するし、このまえの便だと早すぎるということで便を変えることはできず、仕方なく私はこのバスに乗るしかなかった。

    スタンディング事件のあとも2人席の空席に荷物を置いてみる作戦等を試みるもやはり彼はスタンディングをかましてくるので寧ろ私がマナーがなっていないせいで彼が迷惑してこまっている図が出来上がってしまい、無意味だった。

どんなことをしても彼には勝てないということを悟った私は彼に対抗するのは諦めて彼を受け入れようと生意気なことを考えはじめるようになっていた。

    私は一番最初に座っていたお気に入りの席に毎日座るようになり、当然のように毎回彼はその横に座ってきた。

    バスに乗る時間が嫌すぎて乗車中は寝たり、窓から景色を見ることで気を紛らわせていた。

    母に相談したら母は車で送迎してあげようかと言ってくれたが、そうすると、母は会社に出勤する時刻を変更したりなんやかんやで給料が減ってしまうと聞き、結局はそのまま私は彼と一緒に通学をしていた。

    しかし慣れというのは怖いもので2ヶ月もたつと私は彼に対して不快感を抱かなくなった。私の横に彼が座るのは当たり前で彼はいつも私よりも先に降りるのだけどバスの車内以外でどうこうということは全くなく、それが自然でそれが私にとって当たり前の日常になっていた。

    特別寝ようとか意識して窓を見ようということもなく普通にそこに座るということをしていた。

ある日隣に座った彼がいつもなら大人しくちょこんと座っているのに今日はなにやら鞄から国語の教材をとりだした。 ちなみにこのときの私の心境はお?どうした相棒、今日は随分とキザなことをしてくれるなくらいのものである。

    そこにはあまり上手ではない字で簡単な漢字や平仮名が沢山書いてあり、恐らくそれは彼の勉強の形跡であった。 初めてのアクションに私はなぜかワクワクしていた。 ペラペラとページをめくる彼。するといきなり音読を始めた。といっても大きな声で元気良くではなくぼそぼそと小さな声であった。 このときの率直な気持ちはえ?君喋れるの?とかいう失礼極まりないことだった。声を聞いたのが初めてだったのでなんだ君も普通に喋るのねと少し安心していた。今まで無言の圧力みたいなものを勝手に感じていたためだ。

    恐らく彼にもテスト週間のようなものがあって勉強していたのだろうと思われる。ただ意外とこの子長く喋る。せめて黙読くらいにしとこうよ。バスんなかだし。と思っていた矢先、彼がこっちを見た。

?!

    私の視線に気づいてということではないらしい。

なぜなら彼はドヤ顔、そうドヤ顔しているのだ。 ドヤ顔でこちらに振り向いてみせたのである。

我々はすでに一心同体。私は彼の考えていることなど手に取るように分かる。 彼はバスのなかで勉強する俺偉いだろぉドヤぁみたいな心持ちだったのだと思う。私は笑顔で会釈した。

    最初私は彼に対して無言でどこまでも追いかけてくるアンドロイド的な怖さを感じていたが、彼の人間らしさに触れていくにつれてなんだかこの子も憎めないなと思えてきて段々と彼を観察するのが楽しくなってきていた。

    国語の教材を音読した日を境に彼は乗車中に色んなことをするようになった。スケッチブックにボールペンで絵を描いたり、国語の教材を音読したり黙読したり・・・

お互いに会話を交わすことはないけど彼が私に見せようとして色んなことをしているというのをわかってきたので私は隣でその様子を黙って見ていた。

    通学の時間はもう完全に嫌なものではなくなっていた。彼のことは普通に微笑ましく思えてきていたし、隣で彼がなにかしているのを見るとフフッとなるようになっていた。

    そんな調子でかれこれ半年以上、彼は私の隣で座り続け、季節は冬になっていた。私は軽く風邪を引き、咳き込むようになっていた。

彼が風邪っぽいところは一度も見たことがない。彼は超元気だ。 すげー。

    私が咳き込むようになって数日後、隣に座っている彼がソワソワしだした。どうした相棒なんだか様子がおかしいぞ。 彼は鞄からなにかを取り出した。そして私に突き出した。パインアメである。

嘘やん?!

    申し訳ないけど軽度の障害の度合いがよくわかっていなかった私は咳=飴の思考回路に結びつくことにすら物珍しさと感動を覚えてしまった。失礼極まりないけど。

そして飴のチョイス、カリンのど飴とかじゃなくてパインアメなんだね。 本当は通学中や学校内でお菓子を食べちゃいけないんだけど私は彼の厚意が嬉しくて飴を舐めながら通学した。

    パインアメを舐めながら、私は色んなことを思い返して彼には最初申し訳ないことをしたなと思えてきた。正直パインアメを舐めたところで喉の調子は大してよくはならなかったけど彼の心遣いを身に染みて感じているうちに私は泣きそうになっていた。

    パインアメを貰った翌日、彼はまたパインアメをくれた。風邪が治って咳き込まなくなっても彼は毎日私の隣に座ると同時に慣れた手つきで鞄からパインアメを取り出しては無言で私に差し出してきた。

    その様子はさながらお前パインアメ好きだろ?今日も買っておいてやったよとイケメン風に振舞う彼氏のようである。

これはあれだ。相棒、君はやめるタイミングがいつかわからないでいるうちに毎日あげなきゃとなってしまったんだろうと私は彼の心中を察した。 しかし毎日もらってばかりでは悪いのでいつの日からか私も飴をあげるようになった。

要は飴の交換である。

    彼はパインアメが好きなのか私が色々種類を変えて選んだ飴を渡しても彼は相変わらずパインアメを私によこしてきた。どんだけ好きなんだよパインアメwww

ただし通学中に毎回飴を舐めるのは気が引けたため私は通学鞄の小さなポケットに貰った飴をしまいこんでいた。

勿論ここまで二人の間に会話なく、言葉を交わしたことなど一度もない。

    もともと超飴好きというわけでもなかった私は彼から貰った飴をあまり食べないで鞄のポケットにしまったままでいた。毎日1個といえども塵も積もれば山となるで小さなポケットは気づくとパインアメでいっぱいになっていた。

    私も私で鞄から出せばいいのにそれはなんだか勿体なくて鞄の中から出さずにいた。しかしこのことがこの後ちょっとした悲劇につながることになる。

    この頃学校の生徒会の新たな取り組みとして学校にゲーム機を持ち込んだりする生徒に注意を呼びかけるため、風紀委員が担任の先生が生徒の荷物検査を予告無しに行うという予定があったらしい。勿論私は生徒会と関わりのない一般生徒だったのでそんなことは知らなかった。

    ある日の帰りのホームルーム。 風紀委員と先生が荷物検査をするので鞄にあるものを全部出して机に置いてくださいと言われた。 私は焦った。鞄のポケットにけろっぴのくれたパインアメが20個くらい入っているのだ。 手に汗握っていると私の番がきた。

    机に置いた荷物だけではなく鞄の中まで調べられ、先生がポケットを開けてしまった。終わった・・・。怒られる・・・。

先生は呆れていた。なんでこんなに沢山飴をもってるんだ。お菓子は持ち込みも食すのも駄目だ。とわりといい剣幕で怒られた。

    怒られるだけならまだよかった。こういうのは没収しなきゃいけないと言われけろっぴのくれたパインアメを皆持っていってしまいそうになった。

クラスの皆はエロ本が見つかった男子をからかってわいわいやっていて、賑やかな声は私にとっては背景でしかなかった。

自分でも気づかないうちにちょっと大きな声を出していた。

「返してください!!!」

    パインアメを持っていこうとする先生に「その飴を返してください!!!」と言い放ってしまった。静まり返る教室。

    なんでそんなこと言ったのか自分でもわからない。でもけろっぴとの出会いから今日までのことを振り返ってるうちに私は泣けてきてしまっていた。けろっぴのパインアメは私にとってとても大切なものになっていた。

    風邪の日に初めてくれたパインアメ、スーパーやコンビニに行くと無意識的にけろっぴにあげる飴を探していたこと・・・なぜか熱いものがこみ上げてきて、先生に必死に訴えた。その飴はとても大切なものなので持っていかないでください。もう学校には持ってきません!と。

    先生はまさかパインアメごときに泣かれると思っていなかったのか少し驚きながらも私の気持ちを汲んでくれてもう持ってくるなよと言ってパインアメを返してくれた。 この事件から数日間、クラス内での私のあだ名パインだった。

    この事件以来けろっぴがくれたパインアメを鞄に溜め込まないように私は気をつけた。相変わらず無言の飴交換は続いていた。

    結局このやりとりは私の卒業する3月まで続いた。荷物検査はその後もあったけど飴1個を隠すのはそんなに難しいことじゃなくてなんとか乗り切った。

そして恐らくけろっぴとの飴交換が最後になる日がきた。

    けろっぴは恐らくこれで最後になることなんか知らなかったと思う。私も特に何も思わなかった。あーこれで最後なんだなとそれだけだった。無言で飴を交換してそっと鞄のポケットにしまった。

いつも通りけろっぴは私より早く下車して涼しい顔で去っていった。 最後まで私たちが言葉を交わすことはなかった。

    けろっぴが隣に座っている間、私は至って冷静だった。 しかしけろっぴが去っていったあとになってもう会えないのかと現実を突きつけられて淋しい気持ちが波のように押し寄せてきて私は身体中の鳥肌を立てて静かに泣いた。

    彼との出会い方は決していいものではなかったけど、彼と通学した時間はとても楽しかった。雨の日も雪の日もいつも一緒だった。毎朝飴を交換するのがとても楽しみだった。けろっぴは心の優しい少年だった。

    けろっぴは車内の端っこにいる性格の悪いJKに陰口を叩かれても、顔色1つ変えなかった。けろっぴが悪く言われると私はとても腹立たしかった。私は気付けばけろっぴを弟のように思っていた。

    この日を最後に私とけろっぴが会うことはなかった。 私は高校生になり違うバスに乗るようになった。 1人でバスに乗るのが初めはとても淋しかった。たまに思い出して泣きながらバスに乗っていた。

しかし未だにひとつ疑問が残っている。なぜけろっぴは私の隣に座りたがったのか。

    思い返してもよくわからない。 強いて言うなら大雨の日に小銭を拾ってあげたことくらい。 けろっぴが私のことをどう思っていたかはわからないけど、その理由を探すことはだんだん野暮な気がしてきた。 理由なんてどうだっていい。

    当時中二病真っ盛りだった私は学校での噂話や悪口やらにうんざりしていた。誰々と誰々が付き合ってすぐ別れたらしいよ、あの子先生に媚びうってるよね・・・

    嘘や汚い言葉に塗れた学校の人間関係に比べて、言葉を発さず人を傷つけないけろっぴは私にとってとても美しい存在に思えたのかもれない。最後まで2人の間に言葉はなかったけど私たちの間には絶対的な信頼があった。

    けろっぴと私の関係はすごく不思議なものだったと思う。大学生になった今でもどんなに仲良く出来る相手に出会ってもけろっぴとのそれとは全然違うし、私たちの関係の心地よさは相手がけろっぴだったから成り立っていたんだなと気づいた。

たぶんもうけろっぴと会うことはないけどもし会ったときにも決して言葉は交わさずに笑って会釈したいと思う。けろっぴがあのときの私だと気づかなかったとしても。

おしまい

    長々と失礼しました。 特に派手なオチはないですが、リアルに話したつもりです。

読んでくれてありがとうございました。

なにか質問等あれば答えます。