サンサーラ速報❗️

【やったーw】隣に住む可愛い女子大生の部屋へ引っ越しの挨拶に行ったらまさかの神展開に( ̄Д ̄;)ノ←警戒が解けるとその女の子が→結果

【憧れの1人暮らしで隣人に恋した】

去年の正月1通の年賀状が来た。
その年賀状には可愛い文字でこう書かれていた。

「明けましておめでとうございます。来年悟くんと結婚します。」

この年賀状の差出人は俺の元カノまりあだ。
まりあとの出会いは俺が憧れの1人暮らしを始めたころに遡る。
まりあは俺が住むマンションの隣人だった。

このスレは、俺が人生で初めて付き合ったまりあとのお話です。

チラ裏だが少しの間付き合って下さい。

第1章 おふくろとの別れ

3年前の春。超が付くほどの4流大学を卒業した俺は就職のために1人暮らしを始めた。
ずっと憧れていた1人暮らし。
物件選びのため不動産屋に行くのすらワクワクする。

何件かの不動産屋を廻り
やっと家賃と自分の希望に見合った部屋を見つけた。
間取りは1DKで居住空間は10帖。
まずまずの広さだ。

外観も内装も手入れを入れたばかりとかで小奇麗にできている。

部屋が決まったその週末には引越しで実家を出た。

苦労を掛けたおふくろとの別れ・・・。

中・高とグレた俺はおふくろにいつも心配を掛けていた。

中学で親父が他界。
それからはおふくろが女手一つで俺を育ててくれた。
そんなおふくろの苦労も知らずに、家の貧しさから俺はグレた。
学校や警察から呼び出しをくらうのは日常茶飯事。

その度におふくろは昼夜を問わず俺を迎えに来てくれた。
そして涙を浮かべながら、必死に頭を下げてくれた。

帰り道、おふくろと並んで歩く・・・。

そしておふくろはいつもこの台詞を言う。

「貧乏でごめんね・・・」

中学で親父を亡くしたのに高校でグレるとはなんてやつだ!

いや。親父亡くしたのは中1
半年後には既にタバコ吸って
そこから高校までは結構悪質なグレ方をした

次のページに続く!!

悪質なグレ方ってやっぱりトッポの先までチョコが入ってなくてキレたりとかそういうの

あんまり大きな声では言えないけど
ケンカに刃物は使ってた。
あの時は何考えていたんだろう

引越し業者が俺の荷物を積み込んでくれた。
俺も車に同乗させてもらうことにした。
玄関を出る時俺はおふくろに言った。

「じゃ行ってくるね!体に気をつけてね・・・」

おふくろは昔の様に目に涙をためて俺の手を握った。
そして「これを持って行きなさい」と言って茶封筒を握らせた。

おふくろに見送られて俺は車に乗り込んだ。

「今度この家に帰ってくるのはいつだろう?」自分の育った家を眺めてそう思った。

茶封筒の中身を見た。

次のページに続く!!

そこには1枚のメモと10万円が入っていた。
貧しい母に苦しい捻出だったに違いない。
申し訳ない気持ちと有り難い気持ちが交錯する。

メモ書きを見た。そこには・・・。

「元気でいてくださいね。お野菜はちゃんと食べてくださいね。あなたはいつまでも
母さんの子供です。」と書いてあった。

引越し業者にバレずに、声を押し殺して泣くのは大変だった。

第2章 まりあとの出会い

「二宮光輝」
俺は郵便受けと部屋のネームプレートに出来るだけ丁寧な字でそう書いた。

こういうことはキチンとしたい。
新しい暮らしを始めるにあたって、俺はそれを1番にすることに決めていた。

マンションの玄関に行って郵便受けにプレートを入れる。
そして部屋に戻ってプレートをはめる。

これでよし。新た人生の始まりだ!

次のページに続く!!

引越し業者が運んでくれた荷物を丁寧に分ける。
これは今日1日で終わらないかもしれない・・・。

そう思いながらも地道に部屋作りに取り組む。
気が付くと夕方になっていた。
そうそう大事なことを忘れていた。

ご近所に挨拶をしなければ。

家を出る数日前。俺が引越しの荷造りをしているとおふくろが
「これをご近所さんにお渡ししてね」
と言って丁寧に包装された箱を2つ持ってきた。

中身はバスタオルと石鹸のセットだった。
俺は今どきご近所廻りなんてするかな?そう思いつつもそれを受け取った。

別にして損することでもないし、こういうことは「年の功」があるおふくろの
言う通りにしておこう。

次のページに続く!!

荷物整理の手を止め両隣の部屋へ挨拶に向かう。
このフロアは4部屋。
俺の部屋は303号室。まずは301号室に行った。
2度ほどインターホンを押したが反応無し。

留守なのか・・・。

今度は隣の302号室へ。
インターホンを押してみる。しばらく待つ・・・ここも反応無し。
もう1度押して出て来なかったら日を改めよう

そう思った矢先。

インターホンのマイクから「ガチャ」っという音がした。
続けて「はい」という声。
若い女だなと分かる。

「あの、今日から隣に越してきた二宮と申します。引っ越しのご挨拶に参りました」

そうインターホンに向かって言うと、ガチャリとドアが開いた。

第一印象で年下だなと思った。

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どうやら部屋でくつろいでいたらしく、化粧はしていなかった。

それでもどことなく整った顔をしているのがわかる。

「今日隣に越してきた二宮です。引越しのご挨拶に伺いました」
女性は慌てた様子で
「すみません。すぐに出ます」と答える。
別に慌てなくていいのにな・・・。
そんなことを思いながらドアの前で待っていた。

1分程度待つとドアがガチャリと開いた。
なぜか半開き・・・。チェーンから覗いているのに気づく。
女性はこちらの顔を伺いながら「はい」と言った。

そうか。女性はこれくらい用心しなきゃいけないよな。
物騒な世の中だもん。
「向かいに越してきた二宮です。引越しのご挨拶です。これどうぞ」
俺は母親が用意してくれた箱を出した。

次のページに続く!!

女性は一旦ドアを閉めチェーンを解除してドアを開いた。
「わざわざありがとうございます」
この時女性の全身が初めて見えた。
ドキッとした。可愛かった・・・。正直言って好みのタイプだった。

小さくて少し丸い顔。大きな目。髪は黒くてショート。
身長は小柄だがトレーナーでも分かるほどの大きな胸。年齢は20歳前後だと思う。
俺は少し緊張した。

「これつまらない物ですが・・・・」改めて箱を彼女に差し出した。
「どうもすみません」女性は箱を受け取ってニコッと笑った。

やっぱり可愛い。
女性は

「私は引越しのご挨拶しなかったな。でもちゃんとするべきですよね」
意外にも話掛けてきた。

次のページに続く!!

不意を突かれた会話に少し戸惑いながら
「僕も母親が持たせたものだから・・・」
そういって「これからも宜しくお願いします」で締めくくった。

女性と話すことは出来るが、好みのタイプと話すのは少し緊張する。
彼女は「なにか分からないことがあったら、気軽に聞いて下さいね」
そんな優しい言葉を掛けてくれた。

俺は失礼しますと言って302号室のドアを閉めた。
名前を聞くのを忘れていた。

改めて302号の表札を見た。
しかし名前は無かった。女の1人暮らしがバレないための用心なのか?

304号は空室のはずだ。物件案内の時に不動産屋がそう言っていた。
挨拶の必要はない。
部屋に戻ってって少しウキウキした。
あんな可愛い子がお隣さんだなんて。
でもあんまり慣れ慣れしくするのはよしておこう。

次のページに続く!!

変態と思われても住みにくくなる。
廊下で会った時に挨拶する程度がいいな。

俺は挨拶廻りのあと少し部屋を片付け近所のスーパーへ買い物に行った。
初めての1人暮らしだ。
これからは自分で食事も作らなければいけない。
夕飯のメニューはカレーにした。
今はこんなものしか作れない。

でも料理初心者の俺は妙にワクワクしていた。

「美味いカレーを作ってやる!!」
子供の頃から料理番組を見るのは好きだった。
料理の知識も多少なりともあると思っていた。

人参・玉ねぎ・じゃがいも・牛肉・牛脂(無料)・牛乳・マッシュルーム・二段熟カレー(辛口)
を買って帰る。

次のページに続く!!

部屋にキーを差し込むのがなんとも良い。
自分の部屋なんだぁ。ここは。
俺も大人の男になったもんだ・・・。

しみじみとそう感じた。

初めての料理は散々だった。
まず玉ねぎの切り方が分からなかった。
真ん中で半分に切ったまでは良かった。
その半分を繊維に沿って切るのか?はたまた逆か?
適当に切ってみた。目が痛く涙が出た。

それでもカレーなんて適当にやれば出来るだろ!?
甘かった。水の分量を間違えたのか
妙にバシャバシャの水カレーになってしまった。

ご飯も水が多すぎた。
カレーと合わさるとなんとも締まらない味の食い物になった。
それを1人で背中を丸めて食った。
TVはまだ付いていない。

次のページに続く!!

1人の静かな食事・・・。
お袋の笑顔を思い出した。
少し寂しい気分が襲ってきた。

その時インターホンが鳴った。

妙に大きな音なのでビクッとする。
「お客さんだ!でも誰だ??」
なぜか焦ってドアまで行った。

ちゃんとドアホンも付いているのに・・・。

無防備にドアを開けた。
そこに立っていたのはオタクの男だった。

こいつも20歳くらいか?
ちょいピザで髪は妙にベタとしている。
肌も油ぎっていた。
でかいメガネを掛けているのだが、それが少し曇っている。
背も低い160cmあるかないか??

次のページに続く!!

「誰だ?コイツは?」心の中でそう思った瞬間。

「301号の油田ですが・・・」
そいつはボソリとそう言った。

「ああ・・・」

そういえば買い物に出かける時に留守だった
301号のドアポストにメモ書きを入れたっけ。

「303号室に引っ越してきた二宮です。
改めてご挨拶に伺います」

大体こんな内容だった。

俺は「ちょっと待ってて下さい」と言って一旦部屋に入り
おふくろが用意してくれた
バスタオルと石鹸のセットを取ってきた。
それを油田に渡し「よろしくお願いします」と言った。

次のページに続く!!

油田は「はぁ・・・どうも」と言ってそれを受け取り
301号へと戻っていった。

若い奴が多いな。このフロアは。
そんなことを考えながらまた不味いカレーを頬張っていた。

しばらくすると
ピンポーンとまたインターホンが鳴った。

「誰だよ!また油田か?」
面倒くさいなぁと思いつつ今度はドアホンで応答した。

受話器から若い女の声がした。
「新田です。」
新田?誰だ?
「隣の新田です」

隣のあの可愛い子だ!心臓がバクバクする。
あの子は新田という名前なんだ!
俺は慌てた様子を悟られないように「少し待って下さい」と言って
受話器を置いた。

次のページに続く!!

あの子が一体なんの用なんだ?

色々考えつつドアを開けた。
新田さんはニコリと笑いながら
「これカレーです。引越し初日で大変でしょ?温めて食べて下さい」
そう言ってカレーが入ったビニールケースを手渡してきた。

俺は驚いた。
こんなご近所付き合いが本当にあるんだ・・・。
田舎の方ではありそうな話だが
人間関係が希薄になったといわれる現代社会において
ましてやこんな若い子がそんな文化を継承しているとは。

新田さんは「あの・・・。ご飯ありますか?」と聞いてきた。

俺はこれ以上迷惑を掛けてはいけないと思い。
「あります。大丈夫です」と答えた。

次のページに続く!!

新田さんは「容器はドアの前に置いておいて下さい」と言うと
部屋へ戻っていった。
俺は早速そのカレーを食べた。
新田さんのカレーは美味しかった。
俺のカレーとは比べ物にならなかった。
適度にトロみもあった。

食後、俺は近所のコンビニで飲み物の買出しに出た。
そこで運命の再会をした。
この再会が俺の1人暮らしライフを一変させる。

あれは田舎から都会
俺はまぁまぁ都会からまぁまぁ田舎

二宮
これ何時くらいに終わる予定?

俺自信もよく分からなくて

第3章 油田という男

コンビニに入る。
チラッと雑誌コーナーの前を通るとなにやら見覚えのある姿が。
立ち読みしているその男は・・・。

油田だった。

マイナーなエロマンガ雑誌を立ち読みしている様子だ。
俺はためらった。挨拶すべきか?
気づかぬフリでやり過ごすか?

次のページに続く!!

でも後で油田に気づかれ
無視したと思われのもウザったい。

俺は油田に近づくと「こんばんわ」と声を掛けた。
油田はこっちを向くとメガネの奥に
キョトンとした瞳を泳がせ。
「ああ・・・どうも。こんばんわ」とボソリ・・・。

終わりでいいかな?

俺は「それじゃ」と言ってその場を離れた。
数本の飲み物を購入しレジに向かう。
すると俺の後ろに油田が並んだ。

こうなると無視できなくなる。
空気読んでもう少ししてから並べよ!心の中でそう呟く。

俺は仕方なく話しかけた
「油田君はあそこのマンションいつから?」
確実に年下だろう。タメ語でOKだ。

次のページに続く!!

「大学入った時からだから・・・。1年くらいです」
ということは今が2回生。
20歳前後はまんざらハズレでもなさそうだ。

「あそこに住むのになにか注意する点あるかな?」
話すことが無いので無理やり話題を作る。
「う~ん。そうですねぇ」
油田が答えようとした瞬間。

「次の方どうぞ!」レジのお姉さんに促された。
会話途中の中断。

これは会計が終わった後も油田を待つ流れなのか?
タイミングが悪いよ。

そう思いつつ会計をする。
油田はさっさと答えを言えばいいのに
律儀に俺の会計を待っている。

次のページに続く!!

結局俺は油田を待つ事にした。

油田が会計を済ませると
どちらからともなく一緒に店を出て並んで歩いた。
マンションまで10分程度。
俺の頭は話題を探すのにグルグルと回転していた。

2人で歩きながら油田はボソッと
「あそこで注意する点は・・・ないですね」と言った。
ああ。そうなのね。もっと早く答えて欲しかったよ。

川沿いを歩く。
土手には桜が植えられていて、この時期は夜桜が綺麗だった。
俺は今後、幾度となく通るこの川沿いを歩きながら
この街に決めて良かったなぁ等と考えていた。

俺は隣を歩くオタクに話掛けた。
「ウチさぁ。まだテレビ付けて無いから暇なんだよねぇ」
俺はほんの世間話程度のフリだった。

しかしその瞬間油田のメガネの奥が一瞬キラリと光った。

次のページに続く!!

「それじゃ・・・ウチに遊びに来ます?」

マジかよ!?そんな社交性あるの?このオタク。
「え・・・ああ。そうだね・・・」
ダメだ。不意を突かれすぎて上手い断り文句が出て来ない。

「マンガも結構ありますし、気に入ったのがあれば貸しますよ」
なおも油田はガンガン押してくる。

冷静な時なら「片付けが済んでないから」等の言い訳も思いついただろう。
しかしこの時の俺は
「じゃ・・・少しだけお邪魔しようかな?」と答えていた。

言った瞬間激しい後悔が押し寄せてきた。

「ゆっくりしていって下さいよぉ」

粘っこい口調でそういった油田は不気味な笑顔を浮かべていた。

俺と油田はマンションの入り口に到着した。
気が重い・・・。

次のページに続く!!

2人でエレベーターを待ちながら考える。

なんでこんなことになったんだ?

どこにミスがあったんだ?

すると到着したエレベーターから女の子が降りてきた。

新田さんだ!

今は髪をゴムで束ねている。やっぱり可愛い。
両手にゴミ袋を持っていた。
そうか今日はゴミの日だ。

俺はカレーのお礼を言わねばと「さっきはどうも・・・」と言いかけた瞬間
意外な言葉を聞いた。

「やぁ!ゴミ出し?」
爽やかに新田さんに話掛けた人物。

油田だった。

俺はお礼の言葉を飲み込んだ。
このオタク・・・新田さんとやけに慣れ慣れしくないか?

「こんばんわー。ゴミ回収明日だよ。油田くんも今晩中に出したほうがいいよ」
新田さんも笑顔で返す。

次のページに続く!!

えええーーーーーーっ!!!???

この2人はどうやら相当親しい様子だ。

普通ならお互い「こんばんわ」で終わりじゃないか?
しかも「油田くん」と読んでいる。
これは2人の新密度を如実に物語っていた。

俺と油田はエレベーターに乗り込んだ。
俺は新田さんに頭をペコリと下げる程度しか出来なかった。
隣のオタクは「ばいばーい」等とほざいていた。
新田さんも俺に頭を下げた後
油田に手を振って「またね」と言っている。

俺はエレベーターの壁にもたれ掛かり
オタクの後ろ姿を眺めながら
フリーズしていた。

エレベーターが3階に到着する。
すぐ前が油田の部屋だ。
油田がガチャガチャとカギを開ける。
この後この中でこの男と数分を共にするのか。

次のページに続く!!

考えただけで気が滅入った。

油田の「どうぞ」という言葉に促され室内に入る。
俺は目を疑った。
こんな部屋が現実にあるのだ。

壁一面に張られたアニメポスター。
なにやらピンクの髪をした女が
短いセーラー服のスカートから太ももを出している。

またあるポスターは黄色い髪をツインテールに束ねた
女の子がピースをしている。

そんなポスターが壁一面に張られていた。

そうだ。油田は外見だけでなく
正真正銘のオタクだったのだ。

アニメといえばサザエさんくらいしか観ない俺には
1人として名前の分かるキャラクターはいない。

棚に目をやる。

次のページに続く!!

例外になく美少女?のフィギアが所狭しと並んでいる。
本棚には同人誌?と思われる雑誌が丁寧に並んでいる。

借りたい本などこの中にあるワケが無い。

「その辺適当に座って下さい」
油田に促されてとりあえず腰を下ろした。
俺は小刻みに震えていたかもしれない。

中・高と散々ケンカをしてきた俺だが
この恐怖心はそれらとまた違ったものがあった。

なにをされるのだろう?
単純に湧いてくる恐怖心を拭い去ることが出来ない。

当の油田は、こんな部屋に住んでいるのに
俺に見られても恥ずかしい様子は全くないようだ。

その心理がまた新たな恐怖を生み出す。

「コーヒーでも入れてきますね」台所に消えていく油田。
コーヒーなど入れられた日には帰るに帰れない。

「あ・・・。どうぞお構いなく!」つい敬語になってしまう。

次のページに続く!!

しかしそんな俺の言葉はお構いなしに
油田はカップを2つ持って出てきた。

「どうぞ」と言ってその1つを俺の前に置いた。
飲む気になれない。

何を盛られていても不思議はない。
話題が見つからない。
しかし油田はそんなこともお構いなしにコーヒーを啜っている。

そうだ!新田さんについて聞いてみよう。
なぜこのオタクが新田さんと親しげな関係なのか?
それはおおいに気になるところであった。

「そ・・・そうだ。油田くん。さっきすれ違った新田さん。
隣の部屋の。親しいの?」

油田は上目遣いに俺を見るとニヤリと不気味に笑い。

「ああ・・・。まりあちゃんですね。同じ学校なんですよ」

ま・・・まりあちゃん!!??

この小デブ。言うに事欠いて「まりあちゃん」だと!!

油田は続けて「そんなことより・・・」

そ・・・そんなことより・・・なんだ??

次のページに続く!!

「こっち系は興味あります?」
そういって右手に持っていたのは
なにやら美少女?のアニメのDVDだった。

「いや。ごめん。全く無い」
俺は即座に答えた。
なにそれ?とでも言おうもんなら
どんな説明を受けるか容易に想像できる。

「二宮さんは・・・。そうでしょうね。フヒヒ」
フヒヒの意味がよく分からない。

そういうと油田は収納の奥をゴソゴソと探り
1つのダンボール箱を出してきた。

「これ貸しますよ。」そういってダンボール一杯に入った
「はじめの1歩」を俺に渡した。
「50巻くらいまでありますよ」
そんなことより新田さんの話は??

「返すのはいつでもいいんで」
そういって油田はニヤリと笑った。

次のページに続く!!

これ以上ここにいても新田さんの話は聞けそうにない。
それならばサッサと本を借りて退散したほうが得策だ。

「ありがとう。それじゃ。お邪魔しました。」
俺はダンボールを抱えてそそくさと油田の部屋を後にした。

この日を境に俺と油田の距離が急速に接近していく。
しかし、この時の俺にそんなことを知る由も無かった。

第4章 社会という厳しさ

その日から2~3日は新田さんにも油田にも会うことは無かった。
マンションにおいて隣近所の付き合いといえば
案外そんなものかもしれない。

生活パターンが違えば数ヶ月顔を合わせなくても不思議はない。
それだけに引越し初日。
油田の部屋まで行ったことが
非現実的なこととすら思えてきた。

その油田に本を返すのは憂鬱の種であった。

次のページに続く!!

しかし油田のお陰でヒマ潰しが出来たのも事実であった。
借りた「はじめの一歩」は意外に楽しかった。
実は俺もボクシング経験者なのだ。

そうこうしているうちに入社の日を迎えた。
俺はこのために実家におふくろを残し
1人暮らしを始めたのだ。

その朝、俺はスーツを着てネクタイを締めた。
玄関を出るとき「おふくろ頑張ってくるね!」心の中でそう呟いた。

会社へは3駅。俺は少し早めに家を出た。
電車に揺られる。
俺はこれから毎日毎日通勤電車に乗って
年をとっていくのか・・・。
そう思うと無性に不安な気持ちになった。
おふくろの顔が浮かんでは消えた。

俺が就職したのは中堅の映像制作会社だった。
同期は7人いた。皆新卒入社だ。
最初の1時間は先輩による会社案内だった。

次のページに続く!!

専門用語がバンバン出てくる。
同期の皆も全く理解出来ていない様子だ。
先輩は「そのうち分かる言葉だから今は考えなくていい」と言った。

簡単な会社案内が終わると新入社員はそれぞれの部署に配属された。
俺は制作1部という部署に配属された。
7人のうち俺と同じ制作系は4人いた。
あとの3人は技術系の部署だった。

俺は自分に割り当てられたデスクに腰を下ろした。
5分ほどデスクの引き出しなどを開けて時間を潰す。
しかし誰も何も声を掛けてこない。
なにをすればいいのだ?

妙に落ち着かない。不安な気持ちが襲ってくる。
みんなが俺の一挙手一投足を監視している気がする。
これが会社という場所なのか。

ふと同期に目をやる。
他の同期は先輩と話をしながら早くも仕事を始めている様子。
焦りが出てきた。

その時。

次のページに続く!!

陰気臭いオッサンが「二宮くん・・・」と声を掛けてきた。
50過ぎの背の低い男。
スーツがクタクタで貧乏臭い印象だ。
しかし眼光は鋭い。
仕事が出来るといった感じの眼光ではない。
なんというか「人の気持ちを全て見透かしたような眼光」とでもいえばいいのか。
その男は赤松と名乗った。

俺の直属の上司になるという。
このオッサンの下で働かないといけないのか。
さらに気持ちは沈んだ。

赤松は俺を会議室に呼ぶと一冊のパンフレットを差し出してきた。
「このVPを創る。ロケは2週間後。ディレクターはフリーの志村という男だ。」
VPって何??
「詳しい話は志村から聞いてくれ。志村の指示通り動くように」
そういうと赤松は会議室から消えていった。

次のページに続く!!

混乱した。
VPってなんだ?
フリーのディレクターってことはこの会社にいないのか?
志村という人物はどんな人間なのだ?
赤松に付いていけるか?
不安が波のように押し寄せる。

俺は自分の席に戻って赤松に貰ったパンフレットを見た。
そこには怪しげな機械を
太ももにあてがっている女性の写真があった。

ドライヤーの先端部分に丸い金属が付いているような機械だ。
美容器具らしい。
その金属を当てた部分はなんとスリムになるというのだ。
かなり怪しいぞ。

昼休憩の時間がきたので赤松の許可を貰い昼食に出た。
妙に開放された気分だ。
会社の1階で同期の女の子に出会った。
渡辺とかいう子だったと思う。

次のページに続く!!

渡辺はなにやらオロオロしていた。
「どうしたの?」
俺が話掛けると渡辺はこっちを振り向いた。
目には涙を溜めている。
「昼ごはんを食べるところを・・・」
俺は昼食に渡辺を誘った。
彼女は短大を出た20歳だった。

彼女は女の子でありながら技術系の部署に配属された。
カメラや三脚。その他の荷物を担いで動くのは
男でも大変な部署だ。

俺は昼食を食べながら渡辺に聞いた。
「さっき泣きそうな顔をしてたよな?」

渡辺は不安気な表情を浮かべてこう話した。
「配属のあと先輩に機材の説明を受けたんだけど
全くなにがなんだか理解できなかった。
技術部は電気系統のことも理解しなきゃいけないし・・・。
やっていけるか不安で・・・」

次のページに続く!!

みんな不安は同じなんだな。
俺の制作部も理解出来ない言葉は飛び交うが
技術部よりマシだろう。

ラーペ
フォーペ
NP1
トライ
プロミスト
ハツハツ

こんな意味不明な言葉を平気で使うのが技術部だ。
またこれらの言葉を理解しなければ技術部の資格はない。
初日に・・・矢継ぎ早にこんな専門用語を聞かされた
渡辺の不安は計り知れない。

しかしこの渡辺は数年後立派なカメラマンになる。
まだまだ男性社会が色濃くのこるこの業界で
男性には絶対的に劣る体力面をカバーし
渡辺はカメラマンになったのだ。
素晴らしい努力家といえる。

俺と渡辺は昼食をしまし会社に戻った。
渡辺の部署は1階だ。
エレベーターに乗り込む俺に不安げな表情を見せた渡辺。
俺も不安なんだよ。
心の中でそう呟いた。

次のページに続く!!

昼食後、赤松に連れられ例の会議室へ。
そこには30歳前後の小太りの男がいた。
「志村です。君が二宮くん?」
気さくに話しかけてくる志村に好感を持った。

「僕も2年前はこの会社にいたんだ。
今回は僕のADについてくれるんだね。よろしく」
俺はホッとした。この人となら・・・この人なら
付いていけそうだ。

しかし世の中はそんな甘いものでは無かった。

赤松が「志村あとはヨロシク!」と言って会議室を出て行った。
さて、なにをお手伝いすればいいのだろう?
俺は志村に
「すみませんVPってなんでしょうか?」と尋ねた。

その瞬間、志村の顔色が変わった。

次のページに続く!!

「VPぃぃぃ??そんなことも分からんのか君は?」

さっきまでの気さくな志村はどこにもいなかった。
何か汚いものでも見るような目つきで俺を見下ろし。
「ビデオパッケージ」とだけ言った。

そのビデオパッケージも意味不明だ。

俺は正直ビビった。

世の新入社員は皆こんな感じなのか?
だって新入社員だ。
全ての言葉が理解できるわけがない。
それとも俺が勉強不足なのか?

俺は急に志村に話掛けにくくなった。

それでも勇気を振り絞って声を掛ける。
「あの・・・志村さん。僕は何をすれば・・・」
完全にビビっていた。
どんな言葉が飛んでくるのか?
それが恐怖になっていた。

次のページに続く!!

学生時代なら一瞬でボコボコにしていたような
小デブが社会で怖いのだ。

「これ。今回の台本。読んで」
ドサッと置かれたのはA4のコピー用紙をクリップで束ねたものだった。
これが台本というものか。

俺はそれに目を通した。
日本語なので理解は出来るが
本当の意味での、業界的な意味での理解はモチロン出来ない。

俺は一通り目を通してから
「読みました」と志村に声を掛けた。

「そう。それじゃ明日までに香盤表よろしく」と志村は言った。

香盤表・・・なにそれ??

志村は席を立つと
「んじゃ俺帰るから。お疲れ~」と言葉を残し
部屋を出ようとした。

次のページに続く!!

「ちょ・・・待って下さい」
俺は志村を引き止めた。
ここは曖昧に出来ない。
言葉の意味すら分からないものなんて
引き受けられるわけがない。

志村はまたあの視線を投げかけてきた。
そう。汚いものを見るようなあの目。
「香盤表ってなんですか?」

やれやれといった様子で志村は答えた。
「撮影の順番だよ。それをスタッフが見て
次はこれを撮影すのか。って確認する表だよ」
それだけ言い残して志村は部屋を出た。
フリーなのでいつ帰っても誰も文句を言わない。

次のページに続く!!

志村の声が聞こえる。
「赤松さん。それじゃ~また~」
おいおい。マジかよ。
マジで帰ったのかよ?

俺は途方に暮れた。

実はいま考えても志村のこの行動は暴挙であった
香盤表というものは1つの撮影において
かなり重要なものである。

40人程度の全てのスタッフがそれを元に動く。
この香盤表が適当に作られたものだと
撮影終了時間が大幅にズレ込んでくる。

すると外部スタッフの費用や
スタジオ費用が大幅にUPしてしまうのだ。

かといってタイトにスケジュールを組んでも
あまりに無茶な香盤表だとスタッフに反感を買う。
ひどい場合には技術スタッフに殴られかねない。

次のページに続く!!

香盤表を作成する作業は撮影を熟知し
なおかつ技術的に必要な時間まで理解しないと
到底作れるものではないのだ。

「志村を殴って会社を辞めてやろうか」
入社5時間程度で本気でそう考えた。
志村が帰っていなければ実行していたかもしれない。
あまりにも無茶苦茶だ。

それでも分からないなりに取り組んでみる。
しかしヒントの1つも無い状態では全く何もできない。
仕方無い。赤松に聞こう。
しかし赤松がいるべきデスクにその姿は無かった。

俺は焦った。あんな陰気臭いオッサンでも最後の拠り所なのだ。
ホワイトボードで確認する。

「赤松 A代理店打ち合わせ→直帰」

終わった・・・。
入社初日で完全な絶望感に襲われた。

次のページに続く!!

俺はフラフラと社内を彷徨った。
どうすればいいのか全く分からない。
その時1人の男が声を掛けてきた。
「お前新入社員だろ?どうした?顔色が悪いぞ」

田畑さんである。
志村の1つ後輩にあたるこの人は
社内でも有名な変わり者だ。

タバコとコーヒーを愛しひたすら仕事をしている。
1度会社が停電になった時も
皆パニック状態の中で彼だけは
我関せずといった感じで台本を書き続けていた。
とにかく会社の人間と距離を置き
理想の演出のみを探求する人であった。

この当時、釣り番組をメインに担当していた彼は
のちに天才演出家として社内のエースディレクターとなる。

次のページに続く!!

いま考えてみても、この時田畑さんが
俺に声を掛けてきたのは全くの気まぐれだったのだろう。

俺は目に涙を溜めていたかもしれない。
数時間前の渡辺の状態だ。

俺はとにかく嬉しかった。

荒野にポツンと1人置き去りにされた様な
状態でどうすることも出来ない俺。

そんな俺に声を掛けてくれた人物がいる。
例えそれが誰であれ救われた気持ちになった。

「お願いします。香盤表の書き方を教えて下さい。お願いします」
この時田畑さんがどんな人物ななんて知らない。

いまにして思えば天才演出家に香盤表の書き方を聞くなんて
恐れ多い行為であった。

しかし・・・しかし。俺はこの人を逃すとどんな状況になって
しまうのか想像すら出来なかった。

田畑さんは「香盤表?」と言って目を丸くした。

次のページに続く!!

田畑さんは「ちょっと待ってろ」と言って自分のデスクに向かった。
そして一冊の台本を手に戻ってきた。
「その1番後ろのページが香盤表だ。参考にすればいい」

神様に見えた。
一筋の光明が見えた瞬間であった。

俺は「ありがとうございます。ありがとうございます。」と何度も
頭を下げた。

田畑さんは「じゃ」と言って自分のデスクに戻りかけた
そして「P(プロデューサー)は誰?」と聞いてきた。
俺は「赤松さんです」と答えた。
「D(ディレクター)は?」
「志村さんです。」

田畑さんは少し考える様な表情をして「・・・そうか」と言い残し去っていった。

それから俺は必死になって香盤表を作った。

次のページに続く!!

この撮影時間はどれくらい掛かるのだ?
分からない。

休憩時間は入れたほうがいいのか?
分からない。

食事はやっぱり60分確保するべきなのか?
分からない。

全て分からないが田畑さんに貰った香盤表のお陰で
書き方は分かる。いまはそれでいい。

無茶苦茶な段取りでも知るかっ!
任せたほうが悪いのだ。
そう思いながら作業に没頭した。

しかし1日で全ての撮影を終える香盤表はなかなか出来ない。

時間はみるみる流れていった。
19時。20時。21時。まだまだ終わらない。

入社初日になにやってんだ?俺は。
時々そんな思いが去来してくる。
その度におふくろの顔が浮かんでくる。

次のページに続く!!

おふくろは俺がこんな思いをしてるなんて
きっと知らないんだろうな。
知ったら悲しむかな?

切なさと戦いながらもやっと香盤表は完成した。
今にすればなかり滅茶苦茶な時間の割り振りだったと思う。

しかしその時の俺は空中を見上げながら「やっと帰れる・・・」
そう思うのが精一杯であった。

第5章 まりあのカレー屋さん

入社初日はなんとか切り抜け自宅に帰った。
1人暮らしをしていて良かった。

もし実家通いで初日からこんな時間に帰ってきたら
おふくろが心配してしまう。

俺は飯も食わず風呂にだけ入って寝た。
布団の中で思った。テレビ・映像業界の厳しさは
噂どおりだったと。

次のページに続く!!

2日目の出社。この日からは私服だ。
これはこの業界で数少ない良い部分であろう。

来社した志村にさっそく香盤表を見せた。
「この撮影がこんな短時間でできると思ってんの?
こんな無茶苦茶な香盤で撮影できるわけないじゃん。
やり直し」

あっさりと俺の作った香盤表は付き返された。
「志村いつか殺す!」
そう思いながらまた香盤表を作る。
志村を殺してやりたい!それしか仕事の原動力は無かった。

実際志村をボコる姿を想像してニヤニヤ笑うという
不気味な行動もあったと思う。
とにかく2日目は丸1日香盤表を作った。
志村の許可が下りない事には終わらないこの作業。

次のページに続く!!

勉強ならば自分がやらなければ
テストの点数が悪いだけだ。
いつかは終わる。

しかし社会は上司がOKを出すまで終われない。
いや終わらない。

その日の18時とうとう香盤表は完成した。
10回以上作り直してやっと志村を納得させたのである。

もちろん「俺の最初の試練に良く耐えたな!これから二宮は
俺の立派なパートナーだ!」なんて言葉はない。

志村は「次これパソコンで清書してくれ」と言って台本を渡してきた。
この小ブタはワードを使えない。
台本は全て手書きなのだ。いい加減にしろや!

しかし俺はそれをやるしかないのだ。
嫌なら辞めるか、自らがディレクターになるしかない。

次のページに続く!!

そんな毎日が続く中、ある日ポツンと暇な日が出来た。
赤松も志村もいない。
今日は早く帰れるチャンスだ。

俺は定時になるとササッと会社を飛び出した。
18時に会社の外にいる自分。
こんな早い時間に自由を手に入れた自分。

俺は酔いしれた。
そして電車に飛び乗った。

地元の駅に着くと空腹感に見舞われた。
そういえば入社以来まともに晩飯を食べていない。

俺は帰り道にある某有名カレーチェーンに入った。

メニューを見る。納豆フライドチキンカレーに決めた。
少しグロだと思うかもしれないが
俺はこれが大好きだ。

お決まりですか?女性定員が声を掛けてきた。
俺はメニューから顔を上げた瞬間「あっ・・・」と声を漏らした。

まりあだった。

次のページに続く!!

まりあも驚いた表情で「あ・・・。二宮さん」と言った。

まりあはニコッと笑うと「お仕事帰りですか?」と聞いてきた。
俺は焦りながらも「はい・・・そうです」と答えるのがやっとであった。
それにしても。

カレー屋の制服も見事に似合う。

やっぱり可愛い。

俺は注文を済ますと油田のことを思い出した。
そういえばアイツにマンガ返してなかったな。

まりあが納豆・フライドチキンカレーを持って来た。
「ごゆっくりどうぞ」と微笑み掛けてくれた。
それで胸が一杯になった。

500gは多すぎた。

俺がカレーを食べていると「お疲れ様でしたー」という声が
カウンターから聞こえてきた。

なに?まりあの上がり時間なのか?
厨房の奥に消えていくまりあ。

次のページに続く!!

俺は少しがっかりしつつもカレーを食べた。

すると突然前の席に人が座る気配を感じた。
カレーから顔を上げるとそこにはまりあがいた。

目をパチパチさせる俺を見てまりあは言った。
「いまバイト上がったんです。食事終わるまで待ってるんで
一緒に帰りませんか?」

俺は最初言葉の意味が理解出来なかった。

誰と誰が一緒に帰るって??

俺とまりあか!!??

「うん。すぐ終わるから」そう言って俺は必死にカレーをかっ込んだ。

まりあは笑いながら「ゆっくりでいいですよ。本当に」と言ってくれた。
笑顔が本当に可愛い。
しかし会話が必要だ。
俺は油田から仕入れた情報を元に話掛けた。

次のページに続く!!

「大学生なんだよね。ここはバイト?」
当たり前のことを聞く。
「そうなんですよ。週3日か4日入ってるんです。カレーが好きなんです」

バカみたいな理由だ。しかしバイト選びなんてそんなもんか。

「そういえば俺の引越し初日はカレーありがとう。美味しかったです」

容器はまりあの玄関に置いておいたがお礼はちゃんと言えていなかった。

「油田くんとは友達?」これも気になる。
もしかして彼氏ってことは無いよな?

「そうなんですよ。
彼とは授業が一緒で
そのうち同じマンションって気づいたんですよ。
それからは学校で会っても話する仲になりました。」

なるほど。特別親しい間柄ではなさそうだ。
まりあちゃんと呼ぶ程の仲でもない気がした。

次のページに続く!!

後に分かったことだが油田は
少し知り合いになった
女の子に慣れ慣れしくすることで
自分を大きく見せる癖があった。

俺はカレーを食べ終えるとまりあと一緒に店をでた。
並んで歩く。
マンションまで10分程度の距離。

ついこの前、油田と並んで歩いた時とは大違いだ。

幸せだった。

しかしあっという間にマンションに到着してしまった。

「それじゃまた!」と言って各々自分の部屋へ入る。

俺は幸せの余韻に浸っていた。
これからもっと仲良くなれるかも・・・。

しかし俺の幸せは長く続かなかった。
鞄の中でマナーモードに設定していた携帯。

次のページに続く!!

その携帯に24回もの着信があったこと。
その着信の主が志村であったこと。

この時の俺は自分の置かれた状況に
まだ気づいていなかった。

第6章 地獄

俺は部屋に帰った後ご機嫌でシャワーを浴びた。
シャワーから出ると冷蔵庫から缶ビールを出して
一気に飲み干した。

うまい!

TVのスイッチを入れた2本目の缶ビールを開ける。

俺は先ほどのまりあとの出来事を回想していた。
表情が勝手にほころんでくる。
頭の中はまりあの笑顔で一杯だった。

何気なく鞄の中の携帯を取り出す。充電しなければ。

携帯がピカピカ光っていた。着信か?
携帯を開いた俺は目を疑った。

「着信24件」

誰だ?24件もの着信なんて。
履歴を見る。一気に背筋が凍りついた。

次のページに続く!!

志村 志村 志村 志村 志村・・・・・

全てが志村からの着信だった。

ドクン・・・。心臓の高鳴りが分かった。

酔いは一気に吹っ飛んでいた。
まりあの笑顔も消えていた。
まさか・・・仕事でなにかあったのか?

俺は震える手で志村に電話した。
怖かった。
これから聞かされる事実は一体どの様なものなのだ?

想像すらつかない。

着信音がなる。1回・・・2回・・・。

ガチャ。

ドキッ・・・。繋がった・・・。

いきなり志村の怒鳴り声が飛び込んできた。
「貴様!いまどこだ!?」

次のページに続く!!

俺は驚いた。志村がまさかこんな声を出すとは。
今まで散々なことを言われたが、それは嫌味を含んだ
ねちっこい言い方だった。

その志村が怒鳴っている。
余程の事体ということは容易に想像できる。

「すみません。自宅ですが・・・」
もう既に謝っている俺がいた。

「お前台本はどうしたっ!!俺がお前に清書を頼んだ台本だ!」

「それでしたら清書の後に志村さんにFAXしていますが・・・」

「バカヤロー!そんな事じゃねーよ。今日代理店に持って行く日だろが!
清書したデータをよ!」

俺は目の前が真っ暗になった。
そうだ・・・。今日は清書した台本をROMに焼いて代理店に提出する日だった。
完全に忘れていた。

次のページに続く!!

「テメーのお陰でフリーの俺に電話がジャンジャン入ってんだよ。
いくらお前に電話しても繋がんねーし。
代理店誤魔化しきれないんだよ!」

もはや志村の怒鳴り声よりも、数段上の恐怖が俺に襲いかかっていた。
時計を見る。22時・・・30分・・・。血の気が引いた。

俺はとにかく志村に言った「すみません。今すぐ代理店に行きます。切ります」

俺は部屋を飛び出した。
手が震えていてキーがドアに入らない。

カギはもういい。とにかく急がなくては!

俺は駅まで全力で走った。汗がダラダラ流れる。
しかし関係ない。

駅に着く。
この時既に23時前。電車はまだ十分にある。
しかし・・・しかし・・・。

次のページに続く!!

ここで俺の失態がどんなものか説明しておこう。
通常1本のVP(企業の説明や、商品の紹介ビデオと思ってもらってよい)は

スポンサー→広告代理店→制作会社の流れで発注される。

我々制作会社の人間はスポンサーに会うことは滅多にない。
せいぜい撮影日か完成試写で顔を会わす程度だ。

スポンサーフォローは全て広告代理店の業務だ。
そしてスポンサーの意向を俺たち制作会社に伝えるのが
広告代理店の仕事だ。

つまり。俺たち制作会社は代理店から仕事を貰っている。
それは今までの実績や信用で仕事が貰えるのだ。

そして今日・・・。

俺は18時に代理店へ台本を持って行く約束をしていた。
代理店は19時にスポンサーへ台本を持っていく。

・・・と言っていた気がする。

それを思い出した俺は更なる恐怖に襲われた。

次のページに続く!!

ドクン・・・。また心臓が高鳴った。

それは正に言葉で表現仕切れるものではない。
今までに味わったことの無い恐怖としか言いようがない。

今日の19時に一体どんなことが起きていたのであろう。
スポンサーはもちろん怒り狂っただろう。
中小クラスの企業にとって新製品のVPは正に社運を掛けている。

社長クラスが打ち合わせに来ていたかも知れない。
少なくとも幹部クラスは確実に全員集合だ。

そこに代理店の人間が行って
「すみません。台本が入手できていません」と言うのか・・・。
代理店の苦痛を想像すると死にたくなる。

そして・・・。
やがてその代理店の苦痛は怒りに変わり
制作会社に向けられる。

次のページに続く!!

この仕事が飛ぶことすらあるかもしれない。
万一それを免れたとしても、その代理店からウチに仕事が来ることは
二度とないだろう。

もはや俺のような新人が想像できる範囲の事態ではない。
いま乗っている電車から飛び降りて死にたい。

早く着いてくれよ!頼むから!

電車のスピードが異常にもどかしい。
たった3つの駅がこれほど遠いと感じたことは無い。

駅に到着した俺は改札へダッシュした。
自動改札へ定期を入れる時間ももったいない。

俺は駅員の窓口を駆け抜けた。
仮に駅員が何か言ってきても止まる気は無い。

俺は会社に飛び込んだ。
もう誰もいなかった。

次のページに続く!!

俺は壁の電気を乱暴に付けると自分のデスクへ走っていった。
引き出しを引っかき回して目的のCD-DOMを持って
会社を飛び出した。

時計を見る23時30分前。
常識的に考えてもう無理だ。
絶対確実に無理だ。

万一代理店の人間がいたら、怒り狂っているはずだ。
どうやって謝ればいいのだ?

肺が痛い。
電車を降りてからずっと走りっぱなしだ。

ウチの会社から代理店までは走って5分の場所だ。

代理店の入っているビルに到着した。

上を見上げる。
代理店の入っているはずのフロアの電気は消えている。
玄関のドアを開けようとしたが開かない。
ビル全体がロックされていた。

次のページに続く!!

俺は財布をあさった。
確か代理店の人間に貰った名刺があるはず。

見つけた。俺は急いで代理店に電話を掛けた。

真っ暗なフロアを見上げながら・・・。

何度も何度も掛け直したが、とうとう電話は繋がらなかった。

筆舌にし難い感情が全身を襲う。
俺はその場に跪いた。
目には涙が浮かんだ。

明日が見えなかった。

第7章 運命の歯車

俺は真っ暗なオフィスで自分の席に座っていた。
全て終わったな・・・。

恐らくクビであろう。

俺は今回の失敗の損害を考えた。
万一この仕事が飛でしまった場合

会社の損害は甚大なものである。
今までの人件費に加え
もしかすると代理店に損害賠償を支払わなければならないかも。

次のページに続く!!

志村の台本もゴミになり
赤松も会社の信用を失うだろう。

技術スタッフにしてもそうだ。
撮影をする上での
今までの準備や打ち合わせは全て無駄なる。

ライティングに関しては外注スタッフだ。
スケジュールを押さえてしまった以上
ギャラは発生する。

後はスタジオのキャンセル費。衣装代。
そうそうメイクさんもギャラは発生するな。

あの代理店は二度とあの美容器具の会社から仕事を取れないかも。
代理店の人だって自社で激しい吊るし上げを食らうに違いない。

絶望だ。

「死んでしまおうかな?」自然とそんな言葉が出てしまう。

俺は呆然と空中を見ながら思った。

次のページに続く!!

「おふくろの声が・・・聞きたいな」

気が付くと俺は携帯で実家に電話をしていた。
こんな時間だもんな。
おふくろ寝ているよね?

しかし意外にも電話は2コールほどですぐに繋がった。

「はい。二宮です」

2週間ぶりに聞くおふくろの声は妙に優しく
そして懐かしくさえ思えた。

「俺・・・だけど・・・」
震える声を絞り出してやっとそう切り出した。

「光輝かい?どうしたんだい?こんな夜中に」
おふくろは明らかに動揺していた。

そりゃそうであろう。こんな時間に暗い声をした
息子から電話があれば誰だって動揺する。

次のページに続く!!

「もしもし?もしもし?」
おふくろの声を聞いて泣きそうになる。
鼻の付け根の辺りがツンとして痛い。

「おふくろ・・・ごめんね・・・」
やっと出た言葉がそれだった。

バカでアホな息子でごめんね。

一生懸命育ててくれたのに
単純作業も出来ない息子になっちゃってごめんね。

人様に迷惑を掛ける息子になってごめんね。

自慢の息子になれなくてごめんね。

俺はとうとう泣き声になってしまった。

おふくろは言った
「どうしたんだい?話してくれなきゃわからないよ」

俺は泣きながら母親に伝えた。
入社たった2週間程度で
会社に多大な損害を与えてしまったことを。

次のページに続く!!

俺の話を全て聞き終えたおふくろは
ゆっくりと言った。

「そんなことかい?だったら会社を辞めて
また母さんと2人で暮らせばいいじゃないか。
母さんの家に戻ってくればいいじゃないか」

俺は小学校の時以来、口にしていなかった言葉を言った。

「おかあちゃん・・・・」

ごめん。当時のことを思い出したら
涙が出てきた。少し時間をくれ

俺はふと中学生の時の出来事を思い出していた。
親父が亡くなったばかりで
家計が急に切迫された状態になった。

必死でパートに出ていたおふくろの苦労も知らず
俺は夜遊びを覚えた。

そして迎えた俺の誕生日。

次のページに続く!!

ケーキを買う余裕なんてなかったのかもしれない。
深夜帰宅するといかにも不味そうなケーキがテーブルに置いてあった。

おふくろの手作りだった。

おふくろはケーキなど作ったことは無かったのであろう。
クリームはグチャグチャで
上に乗っていた苺は不揃いに並んでいた。

それでもおふくろは言った。
優しそうな笑顔で

「光輝お誕生日おめでとう。ケーキ食べな」
当時の俺は想像を絶するバカだった。
「こんな不味そうなケーキ食えるか!」
そう言ってケーキを壁に投げつけた。

俺も当時ガキだった。
親父がいた時はちゃんとしたケーキが食えたのに。
なんでこんなケーキになったんだよ!

次のページに続く!!

理解はしようとするものの
家庭の経済的変化は感情が受け付けなかったのである。

おふくろは床に散らかったケーキを片付けながら
涙声で言った。

「貧乏でごめんね・・・」

電話口でおふくろの声が聞こえる。

「光輝はなにがあっても母さんの息子だよ」

俺は涙を必死で堪えた。
そして言った。

「ごめん。ごめん。本当はそんなに大したミスじゃないんだ
ちょっと弱気になっただけ。だから心配いらないよ」

そして電話を切った。
これ以上おふくろの声を聞いていたら
また泣いてしまうよ。

次のページに続く!!

ごめん。30分後には必ず戻る。
皆も休憩してて。

戻ったら頑張るよ

それから俺は朝まで自分のデスクでボーッと過ごした。
朝8時。
次々と社員が出社してくる。
この業界で8時に出社してくる人間は大概がロケだ。
事態を知らない人は気軽に俺に声を掛けてくる。

「おお。二宮!早いじゃん。おはよう!」
そして準備を終えると次々にロケへ出動して行った。

誰の顔もロケに対する意気込みが伺え
俺は置いてけぼりをくらったような
惨めさを感じた。

そんな時、女の声が聞こえた。
「二宮くん。早いね~。」
渡辺だった。

次のページに続く!!

通常は制作部のフロアに上がってくることは無い
彼女だったが何かしら用事でもあったのだろう。

「二宮くんもロケ?」事情を知らない渡辺の声は明るい。
「いや・・・」正直答えるのも面倒だった。

「ちょっとミスってさ。泊まり明け」
渡辺が不安気な表情で俺の顔を見る。

「ミスって・・・。どんなミス」
「取り返しのつかないミス」

更に深く追求してこようとする渡辺から
「もう行かないと怒られるよ」と言って俺はトイレへと逃げた。

9時にもなるとそろそろ社内に活気が出てくる。
皆はまだ俺のミスを知らない様子だ。

いや。知っていてあえて無視していているのか?
余計な事まで考えてしまう。

次のページに続く!!

そんな時、フロアの入り口から赤松が見えた。
眉間にシワを寄せ妙に早足で自分のデスクに向かう。

俺は席を立って赤松の元へ駆け寄った。
「赤松さんすみません。俺・・・俺・・・・」
赤松はそんな俺の言葉を遮るように
「志村に聞いた」とだけ言って電話の受話器を上げた。
電話の相手は例の代理店だった。
「この度は誠に・・・。はいはい。すぐに伺います」
俺は赤松の横に立ち胸が締め付けられる思いだった。

しかし俺には何も出来ない。
無力な新入社員なのだ。
電話を切った赤松は俺に
「ROM。原稿の入ったROM」と言った。

俺は自分の席に走っていきCD-ROMを取ってきた。
それを赤松に渡した。
「お前は会社で待っていろ」そういうと赤松はまた早足に
会社を出て行く。

次のページに続く!!

俺と赤松のやり取りに気づいた社員が
事態に気づき始めた様子だ。

「何かあったのか?」

耳を澄ませばそんな声が聞こえてきそうだった。

俺はまた自分のデスクに戻って赤松の帰りを待った。
針のむしろとはこういう状態なのだろう。
事態に気づき始めた社員の視線が痛い。

1時間ほどして赤松が帰ってきた。
どうなったんだ?代理店はどんな反応を見せたのだ?

「赤松さん・・・」近づく俺を無視して
赤松は数人のプロデューサーを集め、会議室に入っていった。
当然俺が入って行ける空気ではなかった。

30分ほどでプロデューサー連中が
会議室から出てきた。

俺は赤松の元に駆け寄った。
「どうだったんですか?代理店は怒っていますか?」

次のページに続く!!

赤松はあからさまに不機嫌な表情で
「まだ分からん」とだけ言った。

そして「二宮。お前は自宅に帰れ。連絡が来るまで出社せんでいい」
俺は腰が崩れるような感覚に襲われた。

撮影まであと3日。今から他のADを立てるのか?
俺は完全にこの仕事から外されたのだ。

入社して初仕事での大失態。
呆然とするしかなかった。
赤松に必要書類を渡して俺はトボトボと会社を出た。
その瞬間だった。
ちょうど来社した志村に出くわした。

いま1番会いたくない人物だった。
しかし謝らないわけにはいかない。

「すいませんでした。志村さん」

精一杯の言葉がそれだった。
しかし志村は例の目線。

次のページに続く!!

そうあの汚いものを見るような目で
俺を一瞥して社内へと消えていった。

呆れてものも言えないのか?
それとも話する価値すらないと思われたのだろうか?

どっちにしろ俺はショックだった。

自宅のある駅まで電車に揺られる。
なぜこんな時間に家に帰るってるんだろ?俺。

消えてしまいたいな・・・。

志村のあの目を思い出す度にそう思った。
マンションの近くで油田に会った。
「あれ?どうしたんですか?こんな時間に」
油田は午前中に帰ってきた俺を不思議に思ったのであろう。

「いや。ちょっとね」
コイツに事情を説明したところで何にもならない。
「そうそう。マンガありがとうね。今度返しにいくよ」

次のページに続く!!

油田は少し心配気な表情で
「それはいつでもいいですけど。顔色悪いですよ」

エレベーターで3階のフロアへ到着した。
その時ちょうど302号のドアが開いて
まりあが出てきた。

会いたく無い時に限ってやたらと人に会うもんだ。
そうか。2人共大学へいくのか。

「おはようございます。あれ顔色悪いですよ?」
まりあも俺の顔を覗き込んできた。

余程血の気の失せた表情をしていたのだろう。

「うん。ちょっとね。風邪気味みたいだから早退」
そういって無理に笑顔を作った。

さすがにまりあに対してだけは
情けない姿を見せれなかった。

「え・・・。大変じゃないですか?」
心配してくれるまりあ。

次のページに続く!!

しかし今は1人なって寝たいんだ。
「大丈夫だから。マジで」

そういって俺は自分の部屋へと消えた。
とにかく眠ろう。
眠ってなにもかも忘れたいんだ・・・。

俺はその日夕方まで眠った。
しかし熟睡は出来なかった。

今現在、会社で起こっているであろう騒ぎを想像すると
夢にまで出てくる。

携帯を見てホッとする。
どこからも着信は無かった。

風呂に入ることも食事をすることも全てが面倒だった。
ただ布団の中で目を瞑っていた。

夜の8時ごろだった。
ピンポーンとやたらと大音量のインターホンが鳴った。

次のページに続く!!

俺は布団のビクッとなった。
頭の中には「もしや会社の人間!?」それが真っ先に浮かんだ。
もはや鬱病状態だった。

恐る恐るインターホンの受話器を取った。
「はい・・・」

すると意外な人物の声だった。

「どうも油田です」
なぜ油田が?

しかし会社関係ではないことに安堵した。
ドアを開けると油田はダンボール箱を抱えていた。

中には「YAWARA」がびっしりと詰まっている。

「今日学校でまりあちゃんに聞いたんですけど
二宮さん風邪だって。
だから暇持て余しているかなって。
これ良かったら読んで下さい。」

俺は油田の心遣いが嬉しかった。

次のページに続く!!

ご近所付き合いっていいな。
心底そう思った。

「ありがとうね。油田くん。助かるわ」
笑顔でそう言って俺は「YAWARA」を受け取った。

ついでに読破した「はじめの一歩」を油田に返した。
「もし具合が悪くなったらいつでも言って下さい」
そういって油田は自室へと帰っていった。

俺は思った。

油田はオタクの趣味が合わないけどいい奴だな。

俺はまた布団に潜り込んで「YAWARA」を読み始めた。
昔に読んだマンガであった。妙に懐かしい。

普段は乱暴だが、心の奥底で柔を愛するおじいちゃんは
俺の心を和ませてくれた。

そしてマンガに夢中になることで俺は仕事のことを
忘れようとしていた。
次の日俺は昼過ぎに目を覚ました。

次のページに続く!!

すぐさま携帯を確認してホッとする。
どこからも着信は無かった。

携帯はマナーモードにしておいた。
今の俺の状況では着信音でも心臓が止まりかねない。

俺はふと親友の顔を思い出した。

俺には親友と呼べる友達が1人だけいる。
小学生の時からの幼馴染だ。

こいつだけはいつも俺のことを親身になって
考えてくれた。

俺がグレた時も色メガネで見ることは無く
普通に接してくれた。

俺は親友に電話をした。
久しぶりに声が聞きたくなったのだ。

「やほー!元気?」
受話器越しから聞こえてくる声。
相変わらずだな。
俺が電話したっていうのに。

次のページに続く!!

「おー。元気だよー。そっちは相変わらず?」

「相変わらずさ。フリーターしながら全国を旅してます。」

こいつは高校卒業後フリーターとなり
暇を見つけては日本全国を旅している。

人生気ままが1番。これが奴の口癖だ。

「どうだい?リーマン生活は?」
俺はその辺りを適当に濁した。

「平日の昼に電話してくるなんて映像業界も案外ヒマですね~」
「バーカ。代休だよ。代休」
「代休ならおふくろさんの所帰ってやれっての!」
「まぁその内ね」

俺達は他愛の無い話で盛り上がった。
嬉しかった。心が和んだ。

こんな親友を持てて幸せだと感じた。

「あ・・・俺そろそろバイト行くわ。」

「そか。また電話するよ。バイト頑張れよ!悟」

次のページに続く!!

俺達は再会を約束して電話を切った。
俺はカップラーメンの簡単な食事を済ませて
また布団に潜り込んだ。

油田に借りたYAWARAの続きを読む。

夕方5時。ピンポーンとインターホンが鳴った。
またもやビクッとする。
少し音量を下げれないものか?
今度調べてみよう。

「こんばんわ。具合どうですか?」
声の主は油田だった。

「ちょっと待ってね。玄関開けるよ」
油田は心配そうに俺の顔を見る。

「少し顔色良くなりましたね」
「おかげさまで」

「それでですね・・・。もし良かったら今夜
まりあちゃんの部屋ですき焼きパーティーしませんか?」

次のページに続く!!

えええええ!!!マジかよ!!??デブ!!!???
「え・・・。なんで?」
俺はドキドキしながら聞いてみた。

「今日も学校でまりあちゃんと会ったんですけど
二宮さん風邪だし、すき焼きでも食べて元気になってもらおうって」

「ありがとう。行くわ。マジでありがとう」
俺は油田に握手しそうな勢いだった。

「それじゃ6時30分。まりあちゃんの部屋で」
そういって油田は部屋のドアを閉めかけた。

そして・・・。ニヤリと笑ってこう言った。
「僕も初めてなんですよ。彼女の部屋は」

万一部屋で変態行為に及んだら
殴ってやろうと思った。

鏡を見てみる。ヒゲも伸び放題。
髪もボサボサだ。
これではダメだ。

俺は急いで風呂に入った。
小綺麗に身支度を整えていざ302号室へ。
6時30分丁度だった。

次のページに続く!!

まりあの部屋のインターホンを押す。
なぜかドキドキする。

すぐに「はーい」というまりあの声が聞こえた。
「えと。二宮です」
「ちょっと待って下さいね~」

すぐにガチャリとドアが開いた。
髪の毛を束ね
なんと・・・なんとエプロン姿のまりあが登場した。
可愛すぎるとはこのことであろう。

「ようこそ!中へご案内します」
少しふざけた態度もまた可愛い。

玄関を入るといかにも女の子といった感じの
小物が並べられている。
俺の部屋とは大違いだ。

それになんかいい香りがする。
女の子の部屋の香りだ。

俺はその幸せの香りを肺一杯に吸い込んでいた。

次のページに続く!!

リビングに入った瞬間。
急に部屋の臭いが変わった。

鼻とツンと刺激する酸っぱい臭いとでもいおうか・・・。

「やぁ。どうもどうも」
油田が右手を上げていた。

貴様・・・。約束は6時30分だろうが!

しかしこの刺激臭は以前どこかで・・・・。

そうだ!油田の部屋だ。
油田は異常に足が臭かったことを
思い出した!

「油田くんに横にどうぞ!」
まりあが促してくれる。
とりあえず腰を下ろす。

しかし・・・。なぜか妙に腹立たしいシチュエーションだ。
これだと俺が「油田・まりあカップル」の部屋に
お呼ばれされた状況ではないか。

次のページに続く!!

このオタクめ!もうビールまで飲んでやがる。

まりあは俺にも缶ビールを持ってきてくれた。
「材料もう少しで切り終わるんで、それでも飲んでいて下さいね」
そして笑顔。

いちいち可愛い。

隣に目をやる。油田が「まぁまぁ。おひとつ」と言いながら
俺のグラスにビールを注いでいる。

そして「かんぱ~い」と言ってグラスを高々と掲げた。

待て。まりあがまだいないだろ!バカ!
勝手に始めてんじゃねーよ。

はぁ。コイツさえいなければ・・・。

まりあがすき焼きの材料をテーブルに並べて宴は開始した。

俺はまりあにビールを注いであげた。
「私はまだ19なので。少しで」
意外とマジメなんですね。

次のページに続く!!

俺なんて13歳から飲んでいた。
乾杯の後はまりあがすき焼きを始めた。
油田は鍋奉行なのか

「まりあちゃん。野菜はまだだよ」等と
どうでもいいことをほざいている。

俺は久しぶりのすき焼きに少しワクワクしていた。
ウチは貧しかったので、たまのすき焼きも豚肉だったのである。

牛肉のすき焼きは美味かった。
お酒も進む。なんだかんだといいつつ
まりあも結構酒は強そうだった。

酔いが進むにつれてまりあが饒舌になってきた。
「私初めて油田くん見たとき、オタクかな?って思ったー。あはは」
まりあも言いにくいことを平気で言う。

しかし外れてはいない。油田は正真正銘のオタクである。

「それは酷いですよ。まりあちゃん」
酷くねーだろ!
あの部屋がオタクの部屋でなくて一体なんなんだよ?

次のページに続く!!

俺はまりあに「新田さんは誕生日いつなの?」と聞いた。

まりあは酒で頬を赤くしながら
「まりあでいいですよ。二宮さん年上なんだし」
確かにそう言った。

オタクのメガネがキラリと光ったのを見逃さなかった。
あの光は嫉妬の光だ。

チャンス!既成事実を作ってしまえ。
「そうなの。まりあは誕生日いつなの?」
「8月です。15日。終戦記念日です」

悔しそうなオタク。奥歯を噛み締めているのが分かる。
ザマーミロってんだ。

「二宮さんの部屋って私の所と間取り同じなんですか?」
まりあが聞いてきた。

「俺も光輝でいいよ!」すかざすアピール。
「それじゃ。光輝くんの部屋は間取り同じなの?」

よし!タメ語にまで変形したぞ。

次のページに続く!!

光輝くん>油田くん

立場は逆転したぜ。どうだ油田!?
ビールを飲み干す油田。
逆転のチャンスを伺っている様子だ。

俺は畳み込みに入った。
「今度部屋見にくる?」
まりあは
「えー。いいんですか?明日バイト休みなんで、明日でいいですか?」

よし!9割方勝利したぜ。
しかし油田もこのまま引き下がる相手ではなかった。

「僕も伺いましょう。二宮さんの所」

ナニ!!意外としぶといではないか。
「桃鉄持っていきますよ。3人で遊びましょう」

そういって油田は不適な笑みを
俺に投げかけてきたのだ。

時計を見る。もう23時か。
女の子の部屋だしそろそろ退散しなければ。
俺は油田に言った。

次のページに続く!!

「そろそろ帰ろうか?」
「そうですね・・・。今日のところは」
油田もこのままでは戦況不利と読んだのだろう。
仕切り直しをする構えである。

俺と油田はまりあにお礼を言って部屋を出ようとした。
「ところで光輝くん。風邪の具合どう?」
まりあが聞いてきた。

ドキッっとした。
なぜなら仮病だからだ。
「うん。なんか大丈夫そう」

「それならいいけど・・・。明日仕事だよね?お邪魔していいの?」
2回目のドキッ。
「うん。この際ゆっくりしろって。上司が言ってくれたんだ」
「そうか。それじゃ安心だね。」

油田が口を挟む
「いいんですよ。いいんですよ。二宮さんはお偉いさんなんでぇ」
黙れ!オタク!つまらん親父ギャグを言うな。

次のページに続く!!

まりあは玄関まで見送ってくれた。
「それじゃ光輝くん。明日7時にお邪魔するね」
もう朝の7時でもいいですよ。

「それじゃ二宮さん。僕は6時にお邪魔しますね」
え・・・?なんで・・・?

そんな感じで各々が自室へと戻って行った。
本当に楽しい夜だった。

だが俺は自分の立場を決して忘れてはいない。
俺はケアレスミスで会社に多大な迷惑をかけた。
それはどうやっても逃げられない社会的責任であった。

次の日も俺は昼過ぎに目覚めた。
やっぱり熟睡は出来ていない。
目を瞑ると赤松の顔や、志村の冷めた目線がどうやっても浮かんでくる。

俺はコンビニ出掛けた。
今夜はまりあと油田が遊びに来る。
飲み物を購入する。
食事は色々考えた結果ピザを注文することにした。

次のページに続く!!

とてもじゃないが俺の料理はご馳走できない。

6時15分油田が来た。 コイツ。俺の招待(してないけど)は遅れやがって。
油田は
「やぁ。どうも。どうも。」といいながら
大事そうにPS2と桃鉄を抱え上がり込んできた。

俺のTVにPS2をセットしたところでビールを出してやった。
しばし油田と雑談。

7時丁度にまりあがやってきた。
今日もやっぱり可愛い。
「おじゃましまーす」

やっぱり女の子はちゃんと挨拶が出来るね。うんうん。
「こんばんわ油田くん」
「やぁ。どうも。どうも。」
油田の挨拶はいつも同じだ。

「へぇー。ウチとは左右対称の作りなんだ。なるほどー」
そういってまりあは室内を見物する。

次のページに続く!!

「ウチとは全く同じ作りなので、自分の部屋にいるような感じがしますなぁ」
と油田。
作りは一緒でも中身は全然違うだろが!

「綺麗に片付いているね」まりあにそう言われた。
片付いているというより、物が少ないだけであるが。

早速ピザを注文して皆で食べた。
実はすごく楽しかった。
俺はおふくろと2人の食事だったので

学生と3人との食事はなんだか新鮮な感じがした。
食事の後は皆で油田の桃鉄をやった。

ジャンケンの結果、油田とまりあが同じコントローラーになった。
俺は油田の手汗が心配であった。
そんな俺の思いもお構いなしに
まりあはゲームに熱中していた。

次のページに続く!!

そんな横顔を見ていると
まりあはまだまだ子供なのだなと感じてしまう。

この時、俺の気持ちは既に固まっていた。

俺はまりあを好きになってしまったんだ。

俺はまりあとずっと一緒にいたい。
ずっと大切にしたいんだ。胸が熱くなってくる。

「まりあちゃんの握ったコントローラー。少し生温かいですね」
油田だった。

第8章 会社復帰

結局その日の桃鉄は明け方までとなった。
徹桃というやつだ。

それ以降油田はヒマがあれば俺の部屋へ遊びに来る仲となった。
しかし俺が油田の部屋へ行くことはあまり無かった。
理由は臭いからである。

次のページに続く!!

しかしなんだかんだ言っても油田もイイ奴には変わりない。
マンガも沢山貸してくれた。

それとは裏腹に俺には大きな不安があった。

そうだ。あれから1週間。会社からの連絡が一切来ていないのだ。
あれ程恐れていた会社からの電話なのに
来ないなら来ないで不安になる。

もしや俺の知らないところでクビになっているのかも?
本気でそんなことを考えていた。

しかしあの事件から10日後。
とうとう会社から連絡が来たのである。

赤松からでは無く総務部からの電話であった。

事件が会社レベルにまで発展していることを認識させる。

ただいま。意外と仕事長引きました
ちなみにまりあ編と社会人編は
今の割合くらいの予定なんだけどOKかな?

次のページに続く!!

みんなまりあ(プライベートパート)のほうに
興味ありそうなんだけど・・・

総務部からの電話を切った俺は複雑な心境だった。
会社へ行ける安堵感。
そして会社で向けられるであろう厳しい視線。

それが丁度半分の割合で心を支配した。

おふくろに電話しなきゃ。

そう思い携帯を持った瞬間、着信が鳴った。
知らない番号。

誰だ・・・?

実はこの着信の人物が
のちに空室である304号室の住人となる。

その人物は同期入社で技術部所属の渡辺だった。
「もしもし?」
「あ!もしもし二宮くん?渡辺です」
渡辺か。会社で俺の番号を調べたのだろう。

次のページに続く!!

「どうしたの?渡辺」
「うん。明日から出社するんだよね」
「さっき総務から電話があったよ」
「良かったね。またがんばろうね」

俺は嬉しかった。
そんなことのためにわざわざ電話をくれたんだ。
同期って本当にいいよな。

俺はどうしても聞きたいことがあった。
「例のVP・・・。どうなったか渡辺知ってる?」
「噂だけど無事進行してるみたいだよ。私は技術だからよく分からないけど」

なにより嬉しい情報であった。
少なくとも会社に金銭的損害を与えた可能性は低いと思われる。

俺は渡辺にお礼を言って電話を切った。
そしておふくろにも電話をしておいた。

10日間の謹慎は伝えず
とりあえずは元気で仕事も順調だよ。
それだけ伝えた。

次のページに続く!!

おふくろは少し不安そうだったが
それでも喜んでくれた。

明日からまた仕事だ。
今度はミスは許されない。

もし今度・・・こんなミスをしたら。
潔く会社を辞めよう!
俺に映像業界は向いていなかったというわけだ。

その日はシャワーを浴びて早く寝た。
まりあや油田と過ごした日々が
非日常であったような気がした。

俺は社会に戻っていくんだ!

次の日電車に揺られながらもやっぱり怖かった。
どんな顔をして出社すればいいのか?

いま思い出しても新入社員の日々は
業務以外のことに心が支配されていたように思う。

次のページに続く!!

会社に着く。深呼吸をしてから入った。
早めの出勤なのでまだ人はまばらだ。

それでも数人の社員がいたので挨拶をする。
みんなは何事も無かったように
挨拶を返してくれた。

制作に配属された同期は
「良かったね。戻ってこれて」
と俺の復帰を喜んでくれた。

俺のいない10日間
彼らも必死に生き抜いてきたに違いない。

そんな俺に1人の男が声を掛けてきた。

「おう。二宮。今日からか?」

意外な人物だった。
孤高の天才であり、社内のはぐれ者である田畑さんだった。

「すみませんでした。今回はご迷惑を・・・」
なぜか必死に田畑さんに謝罪をしている。

次のページに続く!!

「俺は別に迷惑なんか掛けられてねぇ」
独特の低い声で言う田畑さん。

さらに
「二宮。お前がこの会社にずっといたいのなら・・・」

ゴクリ・・・。いたいのなら??

「会社のためとか考えるな。俺らは技術を身につければ
フリーにもなれる。会社に身を捧げて自分を潰すんじゃねーぞ」

それだけ言って田畑さんは自分のデスクに帰っていった。
そして孤高の天才は台本制作に取り掛かった。

9時30分会社が活気づいてきた。
そんな時、赤松が出社してきた。

俺は赤松に駆け寄った。
この瞬間が昨日から1番恐れていた時間だ。

「すみませんでした。赤松さん。僕のせいで・・・」
赤松は俺のほうに顔を向けずに
「ああ・・・・」とだけ言い残し
自分のデスクに座った。

次のページに続く!!

赤松には完全に見捨てられた様子だ。
トボトボと自分の席に戻る。

仕事がない。何一つとしてやることがない。
苦痛だった。

そこにスーツ姿の男が現れた。
総務部の男であった。
「赤松さん。二宮さん。総務部へ来て下さい」

な・・・なんだ。

総務部に到着するとスーツ姿の役員連中が座っていた。

「二宮くん。よく来たね」
役員の1人が優しい声を掛けてくれた。

俺と赤松は役員連中の前に並んで立った。
「さてと・・・」
役員が切り出す。

「今回の件で代理店側から大幅に制作費を削られたのはご存知の通り」
ご・・・ご存知ありません。

次のページに続く!!

「そこで会社としては一応の処分を赤松さんと二宮くんに下します」
処分・・・!!

「赤松さんは6ヶ月の減給。二宮くんは2ヶ月の減給」
意外だった。
俺より赤松の方が処分が重い。
これがサラリーマン社会なのか。

赤松が口を開く
「ちょっと待って下さいよ。上司だからと言って
お使い程度のことまで管理しきれませんよ」

確かにそうだ。
俺は下を向いて唇を噛むしかない。

しかし赤松の意見が通ることは無かった。
総務部を出た俺と赤松。

やはりもう一度謝るべきだろう。
「すみませんでした。赤松さん」
しかし無視された。

制作部のフロアに戻るとご丁寧に
俺と赤松の処分を記した紙が貼られていた。

次のページに続く!!

気が滅入る。働いて給料を貰うのはこんなにも
苦痛の連続なのか。

それから俺は自分のデスクでただ座っているしかなかった。
仕事が無い。

電話はジャンジャン鳴り。みんな忙しそうに働く。
取り残された気分だった。

昼前のことだった。
プロデューサーの1人である南さんが声を掛けてきた。

この南という人物。
社内でも有名なアホだった。
50歳前で独身。

空気が読めない上に
今だに簡単な書類も書けない人間である。

入社2日目には「南さんはバカだから相手しないほうがいいよ」と
先輩に教えられたほどだ。

しかし・・・しかし。

次のページに続く!!

根はいいオッサンなのだ。
空気が読めない分いつも明るい。

それが反感を買ってしまうのだろうが・・・。
どの会社にも1人はいそうな人物だ。

「二宮は俺が預かることになったよ。よろしくね」
その日の午後に俺のデスクは
南の横になっていた。

しかし俺は救われた気分だった。
南は俺の問いになんでも教えてくれる。
間違いも多く含んでいるのでその辺りは注意が必要だが。

「まぁ。前の件は忘れてがんばれ」
南は俺を励ましてくれた。
まさに性格は赤松と対極であろう。

さて南の持っている仕事が
今後俺の担当する仕事になる。

次のページに続く!!

それはパブリシティという仕事だ。
俺たちは通常略して「パブ」と呼ぶ。
簡単に説明すると簡易CMのようなものだ。

普段TVで見ているCMは、通常フィルムで撮影されているものが
ほとんどである。

制作費も1千万円~1億円なんてザラだ。
有名タレントを起用し、たった15秒に制作期間は1ヶ月程度要する。

しかしパブリシティCMは1本15万程度の制作費で
8本~15本程度を1日で撮影し編集する。

つまりはTV局がスポンサー確保のため
粗品程度に流してやる1回こっきりのサービスCMと思えば良い。

「担当はフリーの川田だから。もうすぐ来るよ。顔合わせしよう」
フリーという言葉にドキッとした。
どうしても志村の顔が思い浮かぶ。

次のページに続く!!

なぜ俺は社内ディレクターに縁がないのだ。
今度のディレクターは果たしてどんな人物なのだろうか?

15時制作フロアにドデカイ声が響いた。
「どーーーも!!おーーー南さん!来たよ!」
川田さんだった。
その姿を見てビックリした。

40台前半と思われるが
髪は金髪でサングラス。
スーツはビシッと来ているが中はTシャツである。
一瞬で凶器に変化しそうな
ジュラルミンのアタッシュケースを持っていた。

しかしこの出会いが
師匠との最初の出会いになったのだ。

川田さんはいかにも業界人という感じだ。

俺と川田さんは早速2人で次の撮影の打ち合わせをした。
俺は最初この人が怖かった。
何を考えているか分からない。

次のページに続く!!

ヘタなことを聞くと志村の二の舞にならないとも限らない。
「川田さん。この撮影の段取りどうしましょうか・・・?」
恐る恐る聞く俺。

川田さんは眉間にシワを寄せ「う~ん」と唸っている。
そして・・・。

「適当でいいんじゃね?」

へ・・・?

「あの適当だと香盤表が・・・その適当になってしまうかと・・・」

「香盤なんて適当でいいんじゃね?」

川田さんは言った。
「二宮は将来何者になりたいんだ?」

出会った直後の他社の人間を
すぐに呼び捨てにしているところが川田さんらしい。

俺は気合を見せるために大きな声で
「はい!将来はディレクターになりたいです」と答えた。

次のページに続く!!

「うるさいから普通の声でいいよ。
あのな二宮。俺らはクリエイターだ。
香盤みたいなもん
いくら上手く作ってもディレクターになれんぞ」

衝撃だった。
この人はなんて破天荒なんだ。
志村には何度もやり直しをくらった香盤表を・・・・。

「それよりなぁ。二宮」
サングラスの奥の目が怖い。
この人も昔、絶対ヤンキーだったはずだ。

「お前仕事何時まで?」
「僕は6時が一応の定時ですが」
「ふーん。」
川田さんが席を立つ。

川田さんは南さんに近づいてこう言った
「南さん。いまから二宮と撮影のスタジオ確認してきます」

南さんは適当に「はいよ!」と答える。

次のページに続く!!

「行くぞ二宮」
スタスタと会社を出る川田さん。
俺は慌てて後を追った。

そうか!演出家はスタジオの確認をするのだな。
そうだよな。
そこにある照明機材や
スタジオの広さを確認することで
可能な演出を考えるんだな。

勉強になったぜ!

しかし30分後。
俺達はなぜか焼き鳥やにいた。

生ビールが前に置かれる。

「まぁ飲めよ。かんぱーい」
川田さんがグラスを傾けてくる。

俺は驚きながらも川田さんに聞いた。
「ちょ。川田さん。スタジオは見なくていいんですか?」

次のページに続く!!

川田さんはビールをグイグイ飲むと
泡まみれの口で
「なんで見るの?見てもなんも変わらないじゃん」と答えた。

既に2杯目のお代わりを店員に注文している。
「いや。でも香盤表も出来てないし・・・。」

「あのよ。二宮」
2杯目のビールに口をつけた川田さんが言った。
「お前なんのために香盤書くの?」

「それは当然撮影を円滑にするため・・・というか。」

それを聞いた川田さんは「あははは」と大きな声で笑う。
「お前みたいなペーペーの書いた香盤で撮影が円滑に進まねーよ」

俺は少しムッとした。
俺だって志村の嫌味に耐え
なんとか様になる香盤表を書いたのだ。
「まぁ気を悪くするな」 川田さんは言う。
そして「ビール飲めよ。ぬるくなるぜ」

次のページに続く!!

俺はグイグイとビールを飲んだ。
うまい。酒好きの俺だ。
ビールは確かにうまい。

しかし・・・だ。

志村みたいなタイプも困るが
川田さんみたいなタイプも困ったものだ。

この人に付いて行ったら
俺の将来はどうなるのだ?

「あのな。二宮よ」
川田さんは少し真剣な口調になった。

「お前がどんなに素晴らしい香盤を書いても
俺は自分が納得しなきゃ終わらない」

俺は川田さんの横顔を見た。

「そのためにお前の会社がスタジオ代を多く支払っても
俺の知ったことじゃない」

そ・・・そうなのか?

次のページに続く!!

「ただ。逆の言い方をすれば・・・」

「香盤をオーバーして撮影が長引けば
それは俺の責任だ。お前の責任じゃない」
この瞬間俺の気持ちは決まった。

この人に付いて行こうと。
それで俺が一人前のディレクターに成れなかった場合は
俺の責任だ。

才能が無かったのかもしれない。
だたそれだけだ。

そんなことはどうでもいい。

入社して今まで出会った人物で
「俺の責任だ」と言ってくれた人はいたか?

赤松、志村、会社の役員連中。
口には出さないが、俺に全ての責任を負わせた。

しかし。この人は・・・川田さんは。

次のページに続く!!

フリーの身でありながら全く関係のない人間である
俺の責任まで負ってくれるというのだ。

「それによ・・・」川田さんは言った。
「パブみたいなクソみたいな仕事、お前サッサとディレクターになって
俺から奪っていけよ」

泣きそうになった。
この人物が俺に初めて「ディレクターになれ」と言った人だ。
「ところで二宮ちゃん」
ん?二宮・・・ちゃん?

「この後キャバ行かね?」

これが俺の会社復帰第1日目であった。

赤松が減給され代理店には迷惑を掛け
会社には損害を与えた

しかし新入社員の俺をフォローしてくれる
人間はいなかった。

次のページに続く!!

第9章 304号室

俺は川田さんの専属AD状態になった。
身を粉にして働いた。

余計な事は考えるな!
俺は川田さんのしたい演出の
手助けをするのが仕事だ。

社内の視線など気にするな!
いまの俺には働くことしか出来ないのだ。

そんな感じで1ヶ月が過ぎた。
川田さんもまぁまぁ俺を信用してくれている様子だ。

川田さんの仕事は良く言えば大らか。
悪く言えば適当だった。

この時期になると携帯に電話が入ってきて
「ごめ~ん。二宮。俺酔っぱだから原稿書いてて」等と
とても南さんには報告出来ないような仕事を頼んでくる。

次のページに続く!!

マジっすか!?とよく心の中で呟いたものだ。

俺は自分なりに原稿を書いた。
隣のデスクの南さんの目を盗んで。

それをパソコンで南さんに送信する。
返事が来る。

「お前文章下手ね(笑)やっぱ俺が書くから待ってろ」

随時がそんな調子だった。
川田さんは俺によく言った。

「本は読めよ。二宮。文章をパクれるまでに読み込めよ」
それから俺は本を買い漁った。
台本の練習もした。

川田さんがちゃんと台本を書いている時でも
自分なりの台本を書いて川田さんに見てもらった。

川田さんも添削をして返してくれた。
通常業務に加え、ディレクターになるための修行。

俺の帰宅は早くて24時になった。
泊り込みもしばしばだ。

次のページに続く!!

そんな生活が続けば
当然まりあや油田とは疎遠になる。

業界用語に「消え物」という言葉がある。

これは撮影で使った商品をスポンサーに返さず
スタッフが持って帰ってもよい物を指す。

食品が圧倒的に多い。
家庭用品やレアポスターも案外ある。

例えばキムタクのFMVのポスターがあったとしよう。
こんな物も消え物だ。

通常は家電量販店などしか手に入れることは出来ない。
商業用のPOPなどにしてもそうだ。

よくネットオークションでレアポスターが出品されているが
俺は業界人が消え物を流していると考えている。

ある日インスタントカレーの消え物が出た。
「川田さん。カレー持って帰りますか?」

次のページに続く!!

川田さんは
「いらね。俺ボンカレーしか食わね。貧乏人のお前にやる」と言ってくれた。

カレーといえば。
やっぱりまりあだ。

俺は消え物のカレーをどっさりと袋に詰め込んで帰宅した。

20時。
バイトが無ければまりあが家にいてもおかしくない時間だ。
とりあえず301号のインターホンを押した。

油田もインタントカレーの類は好きそうだ。
2~3個あげよう。

しかし油田は留守の様子だ。
仕方ないよね。
全部まりあにあげよう。

俺は302号のインターホンを押した。

しばらく応答がない。

次のページに続く!!

「留守かな?」諦めかけた時だった。
「はい?」まりあの声が聞こえた。

「俺です。光輝です。カレーのおすそ分けなんですが・・・」

「あ・・・。光輝くん。ちょっと待ってね」
そういえば2週間ほどまりあに会っていなかった。

まりあの顔が見られる。俺は少しドキドキしながら
ドアが開くのを待った。

ガチャっとドアが開く・・・。

「これ撮影の余り物なんだけど、もし良かったらまり・・・」

!!!!!?????

「やぁやぁ。どうもどうも」

目の前には油田が立っていた。
「お久です。二宮さん」

「・・・・・・・・・(アングリ)」

次のページに続く!!

後ろからまりあが登場した。
「光輝くん久しぶり~。元気だった?」

「・・・・・・・・・・・」
「上がって上がって」

「今カレー作ったところなんだ♪」

カレー・・・ですか?

気づくと俺はまりあの部屋のリビングにいた。
となりにはオタクがいた・・・。

なにがどうなっているんだ??

「まぁ。おひとつどうぞ」
呆然とする俺にビールを注いでくるデブ。

なぁ?デブよ・・・。お前が恋の勝者なのか?

まりあがカレーを2つ持ってリビングにやってきた。
「召し上がれ!」

次のページに続く!!

召し上がれと言う言葉を初めて生で聞いた。
まりあは確かに可愛い。
そして目の前のカレーも美味そうだ。実に・・・。

「実にうまいですよ。まりあちゃんのカレーは」

うるせーデブ。お前は俺の持って帰ってきた
消え物のカレーでも食ってろや!

まりあはリビングで自分のカレーを入れている。

「君ねー。油田くんさぁ」
俺は隣で汗をかきながら
カレーを頬張るオタクに話掛けた。

「なんですか?」
その上目遣いをやめろ!

「なんでさぁーいるかなぁ?君がここに?
なぜ君がここでカレーを食ってんのかなぁ?」

油田はフフフ・・・。と不気味に笑うと
「有閑倶楽部ですよ。有閑倶楽部」と意味不明の言葉を並べた。

次のページに続く!!

「なによ?ユウカンクラブって?」

「嫌だなぁー。二宮さん知らないんですか?巨匠一条ゆかりのマンガですよ。」

後になって分かったが最近ドラマ化された
「有閑倶楽部」という少女漫画のことらしい。

「そのユウカンクラブがなぜカレーなのよ?」

油田はまたしてもフフフ・・・と笑いながら
「お礼ですよ。有閑倶楽部を貸してあげたお礼です」
イカンだろ!まりあよ。

有閑倶楽部のお礼かなにか知らないが
こんな足の臭いオタクを
1人の部屋に呼び込むなんて
あまりにも無防備すぎるだろ!

心の中でそう呟いていると、張本人のまりあが俺の横に座った。

「いただきま~す」等と言ってのん気にカレーを食べようとしている。

次のページに続く!!

俺が仕事にかまけている間に
事態がここまで深刻になっているとは・・・。

これは注意せねばイカンな。

年長者として・・・。
社会人として・・・。

そして恋のライバル(油田なのが情けない)を蹴落とすために!!

「あのねー君たちさぁ・・・」

「そうそう!光輝くん何時に帰ったの?」

へ・・・?

「何度も呼びに行ったんだよ。光輝くんの部屋に」

え・・・。そうなの?

隣のデブはそ知らぬ顔をしてカレーを食っている。

「うんうん。光輝くんもカレー好きそうじゃん。でも丁度タイミング良かったね♪」

次のページに続く!!

今日のところは注意はやめておいてやるか。
ある日俺が出社すると同期の渡辺が近づいてきた。

一応渡辺の説明も必要かもしれない。
技術部の渡辺はカメラマン志望である。

ほとんど毎日ロケに出ているので
制作部の俺と顔を会わす機会は少ない。

この業界全般にいえることだが化粧をしない。

特に技術部の渡辺は化粧が落ちてしまうし
先輩から嫌味を言われるのであろうか?
化粧をした姿を見たことがない。

いつもGパンにTシャツ。
そしてノーメイクだ。
入社初日には俺に涙を見せた渡辺。

きっと気が弱い子なんだろうな?
そんな想像をしていたが、とんでもない!

次のページに続く!!

人一倍気が強く。
業界向きである。

今にして思えばあの涙は悔し涙だったのかもしれない。
事実あれ以降は渡辺が泣いている姿を見ていない。

【小学生5年の時の話】無修正のエ口ビデオを見て発情した兄妹の結末がヤバすぎる。。。

僕には一つ下の妹がいます。

これは僕が小学生5年、妹が小学生4年生の頃からのお話し。
僕達兄妹と何人かの黒歴史。

最初から最後まで書くにはかなり時間がかかりますので、何回かに分けて書きたいと思います。

僕と妹は普段から仲が良く、僕が友達を呼んだ時も一緒に遊ぶくらい一緒にいる仲でした。
その日は平日の放課後で帰宅し、友達も遊びに来てなくて、雨の日だったので家でゴロゴロしてました。
母親も買い物へ行って家は妹と僕だけで、宿題をお互い終わらせた所でした。

両親の寝室には大きなテレビと大きなベッドがありましたので、妹がテレビを見ている時に、僕は父親?の持ってるエロビデオの隠し場所を最近見つけた事を思い出し、ビデオを持って来て
「これ知ってる?」と妹に聞きました。

妹は「何それ?」と言って来たので、
「いや〜、お前にはまだ見るのは早いからなぁ」と勿体つけてからかってました。

当然、妹は「見たい見たい」と言い出しました。
正直、僕自身はあまり見たくなかったのですが(何か当時は性行為にショック?がありまして)妹が良い具合に興味を持ってきたので、ビデオデッキに入れて、二人で鑑賞する事になりました。

裏ビデオだったので、無修正でした。
隣の妹は何が何だかサッパリと言う感じでした。

次のページに続く!!

僕も妹と見るのは少し抵抗があり

「セックスって知ってる?エッチで子供を作る事なんだよ?」

と教えてましたが、ポカーンと言う感じでした。

ビデオは全部で長かったため、早送りを小まめにして本番を見て、

早目に見終わりました。

AV女優の人がとても気持ち良さそうに

喘いでいたのが印象的なビデオでした。

見終わった後、妹に両親には内緒だと言う約束をして、

ビデオをちゃんと巻き戻して元の位置に戻しました。

その日の夜の事なんですが、同じ部屋で僕達は寝ていたんですが、

妹がモゾモゾしててたまにビクンッとなっての

繰り返しをしてる事に気付きました。

次のページに続く!!

最初は気付かないフリをしていたんですが、

妹の方から話しかけて来て

「ビデオみたいにやってみたけど、変な感じになるだけだなぁ」

と言って来ました。

ここで僕の性欲が爆発してしまい妹の布団へ入って行き

「多分やり方が下手なんだよ、ちょっと二人でやってみよう?」

と言い、妹もOKをくれました。

最近ではお風呂に一緒に入らなくなり(僕が嫌がっていたため)、

女の子の体を触るのがすごくドキドキしました。

とりあえず、上パジャマのボタンを全部外して、

ノーブラだったので小さいおっぱいがすぐに見えました。

次のページに続く!!

「良い?」と僕が聞くと

「う…うん」とちょっと照れながら言ってくれました。

片方のおっぱいを飲むように吸ってみると、プルプル震えてました。

「うぅくすぐったい…」と妹は言って来ましたが、

「もうちょい我慢して」と言ってから反対の

おっぱいも吸ったりしてました。

この辺りでおちんちんはビンビンでした。

「ズボンも脱いじゃおう?」

と僕が言うと素直にズボンとパンツを同時に脱いでくれました。

毛の生えてないおまんこでした。

僕は妹の股の辺りまで潜り込みました。

次のページに続く!!

布団の中なのでよく見えてませんでしたが、

それでもおまんこに興奮しました。

指で開けてみて、舌を中に入れてみたら。

「あっ…☆いや…いやぁ…☆」と手で頭を押さえられました。

僕は「練習しないとダメだから、我慢して?」と言いました。

「うぅ…変な感じだもん…」と言いながらも

布団の中の僕を見ながら耐えてくれました。

おまんこのお汁もたくさん飲ませてもらいました。

案外、抵抗も無くじっくりエッチを学んでるように見えました。

僕もやり方が合ってるか分かりませんが

「こうの方が良い?」とか「これはどう?」とか聞きながら、

妹の反応を伺いました。

次のページに続く!!

だいたいは「うーん」とか「分からない」でしたけど。

そして挿入の時です。

僕「おちんちん、○○の中に入れてみようよ?」

妹「うーん…気持ち良いかな?」

僕「絶対気持ち良いって、あのビデオの人すごい喜んでたもん」

妹「うん…(笑)入れて☆」

妹がすごく楽しみにして、

両足を広げておちんちんを

待っててくれたこの時は最高に興奮しました。

小学生5年生のフル勃起、多分10センチくらいのおちんちんを

小学生4年生のおまんこに入れる所です。僕らの初体験。

次のページに続く!!

布団を全部横によけて、

おちんちんをさらけ出すと

「えぇ…お兄ちゃん…おっきくなってる…!」とビックリされました。

「そりゃそうだ…」と話しをすぐに断ち、

おちんちんを持っておまんこに入れて行きました。

が、3・4センチ入れた辺りで

「いっっったい…!無理、痛い」と完全に泣きそうになられました。

ここでは「我慢して」と言っても無理だったようで、

僕的には快感も何も無いまま「まだ早かった」となり、断念しました。

それでも性欲が収まらない僕は手コキをお願いして、

手でコシコシしてもらい妹の腕に射精しました。

次のページに続く!!

生で見る精液に妹は驚き、新しい世界を見てるようでした。

痛い事は嫌がってましたが、

なにやら開拓をしている気持ちになっていたのか。

それからほぼ毎晩がエッチの練習になりました。

もちろん両親には聞こえないように、

気付かれないようにしてました。

相変わらず挿入は痛がっていたため、

1週間くらいは3・4センチくらいの挿入でした。

そして、1週間過ぎた辺りで、エッチを始める前に

「そろそろ頑張ってみよう?」と言った時があります。

「うーん、絶対入らないよ」と妹は言って来ましたが、

「ゆっくりやってみよ?」と説得をしました。

次のページに続く!!

ググッとおちんちんをおまんこの入口に押し込むと、

眉間にまゆをひそめながら

「うぅ…☆」

と言ってくれるのがたまらなく可愛かったです。

そのまま3・4センチ突くといつも通り
「いっったい…」.と言われましたが、
「ここから頑張るよ?」と言って痛がる妹に構わず
グググッ!!!っと押し込みました。

「いっっっ!!ぅぁぁぁ…」
と泣きそうに僕を手で押し返す妹。

僕は妹の肩を両手で持って、
「もうちょっとだから、我慢して」と言いさらに押し込みました。

そして、一番奥まで到達した時、
プニッとしたものにペニスが当たりすごく気持ち良かったです。
やっとセックスが出来たと確信しました。
妹に目をやると少し泣きながら震えて耐えてました。

次のページに続く!!

「全部入ったよ…このまま力抜いて慣れてみよう?」と言うと、
「痛いから早く出して…無理」と言われ断られました。

おちんちんを抜いてみると、おまんこから流血していて、

こりゃまずいとティッシュで拭き取りました。

布団にも付きましたが、僕の鼻血と言うことにしておきました。

妹はさすがに嫌そうな顔で
「やっぱり無理…全然気持ち良くない。もうやめたい。」と言って来たので、
「うん、ごめん、もう止めておこう」と言って謝っておきました。

「でも、一番奥の所、すごい気持ち良かったよ?」と言うと
「知らない…こっちは痛いのに」とプイッとされました。

この日を境に夜の練習は無くなりました。

が、約1年後のある日曜日に、

僕が友達に借りたエロ本を机の中から妹が見つけて

「また変な本持ってる」と言ってきた日がありました。

次のページに続く!!

友達は公園?で拾った本を僕に回したらしく、

僕も一時期だけ持って友達に回す予定でした。

「俺のじゃ無いから閉まっておけって」と言いました。

あまり妹に見せて、あの時の痛さとか思い出自体を

思い返させるのが嫌だったからでもありました。

割と冷たく言い放ったんですが、あまり聞く耳も持たず、

読み出してしまってました。

「お母さんとお父さんに見つかるからやめろって」と本を取り上げて、

机に戻すとちょっとスネてました。

その日はその後に友達と遊びに行きました。

次のページに続く!!

夜になり、妹と同じ部屋で寝る時間になって妹から話しかけてきました。

妹「○○ちゃんって知ってる?」
僕「え?あの明るい子だっけ?」
妹「そうそう(笑)」
僕「いるね、それで?」
妹「あの子ね、お父さんとエッチしてるんだよ?」
僕「ちょ、ええええ??」
妹「何かね、お母さんに似てて同じことしたくなっちゃうみたい(笑)」
僕「そ、そうなんだ…聞いたの?」
妹「うん、相談された。私はそういうの無かったの?って言われて、お兄ちゃんとならあるよって言っておいた(笑)」

僕「それ言うなよ…!?ヤバイって…しかもそんなにやってないし…」
妹「やったよ、痛かったのに」

衝撃を二度受けました。
お父さんとエッチしてる子。

次のページに続く!!

俺が妹とやってた事を言われた事。
しばらくオロオロしながら会話をしてました。

すると妹が、
「私今なら痛くないかも?(笑)
○○ちゃんも最初は痛かったけど、今は痛くない…と言うか、気持ち良いって言ってたし」

「そ、そうなんだ…」

「…うん」

ドキドキしながら1分くらい沈黙が続きました。

僕「え?痛くないって何で?」
妹「あの子の話しを聞いてちょっと練習みたいなのしてたから」

後日、その練習の内容を聞いたんですが、○○ちゃんが練習に使っている大人のオモチャ(ペニス型)を借りて、一人の時にオナニーをしていたそうです。

次のページに続く!!

僕「へえ………じゃあ、やってみる?」と聞くと

妹「ちょっとやってみたい…」

あの流血以来、こんな事は絶対にしないと思っていたのですが、エロ本から始まり友達のエッチ三昧を起爆剤にまたこんな事が起こるとは…でした。

それから僕は妹の布団へ入って行きました。

「本当に大丈夫?」と聞くと、妹はコクリと頷きました。

一年ぶりのシュチュエーションに少し震えながら、パジャマの上のボタンを外して行きます。
そういえば、最近になってスポブラをしているのを発見してました。
それと同時に、目の前に膨らんできているおっぱい…。

次のページに続く!!

「え…おっぱい、すごい…」
「うん(笑)
あ、でも○○ちゃんはもっと大きいんだけどね」
「そ、そうなんだ」

そして、スポブラを上にずらしてみると、綺麗なおっぱいが2つプルンと出て来ました。

もう鼻血が出そうで興奮はMAXでした。
1年前とは違い、本当に女性の体でした。

僕は興奮しながら
ハフッ…チュッチュッ…
と、おっぱいにかぶりつきました。

妹はどこで覚えたのか
「んぁぁ…☆」
と喘いでくれました。

次のページに続く!!

あの時の二人とはまるで違う一体感に、二人共が興奮しました。

しばらくおっぱいを飲んだ後、パジャマズボンに手を伸ばし、パンツの中に指を入れて行くと股の辺りがヌルヌルになってました。

「え、すごいヌルヌルしてる?」
「うん、女の子はヌルヌルになるんだよ?知らなかった?」
と○○ちゃんとそっちの会話でかなり知識を付けてるオーラ満開。

知ってたけどね、と手マンを始めるとまた喘ぎ声を

クチュ…クッチュ…
「うぅんっ…あっ…ぁぁぁ…」

クチュクチュクチュ…!
「うあぁぁぁ…ぁぁぁ…んぁぁぁ」

もう我慢できない!!!
ちんちんフル勃起!!!

次のページに続く!!

僕は自分のズボンをずらしておちんちんを妹に見せると、ちょっと照れながら自分のパジャマズボンとパンツを下ろしてくれました。
僕も一緒になってズボンとパンツを脱ぎました。

うっすらマン毛も生えてました。
足を開いてくれました。

「大丈夫?するよ?」と興奮気味に僕が言うと
「うん」と言って挿入する所を見てました。

クチュ…
(3・4センチ)

「んあっ…」

ググッ…!
(6・7センチ)

「…ぅぅっ!?くぅぅぅん…」

ここで理性を失いました。

次のページに続く!!

ググググッ…パンッ!パンッ!
(12・13センチ)

「ぁぁぁぁぁ…」

「はぁん…あぁっ」

完全なる小学生のセックスでした。
おまんこの奥のプニプニ子宮に当たると柔らかいものがちんちんの先を包んでくれて、すごく気持ち良かったです。

パンッパンッパンッパンッ!

僕「い…痛くない?」

妹「うん…いっ痛く…なぃぃ…気持ち良い…(笑)」

僕「よし、もっと…するね」

そういうと、妹はウンウンとちょっと恥ずかしそうに頷いて、

僕の首に両手を回しこんで抱きついて来ました。

次のページに続く!!

足もかかとで僕の両足をロックして、まさにラブラブのセックスでした。

それから喘ぎ声が激しく変わり、
「あぁっ☆はぁっ☆んんっ☆」
と膣内を前後する度に媚びった声を出してました。すごく気持ち良かったです。
しかし、おっぱいだけで興奮MAXだった上にこれだけ可愛い喘ぎ声まで出されたらもうイクしかありませんでした。

妹「はぁっ☆はぅっ☆」

パンッパンッ!!

僕「い、イク…!」
妹「うん、うん!」

ググッ!!!

ピュッピューーー!!!

僕「うあぁ…あぁ…」

…ググッ!!

ピュッ…ピュッ!!

…ググッ!!

…ピュッ!!

次のページに続く!!

痙攣?する妹を見ながら1番奥を突き上げて出せるだけ出しました。
30秒くらい息を荒らげてその状態になってた後、

僕「どう…?大丈夫だった?」と聞くと

妹「大丈夫…でも中で射精したら赤ちゃん出来るからヤバイよ?」と言われ、すごく焦りました。
セックスが子作りだと言う事を完全に忘れてました。

妹「私、生理まだだけど一応やめた方が良いと思うよ」

少しオロオロしながら膣から出てくる精子をティッシュで掃除して、離れて寝るのも雰囲気では無かったのでふっついて寝る事にしました。
寝る前に
僕「本当に大丈夫だった?」と聞くと
妹「ちょっと痛かったけど、普通に気持ち良いよ(笑)」と言ってくれました。

次のページに続く!!

僕「本当に?明日もやろ?」と言うと、

「…うーん、分かった」と恥ずかしそうに言ってくれました。

次の日、妹は即○○ちゃんにセックスをした事を報告したらしく

「ゴムか外出しするかしないと絶対ダメ」

と助言をもらって帰って来ました。

初日のセックスは緊張と不安があったので楽しめませんでしたが、

それから1週間くらい、僕と妹はラブラブなセックスを毎晩してました。

ゴムを買うお金なんて無いですし、

親がどこに隠してるかも分からなかったので外出ししてました。

次のページに続く!!

が、騎乗位の時は気持ち良さとバテバテになって、

二人とも動けず、そのまま中出ししてしまいました。

喘ぎ方やらエッチの知識やら、

やたら妹は上手かったので怖かったんですが、

実は○○ちゃんのお父さんと何回かエッチしてたらしく、

その詳細はまた今度書きます…。

【神展開】15歳の時、家出したら赤髪の美人お姉さんに拾われた!女「私の家に行こう」男「えっ行きます!!!」その結果。。。

家出した理由はそれなりに家庭の事情だった
両親不仲で毎日喧嘩してて嫌になって家飛び出した
十五歳だった

親の財布から抜いた一万円で全く知らない街に行った
自分の財布ぐらいしか持ってなかった
携帯は電話鳴ると鬱陶しいからおいてきた

夜の十時過ぎに電車降りた
それなりに都会だった
とりあえずどうしようと駅前の広場にあるベンチに座って考えてた

家出した高揚感が次第に収まっていった
だんだん都会が恐く思えてくる
まあガキだったし

歳上の男や女が凄く恐く思えた
だいそれたことをしてしまったんだと思って悲しくなった
半泣きだった

俯いてると声をかけられた

「なにしとん?」

顔をあげるとにやにやと笑う三人がいた
歳上の男と男と女だった

凄く不快な笑みだった

玩具を見つけた、みたいな

逃げ出したくて仕方ないのに体が動かない
蛇に睨まれたカエルみたいな?

「なあなにしとん?」

目をまた伏せて震えた
今から殺されるんだぐらいの勢いで恐かった

「大丈夫やって、なんも恐いことせんから」

悪役の台詞だと思った
けど今にして考えれば悪役じゃなくてもいいそうな台詞だ

とにかく当時の俺には恐怖に拍車がかかった

また震えた

ごめんなさい、と呟いた

「つまんね」

開放されると思った

「お金ある?」

すぐにこれがカツアゲだとわかった
産まれて初めての経験だ
恐い恐い恐いって

あの時の俺はとにかく臆病だった

財布には親から抜いた一万円(電車代でちょっと減ってる)と
自分のお小遣い数千円があった

けどこれを失くしたらもうどうしようもなくなる

金がなくても警察に行けば帰れるとか、当時の俺は思いつかなかった
だからそのままホームレスになって死ぬんだと思った

ないです、と答えた。。。

次のページに続く!!

「嘘はあかんて。な? 財布だせや」

駅前の広場は他にもたくさん人がいたけど
誰も助けてくれる人はいなかった

ドラマじゃよく聞く光景だ
誰も助けてくれない

でもそれは本当なんだな、と思った

「なあ?」

男が俺の頭を鷲掴みにする

言っておくがこの三人はただの不良だ
けどまあ、この三人のお陰で俺はお姉さんに拾ってもらえた

「なにしとん?」

それが初めて聞いたお姉さんの声だった
といっても

俺は向こうの仲間が増えたと思ってまたびくついた
けど三人の対応は違った

次のページに続く!!

「なんやねんお前」

「いやいや、自分らなにしとん? そんなガキ相手にして楽しいん?」

「黙っとれや。痛い目見たなかったらどっかいかんかい」

「流石にガキ相手に遊んどるのは見過ごせんわ。ださ」

「あ?」

まあ、会話はおおよそだから。
でもこんな感じだったと思う。

恐くてってどんだけ言うんだって話だけどやっぱり恐くて上が向けず
お姉さんがどんな人かもわからなかった

「調子のっとるな、しばいたろ」

三人組の女の声だ
他の二人も賛同したのか視線はそっちに向いた気がした
少なくとも俺の頭を掴んだ手ははなされた

次のページに続く!!

「ちょっとそこの裏路地こいや」

とか、そんな風なことを言おうとしてたんだと思う
けど、それは途中で終わった

「うそやん」

妙に驚いてた気がする
声色だけでそう思ったんだけど

「シャレにならんわ。ほな」

関西弁の人ってほんとにほなって言うんだ
とか調子の外れたことを思った

それから暫くして
俺の肩に手が置かれた

びくっと震える

たっぷりの沈黙の後

「なにしとん?」

さっきまでの三人組みたいな声じゃなくて
ちょっと優しい雰囲気があった
おそるおそる顔をあげると
綺麗なお姉さんがそこにいた

次のページに続く!!

髪は長くて
真っ赤だった

化粧もしてて
大人のお姉さんだと思ったけど
今にして考えてみればあれは多分、V系だったんだろう

なんにせよ綺麗だった

同級生の女子なんてちっさく見えるぐらい綺麗だった

「ありがとうございます」

と、つっかえながらもなんとか言えた

「んなもんええけど、自分アホやろ? ガキがこんな時間うろついとったらアホに絡まれんで」

家出したと言ったら怒られると思って下を向いた
お姉さんは大きな溜息を吐いた

「めんど、訳ありかいや」

やけに言葉が汚いお姉さんだと思った

次のページに続く!!

お姉さんスペック

身長170越(自称)
外だと厚底履いてるから175は越えてる

スレンダー
Dカップ
赤髪ロング
耳にピアスごじゃらら
関西人っぽい
年齢不明(見た目18~21)

綺麗だと思う

暫く沈黙が続いた

というかお姉さんタバコ吸ってるみたいだった
タバコの匂いがやたら甘かった

「ああ……腹減った」

お姉さんが言う
言われてみれば俺も腹が減っていた

次のページに続く!!

家出してかれこれ五時間
電車の中でポッキー食べたくらいだった

「ファミレス行こか」

「?」

「ファミレス。ほら、行くで」

近くのファミレスに行く
着いて適当に注文する

お姉さんは凄く目立つ
赤髪、ロング、黒服、ピアス

綺麗だし、目立つ

「自分なんも喋らんな。病気なん?」

「ちが、ちがいます」

「ああ、あれ? 恐い? そやな、よく言われるんよ、恐いって」

「い、いや」

なんて言おうとして否定したのかは知らんが、

まあだれでもそう反応するだろ?

次のページに続く!!

俺はハンバーグ
お姉さんは野菜盛り合わせ

「んで、なんで家出したん?」

驚きすぎてむせた
なんでわかるんだこの人は、超能力者か
とか考えたかは知らんが驚いた

でも今にして考えれば解ることかもしれん

夜の十時すぎに家に帰らない子供
思いつくのは塾帰りで家に帰りたくないか
夜遊びするガキか
家出か

なのにその時の俺は塾に行くような鞄持ってなかったし
遊んでそうなガキに見えなかったろうから家出

カマかけてきたんだろう

でも当時の俺はただただ
大人のお姉さんすげーって思うだけだった

次のページに続く!!

「家が……色々」

「ふうん、そっか」

「まあその歳やといろいろあるわな」

「で、どないするん? いつかえるん?」

「……帰りたくないです」

「そりゃ無理やろ。仕事もないし、ってか仕事できる歳なん?」

「15です」

「ギリやな。家もないし金もないやろ?」

「……」

それでも帰りたくなかった
俺にとってあの当時の家はかなり地獄だった
まあ、もっと酷い家庭はあると今ならわかるけど

次のページに続く!!

「一週間もしたら帰りや」

「……はい」

「ほんじゃ、飯食ったら行こか」

「?」

「うち、ヒト部屋空いとるから」

こんな経緯で俺はお姉さんに拾われた

お姉さんの家は都会の駅から四つ
閑散とした住宅街だった

見た目とは裏腹な場所に住んでるなと思ったけど
住んでるのは高層マンションの最上階だった

お金持ちなんだと思った

「片付けてないけどまあ歩けるから」

「おじゃまします」

次のページに続く!!

玄関入ると左手に一部屋
右手にトイレ、浴室
奥にリビング
リビングの隣に一部屋

「ここ、物置みたいなもんやから使って」

俺は玄関入って左手の部屋に案内された
ほんとに物置だった

「衝動買いしてまうんよね、はは」

お姉さんが照れくさそうに笑う
知れば知るほど見た目とのギャップに困惑した

でもそのギャップに惹かれた

「とりあえず風呂でも入ってきたら?」

「はい」

初めて女の人の部屋に泊まるわけだけど
だからどうだって緊張感はなかった
ガキだったから

次のページに続く!!

そりゃエロ本も読んだことあったけど
そんな展開になるわけないって思ってたし

シャワーを浴びて体を拭く

「洗濯機の上にパジャマと下着出しとるから」

見るとそれは両方とも男物だった
なんで男物があるんだろうと考える

以前同棲してたから?
ありうる
だから一部屋余ってるんだと思った

こんな綺麗なお姉さんだ、彼氏がいない方がおかしい

下着とパジャマを着てリビングに行く

「サイズちょうどええみたいやな、よかったよかった」

「やっぱうちとおんなじくらいやねんな」

「……?」

「それ両方うちのやねん。男もんの方が楽でな」

途端に俺は恥ずかしくなった
いつもお姉さんが着ているものを着てるのだ

次のページに続く!!

下着も

不覚にもおっきした
いや不覚も糞もないか
ガキだし

でもそれはバレないようになんとか頑張った
中腰で

「ん? んん? なーんや、お姉さんの色気にあてられてもたん?」

「ははっ、若いなあ」

速攻でバレた
恥ずかしさが一気にヒートする

「ええよ気にせんで、なんし男の子やねんから。ほら、そこ座り。コーヒー……は飲めんか」

「飲めます」

「おお、君飲む口か」

嘘だ、コーヒーなんて飲めない
苦い

でも子供扱いされたくなかった

次のページに続く!!

お姉さんに一番気になっていたことを聞く

「どうして、その、泊めてくれるんですか?」

「そりゃもちろん」

なんだそんなことかと言わんばかりに
お姉さんは興味がなさそうに携帯に視線を戻して

「暇潰し」

「暇潰し、ですか」

「うん」

「そうですか」

「なんやとおもったん?」

「……?」

「お姉さんが君に惚れたとでも思った?」

「いえ」

「そこは嘘でも頷いたらいいボケになんねんけど、ってあ、君こっちの子ちゃうんよな」

「はい」

次のページに続く!!

「ほんじゃせっかくやねんから関西のボケとツッコミを勉強して帰りや」

「はあ」

「そしたら家のことも大概どうでもよくなるわ」

それは嘘だと流石に思った

コーヒー
目の前にブラックな飲料が差し出される

「砂糖は?」

首を横に振った
湯気だつコップを持つ
覚悟を決めて口につける

うげえ

「はっはっは! 梅干食っとうみたいなっとうやん!」

お姉さん爆笑
俺は俯く

「無理せんでええて。ミルクと砂糖持って来たるから」

「うちも自分ぐらいん時コーヒーなんて飲めんかったし」

その言葉で救われた気がする

次のページに続く!!

お姉さんも子供の時があったんだな、

なんて当たり前なんだけど

「あの」

「ん?」

お姉さんは頬杖をついて携帯をいじっていた
話しかけると綺麗な目を俺に向ける

まっすぐに向ける
心が囚われる

「どないしたん?」

「あ、えと」

俺自身口下手な方だし
お姉さんは自分の世界作ってるような人だし
特に会話は続かなかった

お姉さんの部屋から流れる音楽
フィーリング音楽?
が心地よくて
時間が過ぎるのを苦もなく感じられた

次のページに続く!!

「そろそろ寝るわ」

「はい」

「明日はうち夜から仕事やから」

「はい」

「夜からの仕事、ついてこれるように調節してな」

「……はい?」

「やから仕事やって。自分、もしかしてタダで泊めてもらえるおもたん?」

「いや、そんなことは、ってかその僕、大丈夫なんですか?」

「平気平気。うちの店やから」

お姉さんは自分の店も持っていた
先に言っておくとそれはBARなわけだけど
やっぱりお姉さんかっけーってなった

まさかあんな格好させられるとは思わなかったけど

夜から仕事で起きるのが夕方だったから

次のページに続く!!

俺は結局朝まで起きてた
それ事態は物置にある本棚に並べられた本を読んでれば問題なかった

夕方に起きる
リビングに行くと机の上に弁当があった
メモで食べるようにと書かれている
そして五時に起こすようにと書かれている

お姉さんは寝ていた

まだ四時すぎだったので先に弁当を食べた
食べ終わってお姉さんの部屋の扉を開ける

やけにいい匂いがした
凄く緊張した

手に汗がにじむ

「おねーさーん」

扉から声をかけるもお姉さんは起きない
意を決して中に入る
ベッドの上ですやすやと寝息を立てるお姉さんがいた

次のページに続く!!

「お姉さん、おきてください」

お姉さんは起きない
薄暗い部屋で目を細めてお姉さんの寝顔を覗く

起きてる時に比べればブサイクだった
化粧をしてなくてブサイクとかじゃなくて
枕で顔が潰れててブサイクだった
でもどこか愛嬌があって

いうなればぶちゃいくだった

間近で見てると胸が高鳴った
今ならなにをしてもいいんじゃないか、なんて思い始める
そんなわけないのに

そんなわけがないのに手が伸びる

ゆっくり
静かに

鼓動がどんどん大きくなる
あわや心臓が口から飛び出しそうになる

次のページに続く!!

やめておけ、と誰かが言うが
やっちまえ、と誰かが言う

俺はお姉さんの頭に手を置いた

見た目より痛んでない髪に手を通す

撫でる

「ふにゅ」

それは形容しがたい寝声だった
ってか多分これは美化されててふにゅなんだろうけど
なんだろう

文字にできない可愛らしい言葉ってあるだろ?
お姉さんはそんな声を出した

優しく
愛でるように撫でた

お姉さん、可愛いな

とか思いながら撫でた

だから気づかなかった
お姉さん、もうとっくに起きていた

次のページに続く!!

「なにしてんの?」

怒っている風ではなく
優しい寝起きのぼやけた声色だった

「す、すみませんっ」

逃げ出そうとした

「ええよ」

「撫でててええよ。気持ちいいから」

了解を得たので再び座り込んでお姉さんの頭を撫でる

「うん、君撫でるの上手いな」

「今日はうちが寝る時撫でててもらおかな」

「はい」

十五分くらいか
お姉さんの頭を撫で続けた

お姉さんは心地よさそうにしていた
俺もなんだかとても心地よかった

「さて、支度しよか」

それの終わりがきたのはやっぱり少しだけ残念だった

次のページに続く!!

「……なにしてるんですか?」

「ちょ、動かんといて」

「いやほんと、なにしてるんですか?」

「やから動かんといて」

「……はい」

俺は化粧をされていた

「んー、まあこんなもんか」

「なんで化粧されたんでしょう」

「化粧するとな、年齢がわからんくなるんよ」

「ほら、それに君うっすい顔してるし。めっちゃ化粧映えするわー」

「はあ」

「んで、そやなーふふふーん」

「楽しそうですね」

「あんまないからなーこんな機会」

「あ、これでええな」

「……冗談ですよね」

「冗談なわけないやん。その顔で男もんの服着る気?」

「その顔ってか俺は男です」

「どこがあ。鏡みてみ?」

そこにはとても可愛らしい女の子がいました
なんて流石に言いすぎだが

確かに女の子がいた

次のページに続く!!

化粧こええ

「君若いし、女装すんなら今のうちやって」

「……」

俺はいろいろと諦めた

可愛らしい化粧をされて
可愛らしいスカートはかされて
可愛らしい服を着せられて
タイツもはかされて
俺なにやってんだろう

もちろんヅラも被されて

お姉さんの店はあの都会の駅だ
電車にも乗った

派手な二人組だった

「お姉さん、流石にこれは」

「喋らんかったらバレんから大丈夫やって」

俺は喋れなくなった

次のページに続く!!

BARにつく
普通のBARだった
普通の、といってもなにが普通かわからんが
イメージ通りのBARだった

要はちょっと暗くてお洒落

小さな店だった

カウンターが七席にテーブルが一席

「なにしたらいいですか?」

「とりあえずトイレ掃除から。あ、上着は脱いでな」

ってなわけで俺は店の掃除を始めた

トイレ掃除
床の掃き掃除
テーブル拭き掃除
グラス磨き

「お客さんが来たらこれ二つずつ乗っけて出すんよ」

とそれはチョコとかのお菓子

「あとはそやな。これが~」

冷蔵庫の中のメニューを三つ教えてもらう
(お皿に盛り付けて出すだけ)

次のページに続く!!

「んでお客さんが帰ったらグラス回収やらしてテーブル拭いてな」

「は、はい」

「今日はそんな客多くないから緊張せずに慌てずに、やで」

「頑張ります」

「まあ自分の一番の役目はそんなんとちゃうけど」

お姉さんが悪い笑みを浮かべた気がした
その意味は後に知ることとなる

開店から三十分、二人組の女性が来る

「おねーさんこんちゃーってなにこのこ! ちょーかわいいやん!」
「おねーさんどこで誘拐してきたん!?」

「誘拐なんかせんでもほいほいついてきまうんよね」

「あかんで、あのお姉さんについていったら食われてまうでー」

「いや、あの、そんな……これ、どうぞ」
言われてた通りお菓子を出す。
女性二人は目を丸くしていた

次のページに続く!!

「……男の子やん! うわあうわあうわあああああ!」

二人の女性のテンションが上がる。

その後は落ち着いた女性客とお姉さんやらが話して
その日は計七組のお客さんが来た

入れ替わりがあったから満員にはならなかったけど

「はい、お疲れ」

お姉さんがジュースを出してくれる
なんだかんだで疲れた
主に精神的に

「いやー大盛況やったね、君」

「……はあ」

俺はようするにマスコットキャラクター代わりだった。
来る客来る客珍しいものを見る風に
ってか本当に珍しいんだろうけど
わいのわいのと騒ぐ

次のページに続く!!

「あの」

「ん?」

「真っ青な髪の男性客の人、今度ホテル行こうとか言ってましたけど、冗談ですよね」

「ああ、あれな」

「ほんまにホテル付いてってくれたらラッキーってなぐらいちゃう?」

世間は広い
俺は色んな意味でそう思った

閉店作業をして家に帰る
もう朝だ

家に着くなりお姉さんはお風呂に直行した

「一緒に入るか?」

とか言われたけど盛大に断った
恥ずかしくて無理

お風呂から出てきたお姉さんは凄くラフだった

次のページに続く!!

どっからどう見てもノーブラで
薄いパジャマを着ていた
前のボタンを途中までしか締めてなくて
胸元が思いっきり露出している

「熱いわー」

思いっきり乳首がががががががが

目を逸した

「ああ、そや、化粧落としたるわなー」

この間、服もどうすればいいのかわからないので
俺はずっと女の子である

化粧を落とすためにお姉さんは凄く近くに寄ってきた
勘弁してください

「玉の肌が傷んでまうからなー」

優しく化粧を落とすお姉さん
乳首が見せそうで見えない角度

次のページに続く!!

胸の横っかわはずっと見えてて
俺はそれに釘付けだった

息子も釘付けだった

「よし、顔洗ってき。そのまま風呂入ってき」

「はい」

急いで俺は浴室に直行した
もう性欲が限界だ

やばい、本当にやばい

そりゃしたさ
うん、そりゃするさ
だってガキだもん 猿だもん

そんなわけですっきりした俺は風呂から出て
またお姉さん下着パジャマに身を包む

コンビニ弁当を食べて
またコーヒーを頼んだ

次のページに続く!!

「飲めんやろ?」

「飲めます」

「はいはい」

出されたコーヒーにやっぱり梅干の顔をした

「はははっ、懲りんなあ」

暫く時間が流れて

「はあ、そろそろ寝よか」

「おやすみなさい」

「なに言うとん。一緒に寝るんやろ?」

目が点になった

なにを言ってるんだろうと思った
そんな約束はしていない

「なに驚いとん。髪撫でてくれるって言うたやん」

あれってそういう意味だったのか

「丹精込めて撫でてやー」

丹精込めて撫でるってなんだろう

次のページに続く!!

「ほら、寝るで。明日も仕事やねんし」

小さく頷く

お姉さんの部屋に入る
あの落ち着くBGMが流れてた

「奥はうちやから」

「はあ」

ベッドに誘われて入り込む
お姉さんの匂いがした
もうそれだけで眠れそうだった

「はい」

「?」

「ぼうっとしとらんで、ほら」

「あ、はい」

お姉さんの髪を撫でる
俺よりもずっと身長の高いお姉さんの髪
綺麗な髪
赤い髪

撫でる度にいい匂いがする

次のページに続く!!

「なあ」

「はい」

「彼女おるん?」

「いや、いないです」

「の割に髪撫でるの上手いな」

「多分、犬飼ってたから」

「犬? 犬とおんなじか」

「すみません」

「それも悪くないかなあ」

「はあ」

「だって撫でてくれるんやろ?」

別にお姉さんだったら犬でも猫でもワニでも蛇でも撫でる

「なら犬も悪ないな」

「お姉さんは」

「ん?」

「お姉さんは、その、彼氏、とか」

次のページに続く!!

「おらんよ。おったら流石に連れ込まんわ」

「ですよね、はは」

嬉しかった

「でも、好きな人はおるかな」

言葉が詰まる
息が苦しくなった

そのお陰で

「そうですか」

と噛まずに言えた

なんでだろう
凄く夢見た光景なのに
男の夢って具合なのに

なぜだか辛かった
きっとお姉さんに好きな人がいると聞いたからだ

理由はわかってた

次のページに続く!!

胸は苦しい
なのに心地いい

お姉さんを独り占めしている気がした
お姉さんの好きな人にだってこんなことはできないだろうと思った

けど俺はお姉さんの好きな人には成り代われない

結局、お姉さんはその内に眠っていた

泣きそうだったけど
俺もなんとか眠ることができた

起きると横にお姉さんがいた
頭を撫でて、起きてくださいと言う

お姉さんは寝返りをうって抱きついてくる
心臓が一気に跳ね上がる

もうずっとそのままでいたい

でもお姉さんはその内に目を覚ました
抱きついていることに気づくと、より深く顔を埋めた

次のページに続く!!

「ごめんな、ありがとう」

お姉さんの言葉の意味がわからなかったけど
とりあえずお姉さんが喜んでくれるならと
俺はお姉さんの頭を撫でた

店について開店作業

とりたてて難しいことがあるわけじゃないので忘れてはいない

その日も疎らにお客さんが入っていた

何組目のお客だったか
中盤ぐらいでその人はきた

「よお」

やけにいかつい顔の人だった
ってかヤクザだと思った

「なんやねん」

少なくともお姉さんはその人を嫌っているようだった

次のページに続く!!

「この前の借り、返してもらいに来た」

「自分が勝手にやったんやろ」

「でも助かったろ?」

席に座ったのでいらっしゃいませと通しを出す

「おお、この前のガキンチョか? 随分変わったなあ」

「?」

「なんだ覚えてねえのか。助けてやったろ?」

なにを言ってるのかさっぱりわからなかったのでお姉さんを見やる。

「不良に絡まれとった時、こいつが追い払ってん」

なるほど、それであの三人は逃げたのか。
そりゃこんな顔に睨まれたら逃げたくもなる。

「ありがとうございました」

「気にすんな。お陰でこいつにいいことしてもらえるからな」

「誰がするか」

「本気だ」

次のページに続く!!

ガキでも解る三段論法

俺を助けるお姉さんを助ける強面

それをネタにお姉さんを脅迫

原因は俺

「あの」

「ん? どうした、坊主」

「……困ります」

「……あ?」

「そういうの、困ります」

「おいガキ」

強面が俺の胸ぐらを掴んで引っ張り上げる
なんでこんなこと言ってるんだろう俺はと後悔した

「おいオッサン、その手離さんとキレるで?」

お姉さんがドスの低い声で強面に言う
でもそれもこれも嫌だった

次のページに続く!!

俺が子供だからこうなったんだ

「あの」

強面がこっちを向く
それに合わせて思いっきり手をぶつけてやった

平手で

多分、グーで殴ることが恐かった
そういう経験がなかったから
だから平手で殴った

強面は鼻血を出した

「ガキ……調子に乗りすぎだなあ?」

強面の恫喝に身が震えた
殴るなんてことはついやってしまったことに近くて
それ以上のなにかなんて無理だった

次のページに続く!!

外に連れ出された俺は
五六発ぶん殴られた

こんな痛いことがあるんだと知った
もう人を殴るのはよそうとか考えてた

お姉さんが後ろから強面を止める
強面がお姉さんを振り払うと、壁にぶつかった

お姉さんが痛そうな声をだした

なにを考えたわけでもなく強面に突撃する
なにもできないけど許せなかった

振り払われて、また殴られて

「気分悪い、二度と来るか」

捨て台詞を吐いて、強面は帰った

お姉さんが中の客を帰して
意識の曖昧な俺を看病してくれた

どう看病してくれたかは覚えてないけど

お姉さんは泣いていたような気がする

次のページに続く!!

ごめんな、ありがとう

と言っていた気がする
でも、俺にはやっぱり意味がわからなかった

殴られたからか、わからなかった

お姉さんが泣いているのは見たくなかったから
泣かないで、と手を伸ばした

お姉さんの頭を優しく撫でた

気づくとお姉さんの部屋にいた
いつの間にか気を失った俺はお姉さんに運ばれたらしい

寝起きだからかぼうっとする
でもおでこがひんやりと気持ちいい

「おはよ」

お姉さんはベッドの横にある勉強机みたいなやつのイスに座ってた
パソコンを触ってたらしい

次のページに続く!!

「おはよ、ございます」

起き上がろうとしたけど体が痛くてうめき声が漏れる

「あかんて、今日はゆっくりしとき」

「でも、仕事」

「なに言うとん。そんな面じゃお客さんびびるし、あの鬱陶しい客が二度と来ん言うてんから、うちとしては充分や。ほんまにありがとう」

「君はうちの幸運やな」

「役に立てました?」

「充分やって。あの客な、前から鬱陶しかってん。ああやって誘ってきてて。でも多分、ほんまに二度とこんやろ。なんせ、十五歳の子供に鼻血出されてもうたからな。メンツが立たんで」

にやりとお姉さんは笑う。

「凄いな、自分。恐かったやろ、痛かったやろ」

強かったけど、痛かったけど
それどころじゃなかった
そんなことどうでもいいぐらいに怒っていた

次のページに続く!!

「別に」

「かっこつけんなや。でも君」

「かっこよかったよ」

嬉しいよりも照れくさい
俺は布団の中に顔を隠す

「なんか食べられそうなもん持ってくるわ。口ん中切れとるやろうけど、ゼリーなら食えるやろうから」

ゼリーは確かに食べられたけど
口の中は切れてて痛かった
でもまあ

「はい、あーん」

「自分で食べますよ」

「ええから」

「いや」

「はよ口開けろや」

「はい」

次のページに続く!!

お姉さんが食べさせてくれたからなんでも食べれた
お姉さんが食べさせてくれるなら納豆でも食べれそうだった
納豆嫌い

「なんか欲しいもんある?」

「欲しいもの?」

「漫画でも食べ物でも用意するから。高いもんは勘弁してほしいけどな」

「じゃあ」

俺はこの時も知らなかったけど
殴られすぎると熱がでるらしい
だから思考があやふやになって
突拍子もないことを言ってしまうようだった

「お姉さん」

言ってから後悔した
なんてことを言うんだ俺は、って

「な、なんでもないです」

「うちは奥やからな」

お姉さんがベッドに潜り込んでくる

次のページに続く!!

一緒に眠った経験もあるわけだけど
その時とは雰囲気が違って
俺は借りてこられた猫のように固まった

「こんな」

お姉さんの手が頭に触れる
いつも俺がそうするように
優しく髪を撫ではじめる

「こんなぼろぼろになってもうてな」

「ごめんな」

別にぼろぼろになるのもぼこぼこになるのも
お姉さんを守れたならそれでよかった

お姉さんが喜んでくれてるし
ちょっとでも役に立てたみたいだし

お姉さんが頭を撫でる
それはとても心地いい

次のページに続く!!

「ほんで」

「どないしてほしいん?」

それに答えられるわけもなく
恥ずかしくなって顔を反対側へ背けた

「なんてな、はは」

「それはちょっと卑怯やな」

お姉さんの手が首の下に移動する
それこそ犬猫のようにそっと撫でられて
くすぐったくて体が跳ねた

「こっち向いて」

耳元でそっと囁かれた甘い言葉に脳が痺れた

視界すらぼうっとしている中でお姉さんの方に振り向くと

唇が唇に触れる

ファーストキスだ

とか思う間もなく

次のページに続く!!

お姉さんの舌が口の中に入ってくる
生暖かい別の生き物が

滑りを立てて侵入する

動く度にそれは音を発して
俺とお姉さんがつながっていることを証明した

舌と舌が絡んで
お姉さんの舌が口の中の全てを這う

横も
舌の裏も
上も
歯も

口の切れた痛みも忘れて
ただ侵されることに集中した

これ以上ない幸福が詰まっているような気がした

次のページに続く!!

お姉さんの手が俺の右手に触れて
指先ですっとなぞる

それは手から全身に電流を流して
意識が更に拡散していく

手を握られる
俺も握り返す

お姉さんが手をどこかに連れていく

そこで離される

合図だと思ったから手を滑らせる

初めて触る、女性の胸

舌がすっと引いていって
お姉さんが視線を合わせる

「ええよ?」

小さな吐息に混ざった声で
俺の消し飛んでいたと思われる理性が外れた

次のページに続く!!

柔らかな、胸

手の平いっぱいに感触を確かめるため
ゆっくりと揉んだ

手の中心部分にお姉さんの突起があって
それは揉むとかイジるとかよりも
舐めたり吸ったりしたい気分が勝る

でも、揉む

だって揉むとお姉さんが

声を殺して息を吐く

「ん」

それを俺が見つめていると
恥ずかしそうに視線を逸した

「見んといてや、年下に感じさせられるんなんて恥ずいわ」

胸の内で想いが強まる
何度も何度も
お姉さん
って呟いた

次のページに続く!!

胸の内で
想いが深くなって

俺の方からお姉さんにキスをした

とても綺麗で
とてもかっこいいお姉さん

そのお姉さんが俺にキスをされて小さな声をあげる

とても愛らしくて
とても可愛いお姉さん

胸を弄られながらキスをされて
だんだんと体温が上がっている気がした

でも、どうしたらいいんだろう
俺はまだ経験がない

エロ本の知識しかない
それは基本的に間違っているとみんな言う
だから下手なことはできない

次のページに続く!!

突然だった
突然股間に衝撃が走った

お姉さんが握ってきたのだ
生で

「年下にやられっぱなしは性に合わんわ」

俺が覆いかぶさっていた体勢をぐるりと回して
お姉さんが俺を覆う

布団はずれてはだけたお姉さんの服
綺麗な胸があらわになっていた

「なあ、気持ちいい?」

お姉さんの細長い指が俺のを握って
微かに上下へと動き始めた

気持ちいいに決まってる
けど気持ちいいなんて言えるはずがない

次のページに続く!!

俺はどういう対応をしていたのだろう

気持ちいいけど恥ずかしくて
その顔を見られるのが嫌で背けてたのかもしれない

ちらりと横目でお姉さんを見ると
うっすらと笑みを浮かべて
楽しそうに俺を眺めていた

「なあ」

耳元で囁かれる声
俺はそれに弱いのか脳がくらくらと泳ぎだす

「気持ちいいやろ?」

問われて、答えられるはずがないのに
つい口を出てしまいそうになった

お姉さんは変わらず手を動かしていて
でもそこに痛みはなく
ただただ気持ちいい

次のページに続く!!

「言わんとやめるで?」

その言葉を聞いて凄く胸が苦しくなった
やめないでほしい
ずっと続けてほしいくらいだ

やめないでください

息も絶え絶えに発する

「なんかいった?」

お姉さんの手が止まる

「やめないで、ください!」

ええこやな、とお姉さんはつぶやいて。

俺の首筋をすっと舐める。

その右手はまた動き始めて
上下だけではなく
先端を凝らしてみたり
付け根を押してみたり
さっと指先でなぞってみたり

次のページに続く!!

性的な快楽以外のものを感じていたような気がした

「ぬるぬるしたのでとんで」

お姉さんの言葉に耳が犯されることは

「かわいいなあ、君は」

本来なら性行為の補助であるはずなのに

「ここ、こんなんにして、気持ちいいんやろ?」

それが快楽の全てである気がした

「気持ちいです」

「もっとしてほしい?」

「もっとしてほしいです」

「もっと気持ちよくなりたいん?」

「なりたいです」

「お願いは?」

「お願いします」

「足らんなあ」

「お願いします!」

次のページに続く!!

「どれをどないにしてほしいん?」

「僕のを、お姉さんの中に、お願いします」

「……なんかいうた?」

「僕のを! お姉さんの中に! お願いします!」

「ええこやな」

お姉さんの声が遠ざかっていく
どこに行ってしまうんだろうと不安になって目で追うと
お姉さんは

俺のそれを口の中に収める

じゅるり
と奇妙な音を立てながら
ぐじゅぐじゅ
といやらしい音を立てながら

「だ、だめ」

「ん? どないしたん?」

次のページに続く!!

「イキそう、です」

「ええよ」

俺が嫌だった
現時点で既に人生の幸運を全て使ってしまったような状況だけど
でも、一番の目的がまだだったから

「い、嫌だ」

「ほら、だしや」

お姉さんの涎に塗れたモノを手で上下に動かしつつ先を舌先で舐めながら
お姉さんは俺を嬉しそうに見詰めた

「嫌だ、でちゃい、ます」

言ってもお姉さんはやめてくれない。
嫌だと言いながらも俺は激しく抵抗しない、できない。

「お願い、お姉さん、やめて」

お姉さんはじいっと俺を眺める
俺をじいっと観察する

次のページに続く!!

声を殺して息が漏れた
下腹部に集まった大量の性欲が
意思と無関係に発射される

体の中心が割られたような衝撃だった
一人じゃ味わえない快感だった

お姉さんは俺の液体から顔を背けずにいた
快楽の余韻に浸りながらお姉さんを見ると俺の精液でどろどろになっていた

「いっぱいでたな」

言うと、お姉さんは再び性器に口をつけ
舐め取るように、吸い上げるように綺麗にしていった

それは気持ちよさよりもくすぐったさの方が上だったけど
なによりも心が満たされていった

「ほな、お風呂はいろか」

「先入っとって。すぐ入るから」

言われて、シャワーを浴びる。
湯船のお湯はまだ半分ぐらいしか溜まっていない。

次のページに続く!!

シャンプーで頭を洗っていると電気が消える。

「入るでー」

速攻で足を閉じてちむぽを隠した。

「さっきあんなんしたんに見られるの恥ずかしいん?」

けたけたと笑うお姉さん。

「髪洗ったるよ。手どかし」

言われるがままに手をどかし
お姉さんにシャンプーをお願いした。

内心未だにどきどきしっぱなしだったけど
それ以上に俺は後悔していた

だって、もうできるチャンスはないだろうから

お姉さんとできるチャンスを俺の逃したのだ

「流すでー」

人に頭を洗ってもらうのは気持ちいい
流されて、溜まった湯船に二人して使った

次のページに続く!!

「どやった?」

「なにがですか?」

「言わんでもわかるやろ」

「お姉さんってSですよね」

「君はMやろ?」

「みたいですね」

ごぼがぼごぼ
お湯に隠れたいけどそうもいかない

「一週間まであと四日やなあ」

「それは……」

それはお姉さんが決めたことじゃないですか、と繋げたかったけど
俺にそんなことを言う権利はなかった

なにせこのあともずっとここにいたら
それはとても嬉しいことだけど

俺は沢山のことでお姉さんに迷惑をかけるだろうから

「ま、また次があるやろ」

なんのことだろうと首を傾げる

次のページに続く!!

「ん? いや、したくないならええねんけど」

「え」

「うちは君みたいな可愛い子好きやからな、別にええよ、うん」

「は、はい」

男ってのは現金な奴だ
男、ってか
息子、ってか

次があると教えてもらってすぐにおっきくなりやがる

「ほんま、若いなあ」

にやにやとお姉さんが笑っている
恥ずかしくなって俯くけれど
それは同時に
嬉しくなって微笑んでしまったことを悟られたくなかったから

でも、お姉さんには好きな人がいる

風呂から出て、お姉さんの部屋へ

次のページに続く!!

俺は家にパソコンがなかったからお姉さんがパソコンで遊んでいるのに興味深々だった

「なに見てるんですか?」

「これ? 2ch言うてな」

因みに2chもお姉さんから知った

お姉さんと馬鹿なスレを覗いて笑っていた
お姉さんは話始めると話上手で
スレのネタに関連した話題をこっちに振ってくる

それに返すだけで話のやり取りが進む

そういうのはBARの店長だけあって上手だった

暫くして眠ることに
流石に翌日は仕事に行かなければならない

「僕も行きますよ」

「気持ちだけでええよ。辛いやろ?」

辛いとかそんなんじゃなくてお姉さんと一緒にいたいだけなのに

と思った

次のページに続く!!

「君はほんま可愛いなあ」

と思ったら口に出てた

「ええよ、やけど仕事はさせんで。それやと化粧できんし、まだ腫れとるからな」

二人で一つのベッドに寝転がる
このまま時が止まればいいのに

このまま日課にしてしまいたい行事
お姉さんの頭を優しく撫でて
お姉さんが眠るまで隣にいること

うとうとするお姉さんの横で
お姉さんが心地よさそうに震えるのを見てられること

「気持ちいいですか?」

「それさっきのお返し? 気持ちいいよ、もっとして」

撫でていると心が安らかになる
なんでか、お姉さんよりも優位に立った気がする

次のページに続く!!

「お姉さんも可愛いですよ」

「君に言われたないわ」

「ほんとに」

「はいはい……ありがと」

本当にたまらなく可愛いからいっそのこと撫で回して抱きしめ尽くしてむちゃくちゃにしたくなるけど
お姉さんはそのまま寝入っていくから

俺も暫くして眠った

店はその日繁盛していた
それもどうやら俺が原因らしい

「大丈夫やったん? なんか大変やったんやろ?」

そんな調子のお客様がたくさん来た
聞いてる限りだと
その時そこにいたお客様がmixiかなんかで呟いて
そっから馴染みの客が全員来たらしい

次のページに続く!!

だから満員で

「ほんまごめん、あとでお礼するから」

「いりませんよ、そんなの」

お姉さんは罰が悪そうにしてたけど
手が足りないっていうんで俺も手伝うことになった

俺の顔はまだ腫れてて
それを見ると女性客は慰めてくれて
男性客は褒めてくれた

「あいつも吹っ切れたみたいでよかったなあ」

気になる会話をしていたのはテーブル席の三人客だった

「吹っ切れた、ですか?」

お姉さんに渡されたカクテルを置く

「だって君を選んだんだろ? あいつ」

選んだ?

次のページに続く!!

「ん? 付き合っとんちゃん?」

お姉さんが俺と?

……男として見てくれてるかも怪しい。

「吹っ切れた、が気になるんですけど」

「ああ、それは……なんでもない」

お客様が視線を落としてはぐらかす。
肩を落として戻ろうとしたら、お姉さんが仁王立ちだった。

「余計なこといいなや」

とても怒っているようだった。
お姉さんは俺の頭にぽんと手を乗せて

「帰ったら話すわ」

と言ってくれた

そのあとも仕事は続いて
でもどことなく仕事に身が入らない
といっても、ミスをするような仕事内容でもないからいいけど

お客さんが話しかけてきてもぼうっと返事を忘れてしまうくらい

次のページに続く!!

家に帰るまで気が気じゃなかった
お姉さんの話っていうのは十中八九俺が知りたいことだろう

お姉さんが好きな人のことだろうから

家に帰って
お風呂にも入らずお姉さんは飲み物を用意する

もちろん俺はコーヒーを頼んだ

「飲めんくせに」

「飲めるようになります」

「ええやん、飲めんでも」

「嫌です」

「子供やなあ」

子供扱いされてついむくれてしまう

「はい、どうぞ」

差し出されたコーヒー

うげえ

「それで、話してくれるって言ってたことなんですけど」

「話逸したな」

ははっ、とお姉さんはいつものように快活に笑って
口を開く

次のページに続く!!

「好きな人おるって言うたやん? その人のことやねんけどな」

「手っ取り早く言うけど、もう死んどんねん、そいつ」

「なんつーか病んどったからなあ。死んでもた」

「ここで一緒に暮らしとった。BARはそいつと一緒に初めてんよ」

「親友やったし、同時に恋人やった」

「たったそんだけのありきたりな話や」

「なんで死んじゃったんですか?」

「さあな。遺言はあったけど、ほんまかどうかわからんし」

「まあ、そいつが言うには、恐かったんやて」

「うちを幸せにできる気がせんって」

「想像つくんかどうか知らんけど、うちもそいつもろくな家庭で育ってないねんよ」

「うちは親から虐待受け取ったし、そいつは親に捨てられてたし」

「十六ん時に会って、似たもの同士やからか気が合って」

「二人で金貯めて家借りて、店も出した」

「けっこう上手く行っとってん」

次のページに続く!!

「あいつはなにが恐かったんやろなあ……幸せにしてくれんでも、一緒におってくれるだけでよかったんに」

「あいつの保険金でこの家は買い取った。なんか、あいつが帰ってきたらって考えるとな」

「ありえへんのやけど」

「……まだ好きなんですか?」

「どやろな。うち残して勝手に死んだアホやから、まだ好きか言われたらそうでもないかもしれん」

「やけど忘れられへんねん。あいつのこと」

それは十五歳の俺には身に余る
とても重たい過去だった

「まあ、そういう話。たいしておもろないから話すのは好きちゃうんやけど」

「……君、うちのこと好いとるやろ?」

「あ……はい」

「やから、君には話とかななって」

「うちを狙ってもいいことないで、ってな」

「……関係ないですよ、そんなこと」

「俺はお姉さんのこと、好きですし」

次のページに続く!!

「お姉さんがこうしていてくれるなら、俺はそれだけで充分です」

「無理やん、それも」

「こうして大人になるとな、子供をそんな道に引っ張るんがアカン、ってことぐらい思うんよ」

「君にはどんなんか知らんけど家族がいるし、なにより未来があるからなあ」

「うちみたいな女にひっかかっとったらあかんねんって」

「引っ掛けたんうちやけどさ」

「お姉さんは俺のこと嫌いですか?」

「嫌いなわけないやん」

「じゃあ、いいじゃないですか」

「来年、というか暫くしたら高校生です。高校卒業したらこっちに来ます。それからじゃダメですか?」

「……」

お姉さんが口ごもる
なにを考えているんだろう
お姉さんが考えていることなんて一つもわからない

次のページに続く!!

俺が子供だったからなのか
お姉さんが特殊だったからなのか

お姉さんはたっぷりの間を置いて

ええよ、と答えた

けれどどうしてだろう、不安が拭えない
ええよ、と言ってくれるならどうしてお姉さんはそんなに

寂しそうだったんですか?

「今日が最期やな」

「最期じゃありません。暫くしたら会いに来ます」

「そやったな。ま、とにかく」

「今日は遊ぼか!」

「でもお店は?」

「自営業はな、融通聞くねん」

「どこに行きましょうね」

「映画なんてどない?」

「いいですね」

次のページに続く!!

「よし、じゃあ早速!」

「化粧はしませんよ」

「ええやん、あれ可愛いやん」

「俺は男ですから」

「今だけやで? 三年後はできんぐらい男らしゅーなっとるかもしれんで?」

「それでいいです」

「ったく、ケチやなあ」

なんとか化粧をされずに出かけることとなる
初めてのお姉さんとデート

映画を見て、ご飯を食べて、ゲームセンター行って
楽しくないわけがなかった

夜はお姉さんが料理を作ってくれることになり
帰りがけにスーパーで食材を買い込んだ

次のページに続く!!

「こう見えて料理には自信あんねん」

「楽しみにしてます」

「ほんまかいや。君どうも感情薄いからなあ。だいたい、いつまで敬語なん?」

「癖なんで」

「律儀な子がいたもんやわ」

慣れた手つきで食材を調理していく
野菜を切って、肉を切って
したごしらえして、炒めて

一時間ぐらいで料理が出された

「どないよ」

「おお……予想外」

「は? なんやて?」

「予想通りな出来栄え」

「それはそれでええ気分せんわー」

実際、料理は美味しかった
というか料理の美味さよりなによりも

次のページに続く!!

お姉さんのエプロン姿が一番刺激的でご飯どころじゃなかった

なんというか、お姉さんってほんと綺麗だなあ、と

「ごちそうさまでした」

「お粗末でしたー」

洗い物を手伝いながらふと思う
こんな風に生活できるのも、もう暫くはないんだと

三年
少なくとも三年は遠いところに居続けることになる

たまに会えてもそれだけだろう
なによりお姉さんは本当に俺を待っていてくれるんだろうか?

不安が顔に出ていたのか、お姉さんが後ろから乗っかかってきた

「な」

「はい」

「うち、好きな人できてん」

「はあ」

「気のない返事やな。告白されとんねんで?」

次のページに続く!!

「……嬉しいですよ」

「こっち向きや」

「はい」

触れるかどうかの小さなキス

「ほんまに、好きやで」

お姉さんと初めて会った頃のように
俺はまた動けなくなった

この人はどれだけ俺の知らないことを知っているんだろう

別々にお風呂に入ってゆったりとした時間を過ごす
何度でも挑戦するがやっぱりコーヒー

「さああ飲めるでしょうか!」

お姉さんはノリノリだ
因みにまだ飲めたことはない

ごくり、と喉を通す

あれ?

次のページに続く!!

「これ、飲めます」

「やったやん!」

「というかこれ、いつもと苦味が違います」

「うん、それについては謝らなかん」

「?」

「うちよう考えたら濃い目が好きでな。君が飲んどったんめっちゃ濃かってん。やから普通のお店レベルに薄めてみた」

「……はあ」

「ま、まあええやん、飲めたんやし。ほら、最初にきっついのん経験しとくとあとが楽やん? な? はは……怒った?」

「別に怒りませんよ。ちょっと、肩透かしな気分です」

「よかった」

時間は過ぎる
お姉さんといられる、短い夜

次のページに続く!!

「ほな」

寝よか

聞きたくない言葉は当たり前にやってきた

お姉さんは奥
俺は手前

七日間続いたお伽話も今日で終わる

明日、目が覚めたら
お姉さんが仕事に行くついでに俺は帰る

嫌だ
帰りたくない
ずっとここにいたい

そう考えても意味がない
言えない気持ち

言ってもお姉さんが困るだけだ

撫でる髪は今日も柔らかい
お姉さんの綺麗な髪は今日もいい匂いがする

次のページに続く!!

ずっと撫でていたい

ずっと傍にいたい

どうして俺は十五歳なんだろうなんて
どうしようもないことに苛立った

お姉さん、お姉さん

「なあ」

答えられなかった

今口にしたら、なにかを言葉にしたら

一緒に涙まで出てしまう

「この前の続き、しよか」

「目、つぶってや」

言われたままに目をつぶる

布団が浮いて、冷たい空気が入り込んできた

ぱさり、と

絹擦れの音が聞こえた

次のページに続く!!

「ええよ、開けて」

カーテンの隙間から通る傾いた月の光がお姉さんを照らしていた

それはとても幻想的で
物語の中だけでしか見られない存在に思えた

肌が白く輝いて
髪が淡く煌めいて

「綺麗です」

「ありがと」

「うちな、この前みたいなんも好きやけど、今日は普通にしたいかな」

「はい」

「やから、今日は君が頑張ってな」

「はい」

「ははっ」

「ええこやな」

キス

次のページに続く!!

お姉さんが上でこそあれ
重ねるだけの普通のキスをして

お姉さんは横になった

俺は興奮の中で混乱することなく
きっとそれはお姉さんのお陰なんだけど

自分からお姉さんにキスをする

感情をいっぱい込めてキスをする

好きという気持ちが伝わるように
伝えるようにキスをする

舌を入れて
お姉さんがしてくれたみたいに舐めあげていく

乱雑にすることなく
ゆっくりと
愛でるように

全ては愛でるために

次のページに続く!!

たまに、お姉さんが息を漏らす
たまに、お姉さんが体を震わす

舌と舌がもつれあい
唾液がお姉さんと行き交って
一つに溶けていく

「好きです」

離れて囁くと

意外にもお姉さんは呆気にとられて
恥ずかしそうに顔を背けた

「知っとるわ、アホ」

本当に、俺は心からお姉さんが好きだ

お姉さんの胸に手を伸ばす
触れるのは二度目
それでも喜びは尽きない

次のページに続く!!

男の喜びが詰まっているようだった
でもなによりも
お姉さんの胸だからこんなにも嬉しいんだろうと思った

触れると、それが丁度性感帯に当たったのか

「んっ」

お姉さんが喘ぐ

既に乳首は固くなっているように思えた
その判断がつかない辺り童貞だけど
そんな気のする固さだった

口を近づけていって、舌先で舐める

お姉さんがぴくりと跳ねた

嫌がられることがないと知って、気が軽くなる

突起を口に含んで小さく吸う

お姉さんの体が小さく喜ぶ

口の中で転がすように遊んだ
どうしてそうしたくなるのかわからなかったけど、すぐにわかった

次のページに続く!!

「んぅ」

お姉さんが喘ぐ
それはきっと感じてくれているからだ

俺はお姉さんが喜ぶことをしたい
もっと、お姉さんを感じさせたい

胸を触りながら、そこに意識する
全く未経験の、そこ

もっと下にある未知の領域

触っていいのだろうかと考えて、振り払う
ここまでしてくれていて、いけないはずがない

それをお姉さんに聞くのはきっといいことじゃない

右手をお姉さんの太ももにあてた
それだけで感じ取ってくれたのか、少しだけ

本当に少しだけど、お姉さんは足を開く

次のページに続く!!

緊張する
この上なく緊張する
色んな意味で爆発しそうだ

けれど理性で必死に抑えつけた
欲望のままに暴走したら、お姉さんを喜ばせられない気がした

けど、お姉さんはそんな俺はお見通しだと言うように

両手で俺の顔を引き寄せて、耳にキスをした後

「さわってええよ」

細く囁いた

いっそのこと一気に結合してしまいたくなったが
それを止めたのは理性というよりも

多分、愛情だった

太ももからなぞるように手を持っていき
そこに触れる

それだけでお姉さんが震えて

既に溢れた液に導かれるまま
俺はゆっくりと指を入れていく

次のページに続く!!

お姉さんの声が次第に膨らんでいく
声を殺すのも、億劫なほどに

指を埋めた肉厚のはずなのに
指に埋もれた肉厚と考えてしまうのは
それだけ女性器の中が神秘だからなのか

どこをどうすればお姉さんが感じてくれるのかわからず
ひとしきり指を動かしてみる

たまに、だけど

ちょうどいいところなのか
一際お姉さんが喜び震える場所があった

それを幾度も試して
どこなのか突き止めて
ようやく場所がわかって

次のページに続く!!

押し上げる

お姉さんの腰が浮く
明らかに違った声色が響く
気持ちよさのあまり綺麗から遠ざかった声を漏らす

だけど、俺にはやっぱり綺麗だった

とてもとても綺麗だった

綺麗という言葉しか思いつかないことが申し訳なるくらい

もう一本指を入れて
お姉さんが一番悦ぶところを押し上げる
救い上げるように
引っ張り出すように

「だ、めっ」

お姉さんが発した言葉は
あの日俺が発した意味と同じなのだと知って

次のページに続く!!

ああ、そうだね、お姉さんと俺は納得した

これはやめられない

あの時のお姉さんの気持ちがわかる
遅れて共感できたことが嬉しかった

お姉さんはこんな気持ちで俺を攻めていたのだろう
どこか嗜虐的な、歪んだ気持ちで

だけど
だけどきっと

今の俺と同じような気持ちだったと信じたい

もっと、もっと、喜んでほしいと願う心があったのだろうと

掻き回す指に連鎖してお姉さんが声を出す
偽りのない性的な声に興奮も高まっていく
気づけば汗でぐっしょりと湿っていた
指を動かす度に淫らな音が響き渡る

次のページに続く!!

自分の行いで快楽に身悶えるお姉さんが愛らしい
もっと、もっと愛でていたい
好きという気持ちに際限がないように
ずっとこのままでいたいと思う

強く、抱きしめて

「もうっ」

荒く、かき乱して

優しく、囁いて

「好きです」

「んんっ――」

糸切れた人形のようにお姉さんが固まる
腰を中に浮かせたまま、電気信号のように身体が跳ねた

くて、と横たわったお姉さんは顔を腕で隠して息を荒くしていた

「ははっ」

荒げた息の間でお姉さんは

「イカされてもたわ」

少女のように、照れていた

次のページに続く!!

「お姉さん」

「ん?」

「入れていいですか?」

「え、う、今? 今なあ……」

当時の俺にはお姉さんがなんで躊躇うのかわからなかった
それも、今、という限定で
今ならわかるけど

「よし、ええよ、入れて」

なにかしらの覚悟を決めたお姉さんに了承を得て
俺はパンツを下ろしてそれを出す

「ゴムだけはちゃんとしよな」

「もちろんです」

「つけれる?」

「授業で習いました」

冷静に答えてみるものの
渡されたゴムを上手くつけられない

次のページに続く!!

「ははっ、こういうとこはやっぱ初物やな」

「初物って」

「ええよ、つけたる」

「すみません」

膝立てをして性器を晒す
恥ずかしさが二乗して襲ってきた

お姉さんは俺からゴムを取ると

「これも男のこの夢やったっけ?」

と聞いてきた

なんのことだろうと思っていたら

お姉さんはゴムをはめるより前に俺の興奮したそれを口に含んだ

わざとだろうか
激しく音を立てて、寧ろそれが目的のように吸い尽くす
このまま続けられたまたイってしまう

次のページに続く!!

「お姉さん、やめ、て」

「わかっとるよ」

今回は素直に引いてくれたので安心する
お姉さんはゴムを取り出してなにかをしている

するとまた俺のを口に含んだ

気持ちよさに震えるがそれ以上に違和感があった

どうやっているのは不思議だけどお姉さんは器用に口でゴムをつけた

「ふう、上手くいった」

「どうやるんですか、それ」

「君は知る必要ないやろ、男やねんから」

「そりゃそうなんですが」

「まああれやな。男もアホなこと覚えとるように、女もアホなこと覚えんねん」

「そういうもんですか」

ちょっと雰囲気が外れてしまったかに思えるが
俺は童貞で、なんだかんだでしたくてたまらない猿だ

次のページに続く!!

お姉さんを押し倒す

「もう我慢できないです」

「そやな、ええよ」

自分のを持ってお姉さんの穴にあてがった
ここか?

「もうちょい下やな」

ずらすと確かにそれらしき窪みがある

「うん、そこ」

色んな感情が渦巻く中
俺はゆっくりと腰を落としていった

どんどんと沈み込んでいく中
入れる具合に反応してお姉さんの息が吐き出される

ゆっくり、ゆっくり
中はうねっていて奇妙だった
こんな快楽がこの世にあったんだと素直に感動した

次のページに続く!!

暖かくて心地よい神秘の世界
お姉さんの全てが詰まった、一つの秘境

さっと血の気が引いた
やばい

やばい

やばい

「うあっ」

冗談だったらやめてほしいけど
なによりも俺が一番冗談じゃないと知っている

きょとんとしたお姉さん
恥ずかしくて速攻目を逸した

お姉さんはそんな俺を見て笑うでもなく

「しゃーないしゃーない、初めてやねんから」

と言ってくれた

「したりんやろ? もっかいしよか」

その言葉だけで再び性欲の熱が沸点を目指す

次のページに続く!!

「あ……そのゴムラストや」

地獄に突き落とされる言葉ってこういう言葉かもしれない。

「ま、えっか。安全日やし。中に出したらあかんけど」

思考が固まった

「はい、抜いて」

言われるがままに抜くと、お姉さんが体を起こしてゴムを外す

「……生は恐い?」

「いや、あの、子供……」

「まあできんやろうけど、そやなあ。君って今なんのためにエッチしとるん?」

「それは」

単純に気持ちいいから
だけど多分、それ以上に
お姉さんとなにかを残したいから

次のページに続く!!

「子作りのためちゃうやろ? やから、子供は気にせんでええよ」

「それに、まあ、できんやろうし」

お姉さんはそれをとても悲しそうに呟いた
ガキとはいえ、なぜそんなに悲しそうなのかと聞く気にはなれなかった

嫌な想像しか浮かばないけど

「うちは君と、ちゃんと繋がりたい。やから、しよ?」

「はい」

お姉さんは再び横になって

二度目ということもあり、スムーズにその場所へと持っていき

先ほどとは打って変わって

一気に突いた

根元まで挿入されると様々な感情が浮かび上がる
喜び、悦び、期待

そして、不安

最期の感情を振り払うように
一心不乱で腰を動かした

次のページに続く!!

突くたびにお姉さんは喘ぐ
見られまいと顔を背けて

かなぐり捨てて動き続ける
お姉さんに全てを受け取って欲しくて

好きだから、ずっと一緒にいたい
けれど、お姉さんとずっと一緒にいられない

お姉さんはいつかまたと言ってくれたけど
お姉さんは本当にそう思ってくれたのだろうか

だとしても、お姉さんは綺麗だから
かっこいい男が現れたりするだろう

そんなの嫌だ
俺はお姉さんとこうしていたい

仕事して、遊んで、髪を撫でて

突く力が強まるのは、不安を吹き飛ばそうとする度合いだ
突くだけでなく、沢山キスをした

次のページに続く!!

これが夢じゃないかと疑いたくない
これは本当のことだったと、なによりも自分に覚えててほしい

なんの壁もなく一つになっている

お姉さんと一つになっている

なっていたい

お姉さん

性器に溜まる欲望が急速に炙る
限界が近い

「イキ、そうです」

「うん、イキな」

「お姉さん」

「ん?」

「好きです」

お姉さんは突かれながらも

「うちもやで」

と微笑んだ

次のページに続く!!

どくどくと溢れる熱量が
お姉さんのお腹にぶちまけられて冷えていく

疲れ果てた俺は倒れこむように横になった

「気持ちよかった?」

「はい……お姉さんは?」

「気持ちよかったにきまっとるやんか」

「よかった」

安心する
俺のしたことは喜んでもらえた

お姉さんに頼まれたのでティッシュを取る
ああ、そうか、こういうとこにも気を付けないと

お姉さんがティッシュで俺の精液を拭き取った

「こうせんと布団が汚れてまうからな」

「もう今日はこのまんま寝よ」

お姉さんが裸のまま抱きしめてきて
足も絡めてくる

次のページに続く!!

それはつまりお姉さんの胸があたり
太ももにお姉さんの性器があたり
俺の性器も擦れるということで

「おお、もう復活したん」

「いえ、大丈夫です」

「……ええよ、いっぱいしよか」

結局、寝るまでに後三回した

合計すると五回も数時間で出したってことになるわけだから
若いって凄いな、と思う

翌日

昼過ぎに起きた俺はお姉さんに黙って部屋の掃除を始めた
トイレ、お風呂、玄関、物置、キッチン、リビング

最期にお姉さんの部屋

次のページに続く!!

「……なにしとん?」

「掃除。お世話になったので」

「生真面目やな、ほんま。こっちおいで」

「はい」

寝転がっているお姉さんの横に行くと、頭を撫でられた

ええこやな、といつも口調で

嬉しかったからお姉さんの頭を撫で返す

ええこやな、とお姉さんを真似て

「……関西弁へったくそやな」

「そうですか?」

「なんかイントネーションがちゃうわ」

「難しいですね」

「今のまんまでええよ」

「君は君のまんまでええよ」

「はい」

お姉さんが仕事の支度を始めたら帰るのはもうすぐだ

家に帰ったら両親は怒るのだろうけど、どうでもいい

次のページに続く!!

それだけ価値のある人に出会えた

「行こか」

それには答えられずただ
引かれた手に連れられて外に出る

家を出て近くの駅へ
そこから都会の駅まで僅か十分

お姉さんはずっと手を繋いでてくれた
お姉さんの手はとても暖かった

白状するけど俺は既に泣いていた

声を殺して
俯いて
泣いていることを悟られずに泣いていた

きっとお姉さんはお見通しだったろうけど

都会の駅に着く

俺の家はここから本当に遠い

次のページに続く!!

「暫くのお別れやな」

「ありがとうございました」

「今度はいつ来る?」

「夏にでも来ます。速攻バイトして、お金貯めて」

「そっか。ほんじゃ、待っとくわ」

「あの、これ」

「ん?」

「携帯番号です。電話、くださいね」

「うん、電話するわ」

嫌な予感しかしなかった
今ここでお姉さんの手を離したら
二度と会えなくなるような気がした

「お姉さん」

「ん?」

「ごめんなさい」

「なに謝っと……」

俺よりも身長の高いお姉さんの
肩を掴んで引き下げて
無理矢理キスをした

次のページに続く!!

そこはまだ駅のホームで人目がつく

長い時間のように思えて
それは一瞬のことだった

「強引やな」

「ごめんなさい」

「嫌いちゃうけど」

「すみません」

「お返しっ」

今度はお姉さんの方からキスをしてきた
その時間は本当に長かった

二分、三分?

お姉さんは白昼堂々と舌を入れてきて
人目も気にせずに没頭した

俺もなんだかだんだんどうでもよくなってきて
人目よりもなによりも
お姉さんの気持ちに応えたくて

次のページに続く!!

だってお姉さんは俺よりもずっと大人で
お姉さんはとても綺麗な人で
BARの店長とか格好良い職業で

モテないわけがない

こんな一瞬、奇跡に違いない
夢でないことがいい証拠だ

だからきっとお姉さんは俺を忘れる

俺はいつまでもお姉さんを忘れられないだろうけど

「大好きです」

「うちもやで」

「また来ますから」

「うん」

「絶対に来ますから」

涙が止まらない

この約束が嘘になると思ってしまって
ずっと涙が止まらない

次のページに続く!!

電車が来る

お姉さんが微笑む
俺の頭を撫でる

俺は泣きじゃくったただのガキで
駄々をこねるただのガキだ

電車が扉を開ける

中に入る

泣くなや、男の子やろ?

扉を締める合図が響く

お姉さんが僕を抱きしめる

ほんまに

ぎゅうっと強く、抱きしめる

ほんまに

車掌の警告が響く

大好きやで

けたたましいサイレンが鳴る

次のページに続く!!

ありがとう

お姉さんが離れる

ドアが締まりかけた頃合で

お姉さんは快活に微笑んだ

目尻に込めた涙を無視して

「バイバイ」

別れの言葉を口にした

家に帰ると鬼の形相をした両親に迎えられた
がーがー怒っていたけど、なぜだろう
俺はそれがとても嫌だったのに、ふと思った

二人も子供なんだろうな、って

お姉さんがお姉さんだったように
お姉さんだけどお姉さんじゃなかったように

大人だって子供なんだな、って

「俺さ、二人が喧嘩するのが嫌で家出したんだよ」

そういうと二人は黙ってしまった

次のページに続く!!

喧嘩の原因ってなんだろう
考えてみれもどうでもいい

頭の中でお姉さんが離れない
お姉さんがいつまでもそこにいる

お姉さんは、そこにいるけど

俺の携帯はいつまでも鳴らなかった

高校に無事入学して、夏

バイトをしてお金を貯めて、お姉さんに会いに行く夏

だけど、相変わらずお姉さんから着信は来なかった

学校の友達もできた
好きな人はできなかったけど

というか
お姉さんを知って他に好きになれるとか、無理だろう

結局、俺はお姉さんに会いに行かなかった

臆病だったから?
不安だったから?

答えはまあ、三年後

次のページに続く!!

三年後

高校を卒業してそのまま働くと伝えたら両親は落胆していた
因みに俺の家出が切欠か、あれ以来二人は不仲が解消したようだ
少なくとも家で喧嘩はしていない

しかも勤め先を遠くに選んだから余計だ
理由を問われたけどその街が好きだからとしか言えなかった

就職はまあ、なんとかなった
高卒なためいいところとは言えんが選ばなけりゃなんとでもなる

家も決めて、一人暮らしの段取りをしつつ

三月に入って俺は学校に行くのをやめた
あとは卒業式以外どうでもいいわけだし

それよりもなによりも俺にはやることがある

家を探す時や就活の時に訪れているわけだが
改めて来てみると不思議な感覚に襲われた

次のページに続く!!

あの都会の駅の前にある広場はどうにも健在らしい

そこのベンチでぼうっと座っていると、お姉さんが

なんてことは流石にない

暫く佇んで、お姉さんを探すべく歩き出す

といっても行く先なんて決まっている
あのBARとマンションしか知らないんだから

夜の八時過ぎ
あのBARが開いている時間帯だ

こうして見ると怪しい雰囲気だな、と思った

お姉さんに連れられた三年前は気づかなかったが、これは一人で入れんと思った

ドアを開けるとベルが鳴る

店の看板とかなにもないから不安だったけど、BARはまだやっているらしい

中に入るとお客さんは一人もいなかった

でも、一人だけ、その人はいた

赤く長い髪の
綺麗なお姉さん

次のページに続く!!

「こんにちわ」

「らっしゃーい」

どうやらお姉さんは俺の存在に気がついていないようで
これはこれで面白いと俺は自分を明かさなかった

まあ、なんだかんだで
今ではお姉さんより身長も高いしなあ

三年経ってもお姉さんはお姉さんだった
綺麗ですっとしていてモデルみたいで

大人の色気が増したと言えばいいのか
しかし十八の俺に大人の色気はよくわからん

「お客さん、初めてだよね?」

「ですね」

「なんでこんな見つけづらいとこに」

「友達に聞いたんですよ。真っ赤な髪のマスターがいるBARがあるって」

「ああ、これ。ははっ、もういい年なんやけどねー」

次のページに続く!!

「でもとってもお似合いですよ」

「あざーす。いや、なんか照れるわー」

「どうして赤髪なんですか?」

「これ? これな、むっかあああああしの知り合いに褒められてなー」

死んでしまった人のことだろうか

「大切な想い出なんですね」

「いやそんなんどうでもええねんけどな、今となっては」

「?」

「ぷっ」

「どうしました?」

「いや、そんでなー」

「この赤い髪を綺麗ですね、って褒めてくれたガキンチョがおんねん」

「ガキンチョ」

次のページに続く!!

「そうそう。そいつな、うちに惚れとるとかいいよったくせにな、くせにやで? 携帯番号ちゃうの教えて帰ってん」

……うそん

「連絡ください言うた割に連絡通じへんやん? どないせーってのな」

「そ、それはそれは」

冷や汗が沸き立つ
まじで? それで連絡こなかったの?

「会ったらほんまどつきまわしたらなあかんなあ」

迂闊に名乗れなくなった

「そ、それと赤髪がどういう?」

「ん? やからさ、あのアホンダラが戻ってきた時、うちのトレードマークがなかったら気づかんかもしれんやん?」

「そんなこと……」

ありえて嫌だ
お姉さんの赤髪とピアスは凄い印象強いから

次のページに続く!!

「ところでお客さん、なに飲む?」

「おすすめのカクテルを」

「いや無理やわー」

とお姉さんはドン、っと机が揺れるぐらいの勢いでコップを置いた

「自分みたいなガキンチョにはこれで充分やろ?」

それはいつか出されたジュースだった

「……はは」

「ははっとちゃうわドアホ! いつまで待たせんねんおばはんにする気かおどれぁ!」

「あ……バレてました?」

「バレバレや言うねん! 君身長高くなっただけで顔つきほとんど変わってないやんけ可愛いわボケぇ!」

「可愛いなんて、もうそんな年じゃないですよ」

次のページに続く!!

「そこだけに反応すんなアホ! 首傾げる仕草もなんも変わってないいうねん……」

唐突にお姉さんは体を背けて顔を隠す
ああ、お姉さんも変わってないな

「どんだけうちが待っとったおもてんねん……」

ふるふると震える肩
いつもそうだった
お姉さんは弱味を俺に見せたがらない

恥ずかしい時も
哀しい時も
苦しい時も

顔を背けてそれを隠す

椅子を降りてカウンターの中に入っていく
土台が同じ高さになったため、俺はお姉さんよりも大きくなった

次のページに続く!!

「ほんま、背高くなったなあ」

「牛乳飲んでますから」

「……君ええボケ言うようになったやん」

「そりゃお姉さんと一緒になるの、夢見てたんで」

「タバコは?」

「身長伸びませんから」

「迷信やろ」

「プライバシー効果ですよ」

「プラシーボ効果やろ」

自分より小さくなったお姉さんをそっと抱きしめる
自分の腕の中に収まるお姉さんは、とても可愛らしくて愛くるしい人だった

「大好きですよ」

「あっそ」

「つれないですね」

「知るか、三年もほっとったアホ」

「どうしたら許してくれます?」

「そやな」

次のページに続く!!

「とりあえず、うちより身長低くなりや」

「はい」

「うん、ええ位置やな」

引き寄せて、お姉さんはキスをする
三年ぶりのキスは相も変わらず、優しくて、この上ない喜びが詰まっていた

「なあ」

「はい?」

「うち、ええ歳やねんけど」

「結婚とか興味あるんですか?」

「君とする結婚だけ興味あるな」

「そうですか。じゃあ、暫くしたらしますか」

「なんでしばらくやねん」

「まだ新入社員ですよ、俺。いやまだなってもないのか」

「就職したん? ここがあんのに」

「それも悪くないんですけど、やりたいこともありまして」

「へえ、なんなん?」

「秘密です」

次のページに続く!!

改めて席についてジュースを飲んだ

「一つ気になってたんやけど」

「はい」

「なんで夏にこんかったん?」

「……そうですね」

「連絡が来なくてムカついてたんで」

「君のせいやろそれは!」

「ですね。でもあの時の俺は本当にそうだったんですよ。恋人ができたのかな、って。だから三年溜めて、まずは社会人になって、もしダメだったら」

「ダメだったら?」

「ストーカーにでもなろうと思ってましたよ」

「どこまで本気やねん」

「半分。ストーカーは冗談ですけど、仮に彼氏さんがいるなら奪おうとは思ってましたよ」

「本気やな」

「そりゃまあ、お姉さんは僕の人生を変えた人ですから」

次のページに続く!!

「言いすぎ……でもないんかな」

「うちの人生を変えたんは、君やしな」

「それは意外ですね」

「君はあの一週間をどう覚えとる?」

「妄想のような一週間ですかね」

「妄想て。雰囲気でんわ。でもうちにしたって、ありえん一週間やった。だってそやろ、家出少年かくまって、いろいろあって、恋して」

「でもそういうの慣れてると思ってました」

「よく言われるけどなあ、そういうの。うちかてただの女やしな」

「……そうですね」

「そこは同意なんやな」

「もう十八ですからね。お姉さんが普通にお姉さんに見えますよ」

「なんやそれ。ってか君、いつまでお姉さん呼ぶん?」

「お姉さんって呼ばれるの、好きなんだと思ってましたよ」

次のページに続く!!

「嫌いちゃうけど、今の君に呼ばれるんは違和感しかないわ」

「でも」

「なんやねん」

「名前で呼ぼうにも名前知りませんし」

「……ほんまやな、うちも君の名前知らんわ」

「名前も知らない人を泊めてたんですか、いけませんよ」

「名前も知らんお姉さんに付いてったらあかんやろ、殺されんで」

「ほな」

「はい」

「○○ ○○です、よろしゅー」

「○○ ○○○です、よろしくお願いします」

「ははっ、なんやねんこの茶番」

「っていうかお姉さん、意外に普通の名前なんですね」

「君は古風な名前やな。しっくりくるわ」

そのあともお姉さん、基、○○との会話は続いた
お客さんが何組か来て、ついいらっしゃいませと言ってしまったりもしたけど

次のページに続く!!

俺はお姉さんの家に泊まることになった

「コーヒーお願いします」

「飲めるん? ってそや、薄くせなな」

「そのままでいいですよ。あれ以来濃い目のしか飲んでませんし」

「なんで修行しとんねん」

「○○と同じ味を覚えたかったから」

「……君、照れずにようそんなこと言えるな」

「鍛えましたから」

「それ絶対間違っとるわ」

差し出されたコーヒーに口をつける
強めの苦味が口の中でふんわりと滲んで、これはこれで嫌いじゃない

「ほんまや、飲めとる」

「三年も経てば飲めますよ」

「敬語はいつやめるん?」

「唐突ですね。やめませんよ」

「変な感じやな」

次のページに続く!!

「そうですか? これで慣れてしまってて」

「だってもううちら恋人やろ?」

「ああ、はあ、そう、ですね」

「なに照れとんねん、やっぱ子供やなあ」

「いやあの、今のは突然だったので」

三年前と違って会話はすらすらとできた
三年も会っていなかったからか、話したいことが山のようにあった

暫くして、変わらないあの言葉

ほな、寝よか

俺の腕に小さな頭を乗せて
縮こまるお姉さんは可愛らしい

優しく撫でると香るあの匂いに
急速に三年前を思い出す

「ずっと会いたかってんで」

「ごめんなさい」

「もうどこにもいかんよな?」

次のページに続く!!

「卒業式には帰らなくちゃならないのと、家を借りてるのでそれを解約するのとありますね」

「うん、ここにいたらええよ」

「家賃は払いますから」

「いらんよ、借家ちゃうし」

「結婚資金にでもしておいてください」

「お、おう」

こうして思えばお姉さんは照れ屋だったのだろう
三年前の俺はそんなこと全くわからなかったけど

その内にお姉さんはすやすやと寝息を立て始める
俺の腕の中で安らかに眠る

こんな日々がこれから一生続くのだろうと考えたら
俺はなんとも言えない喜びに包まれて

幸福の中で眠りについた

次のページに続く!!

それは春が訪れる
桜が咲く前のこと

ってなわけで悪いがエロなしで終わり

俺九時間も書いてたのか
そりゃどうりで頭が痛いわけだ

読んでくれてありがとう、お前らお疲れな

ここから質疑応答・・・

Q:この春から一緒に暮らすの?

A:ん、春からってから正確には再来月ぐらいになりそうかな

就職したばっかでばたばたするし、家の解約とかやることけっこうあるし
住民票とか、親の説得とかな

次のページに続く!!

Q:そいやまだ過去の男と子供の伏線が回収されてないからその話もあるわけか?

A:過去の男? それは寧ろ片付いたと俺が思いたいぞwww
子供のあれはな  まだ聞いてない
でも聞きたくもないし聞けない
聞くのはデリカシーがなさすぎ 今後聞く必要はあるだろうけど

Q:今どこにいるの?

A:いえないってwww
設定にフェイクは入れてるからなwww

Q:これで現在まで追いついたかんじ?

A:そやね。追いついた感じ

次のページに続く!!

Q:上手く言えないが、その後は幸せなのか?

A:もちろん!
こんないいお姉さん捕まえて幸せじゃないなんて奴、いないだろ?
もうお姉さんと再開できた時点で畳む話で
そっから先は蛇足だからな

悪いが終わりだ

Q:お姉さんに秘密でやりたいことってなに??

A:俺は物書きになりたいんよね
まあ、まだまだだけどさ
ほら、お姉さん自営業だし夜だし
物書きだったらそれなりに時間合わせられるし場所選ばないし

次のページに続く!!

改めてありがと
こんなスレ伸びるとは思わんかったけどさ

あ、最期にみんなに伝えておくことがあるんだわ

釣られたみなさま、本当にお疲れ様でした

と書こうと思ったけどやめた
まあいっか、お前らいいやつだし

んじゃ、おやすみ

【神展開】15歳の時、家出したら赤髪の美人お姉さんに拾われた!女「私の家に行こう」男「えっ行きます!!!」その結果。。。

家出した理由はそれなりに家庭の事情だった
両親不仲で毎日喧嘩してて嫌になって家飛び出した
十五歳だった

親の財布から抜いた一万円で全く知らない街に行った
自分の財布ぐらいしか持ってなかった
携帯は電話鳴ると鬱陶しいからおいてきた

夜の十時過ぎに電車降りた
それなりに都会だった
とりあえずどうしようと駅前の広場にあるベンチに座って考えてた

家出した高揚感が次第に収まっていった
だんだん都会が恐く思えてくる
まあガキだったし

歳上の男や女が凄く恐く思えた
だいそれたことをしてしまったんだと思って悲しくなった
半泣きだった

俯いてると声をかけられた

「なにしとん?」

顔をあげるとにやにやと笑う三人がいた
歳上の男と男と女だった

凄く不快な笑みだった

玩具を見つけた、みたいな

逃げ出したくて仕方ないのに体が動かない
蛇に睨まれたカエルみたいな?

「なあなにしとん?」

目をまた伏せて震えた
今から殺されるんだぐらいの勢いで恐かった

「大丈夫やって、なんも恐いことせんから」

悪役の台詞だと思った
けど今にして考えれば悪役じゃなくてもいいそうな台詞だ

とにかく当時の俺には恐怖に拍車がかかった

また震えた

ごめんなさい、と呟いた

「つまんね」

開放されると思った

「お金ある?」

すぐにこれがカツアゲだとわかった
産まれて初めての経験だ
恐い恐い恐いって

あの時の俺はとにかく臆病だった

財布には親から抜いた一万円(電車代でちょっと減ってる)と
自分のお小遣い数千円があった

けどこれを失くしたらもうどうしようもなくなる

金がなくても警察に行けば帰れるとか、当時の俺は思いつかなかった
だからそのままホームレスになって死ぬんだと思った

ないです、と答えた。。。

次のページに続く!!

「嘘はあかんて。な? 財布だせや」

駅前の広場は他にもたくさん人がいたけど
誰も助けてくれる人はいなかった

ドラマじゃよく聞く光景だ
誰も助けてくれない

でもそれは本当なんだな、と思った

「なあ?」

男が俺の頭を鷲掴みにする

言っておくがこの三人はただの不良だ
けどまあ、この三人のお陰で俺はお姉さんに拾ってもらえた

「なにしとん?」

それが初めて聞いたお姉さんの声だった
といっても

俺は向こうの仲間が増えたと思ってまたびくついた
けど三人の対応は違った

次のページに続く!!

「なんやねんお前」

「いやいや、自分らなにしとん? そんなガキ相手にして楽しいん?」

「黙っとれや。痛い目見たなかったらどっかいかんかい」

「流石にガキ相手に遊んどるのは見過ごせんわ。ださ」

「あ?」

まあ、会話はおおよそだから。
でもこんな感じだったと思う。

恐くてってどんだけ言うんだって話だけどやっぱり恐くて上が向けず
お姉さんがどんな人かもわからなかった

「調子のっとるな、しばいたろ」

三人組の女の声だ
他の二人も賛同したのか視線はそっちに向いた気がした
少なくとも俺の頭を掴んだ手ははなされた

次のページに続く!!

「ちょっとそこの裏路地こいや」

とか、そんな風なことを言おうとしてたんだと思う
けど、それは途中で終わった

「うそやん」

妙に驚いてた気がする
声色だけでそう思ったんだけど

「シャレにならんわ。ほな」

関西弁の人ってほんとにほなって言うんだ
とか調子の外れたことを思った

それから暫くして
俺の肩に手が置かれた

びくっと震える

たっぷりの沈黙の後

「なにしとん?」

さっきまでの三人組みたいな声じゃなくて
ちょっと優しい雰囲気があった
おそるおそる顔をあげると
綺麗なお姉さんがそこにいた

次のページに続く!!

髪は長くて
真っ赤だった

化粧もしてて
大人のお姉さんだと思ったけど
今にして考えてみればあれは多分、V系だったんだろう

なんにせよ綺麗だった

同級生の女子なんてちっさく見えるぐらい綺麗だった

「ありがとうございます」

と、つっかえながらもなんとか言えた

「んなもんええけど、自分アホやろ? ガキがこんな時間うろついとったらアホに絡まれんで」

家出したと言ったら怒られると思って下を向いた
お姉さんは大きな溜息を吐いた

「めんど、訳ありかいや」

やけに言葉が汚いお姉さんだと思った

次のページに続く!!

お姉さんスペック

身長170越(自称)
外だと厚底履いてるから175は越えてる

スレンダー
Dカップ
赤髪ロング
耳にピアスごじゃらら
関西人っぽい
年齢不明(見た目18~21)

綺麗だと思う

暫く沈黙が続いた

というかお姉さんタバコ吸ってるみたいだった
タバコの匂いがやたら甘かった

「ああ……腹減った」

お姉さんが言う
言われてみれば俺も腹が減っていた

次のページに続く!!

家出してかれこれ五時間
電車の中でポッキー食べたくらいだった

「ファミレス行こか」

「?」

「ファミレス。ほら、行くで」

近くのファミレスに行く
着いて適当に注文する

お姉さんは凄く目立つ
赤髪、ロング、黒服、ピアス

綺麗だし、目立つ

「自分なんも喋らんな。病気なん?」

「ちが、ちがいます」

「ああ、あれ? 恐い? そやな、よく言われるんよ、恐いって」

「い、いや」

なんて言おうとして否定したのかは知らんが、

まあだれでもそう反応するだろ?

次のページに続く!!

俺はハンバーグ
お姉さんは野菜盛り合わせ

「んで、なんで家出したん?」

驚きすぎてむせた
なんでわかるんだこの人は、超能力者か
とか考えたかは知らんが驚いた

でも今にして考えれば解ることかもしれん

夜の十時すぎに家に帰らない子供
思いつくのは塾帰りで家に帰りたくないか
夜遊びするガキか
家出か

なのにその時の俺は塾に行くような鞄持ってなかったし
遊んでそうなガキに見えなかったろうから家出

カマかけてきたんだろう

でも当時の俺はただただ
大人のお姉さんすげーって思うだけだった

次のページに続く!!

「家が……色々」

「ふうん、そっか」

「まあその歳やといろいろあるわな」

「で、どないするん? いつかえるん?」

「……帰りたくないです」

「そりゃ無理やろ。仕事もないし、ってか仕事できる歳なん?」

「15です」

「ギリやな。家もないし金もないやろ?」

「……」

それでも帰りたくなかった
俺にとってあの当時の家はかなり地獄だった
まあ、もっと酷い家庭はあると今ならわかるけど

次のページに続く!!

「一週間もしたら帰りや」

「……はい」

「ほんじゃ、飯食ったら行こか」

「?」

「うち、ヒト部屋空いとるから」

こんな経緯で俺はお姉さんに拾われた

お姉さんの家は都会の駅から四つ
閑散とした住宅街だった

見た目とは裏腹な場所に住んでるなと思ったけど
住んでるのは高層マンションの最上階だった

お金持ちなんだと思った

「片付けてないけどまあ歩けるから」

「おじゃまします」

次のページに続く!!

玄関入ると左手に一部屋
右手にトイレ、浴室
奥にリビング
リビングの隣に一部屋

「ここ、物置みたいなもんやから使って」

俺は玄関入って左手の部屋に案内された
ほんとに物置だった

「衝動買いしてまうんよね、はは」

お姉さんが照れくさそうに笑う
知れば知るほど見た目とのギャップに困惑した

でもそのギャップに惹かれた

「とりあえず風呂でも入ってきたら?」

「はい」

初めて女の人の部屋に泊まるわけだけど
だからどうだって緊張感はなかった
ガキだったから

次のページに続く!!

そりゃエロ本も読んだことあったけど
そんな展開になるわけないって思ってたし

シャワーを浴びて体を拭く

「洗濯機の上にパジャマと下着出しとるから」

見るとそれは両方とも男物だった
なんで男物があるんだろうと考える

以前同棲してたから?
ありうる
だから一部屋余ってるんだと思った

こんな綺麗なお姉さんだ、彼氏がいない方がおかしい

下着とパジャマを着てリビングに行く

「サイズちょうどええみたいやな、よかったよかった」

「やっぱうちとおんなじくらいやねんな」

「……?」

「それ両方うちのやねん。男もんの方が楽でな」

途端に俺は恥ずかしくなった
いつもお姉さんが着ているものを着てるのだ

次のページに続く!!

下着も

不覚にもおっきした
いや不覚も糞もないか
ガキだし

でもそれはバレないようになんとか頑張った
中腰で

「ん? んん? なーんや、お姉さんの色気にあてられてもたん?」

「ははっ、若いなあ」

速攻でバレた
恥ずかしさが一気にヒートする

「ええよ気にせんで、なんし男の子やねんから。ほら、そこ座り。コーヒー……は飲めんか」

「飲めます」

「おお、君飲む口か」

嘘だ、コーヒーなんて飲めない
苦い

でも子供扱いされたくなかった

次のページに続く!!

お姉さんに一番気になっていたことを聞く

「どうして、その、泊めてくれるんですか?」

「そりゃもちろん」

なんだそんなことかと言わんばかりに
お姉さんは興味がなさそうに携帯に視線を戻して

「暇潰し」

「暇潰し、ですか」

「うん」

「そうですか」

「なんやとおもったん?」

「……?」

「お姉さんが君に惚れたとでも思った?」

「いえ」

「そこは嘘でも頷いたらいいボケになんねんけど、ってあ、君こっちの子ちゃうんよな」

「はい」

次のページに続く!!

「ほんじゃせっかくやねんから関西のボケとツッコミを勉強して帰りや」

「はあ」

「そしたら家のことも大概どうでもよくなるわ」

それは嘘だと流石に思った

コーヒー
目の前にブラックな飲料が差し出される

「砂糖は?」

首を横に振った
湯気だつコップを持つ
覚悟を決めて口につける

うげえ

「はっはっは! 梅干食っとうみたいなっとうやん!」

お姉さん爆笑
俺は俯く

「無理せんでええて。ミルクと砂糖持って来たるから」

「うちも自分ぐらいん時コーヒーなんて飲めんかったし」

その言葉で救われた気がする

次のページに続く!!

お姉さんも子供の時があったんだな、

なんて当たり前なんだけど

「あの」

「ん?」

お姉さんは頬杖をついて携帯をいじっていた
話しかけると綺麗な目を俺に向ける

まっすぐに向ける
心が囚われる

「どないしたん?」

「あ、えと」

俺自身口下手な方だし
お姉さんは自分の世界作ってるような人だし
特に会話は続かなかった

お姉さんの部屋から流れる音楽
フィーリング音楽?
が心地よくて
時間が過ぎるのを苦もなく感じられた

次のページに続く!!

「そろそろ寝るわ」

「はい」

「明日はうち夜から仕事やから」

「はい」

「夜からの仕事、ついてこれるように調節してな」

「……はい?」

「やから仕事やって。自分、もしかしてタダで泊めてもらえるおもたん?」

「いや、そんなことは、ってかその僕、大丈夫なんですか?」

「平気平気。うちの店やから」

お姉さんは自分の店も持っていた
先に言っておくとそれはBARなわけだけど
やっぱりお姉さんかっけーってなった

まさかあんな格好させられるとは思わなかったけど

夜から仕事で起きるのが夕方だったから

次のページに続く!!

俺は結局朝まで起きてた
それ事態は物置にある本棚に並べられた本を読んでれば問題なかった

夕方に起きる
リビングに行くと机の上に弁当があった
メモで食べるようにと書かれている
そして五時に起こすようにと書かれている

お姉さんは寝ていた

まだ四時すぎだったので先に弁当を食べた
食べ終わってお姉さんの部屋の扉を開ける

やけにいい匂いがした
凄く緊張した

手に汗がにじむ

「おねーさーん」

扉から声をかけるもお姉さんは起きない
意を決して中に入る
ベッドの上ですやすやと寝息を立てるお姉さんがいた

次のページに続く!!

「お姉さん、おきてください」

お姉さんは起きない
薄暗い部屋で目を細めてお姉さんの寝顔を覗く

起きてる時に比べればブサイクだった
化粧をしてなくてブサイクとかじゃなくて
枕で顔が潰れててブサイクだった
でもどこか愛嬌があって

いうなればぶちゃいくだった

間近で見てると胸が高鳴った
今ならなにをしてもいいんじゃないか、なんて思い始める
そんなわけないのに

そんなわけがないのに手が伸びる

ゆっくり
静かに

鼓動がどんどん大きくなる
あわや心臓が口から飛び出しそうになる

次のページに続く!!

やめておけ、と誰かが言うが
やっちまえ、と誰かが言う

俺はお姉さんの頭に手を置いた

見た目より痛んでない髪に手を通す

撫でる

「ふにゅ」

それは形容しがたい寝声だった
ってか多分これは美化されててふにゅなんだろうけど
なんだろう

文字にできない可愛らしい言葉ってあるだろ?
お姉さんはそんな声を出した

優しく
愛でるように撫でた

お姉さん、可愛いな

とか思いながら撫でた

だから気づかなかった
お姉さん、もうとっくに起きていた

次のページに続く!!

「なにしてんの?」

怒っている風ではなく
優しい寝起きのぼやけた声色だった

「す、すみませんっ」

逃げ出そうとした

「ええよ」

「撫でててええよ。気持ちいいから」

了解を得たので再び座り込んでお姉さんの頭を撫でる

「うん、君撫でるの上手いな」

「今日はうちが寝る時撫でててもらおかな」

「はい」

十五分くらいか
お姉さんの頭を撫で続けた

お姉さんは心地よさそうにしていた
俺もなんだかとても心地よかった

「さて、支度しよか」

それの終わりがきたのはやっぱり少しだけ残念だった

次のページに続く!!

「……なにしてるんですか?」

「ちょ、動かんといて」

「いやほんと、なにしてるんですか?」

「やから動かんといて」

「……はい」

俺は化粧をされていた

「んー、まあこんなもんか」

「なんで化粧されたんでしょう」

「化粧するとな、年齢がわからんくなるんよ」

「ほら、それに君うっすい顔してるし。めっちゃ化粧映えするわー」

「はあ」

「んで、そやなーふふふーん」

「楽しそうですね」

「あんまないからなーこんな機会」

「あ、これでええな」

「……冗談ですよね」

「冗談なわけないやん。その顔で男もんの服着る気?」

「その顔ってか俺は男です」

「どこがあ。鏡みてみ?」

そこにはとても可愛らしい女の子がいました
なんて流石に言いすぎだが

確かに女の子がいた

次のページに続く!!

化粧こええ

「君若いし、女装すんなら今のうちやって」

「……」

俺はいろいろと諦めた

可愛らしい化粧をされて
可愛らしいスカートはかされて
可愛らしい服を着せられて
タイツもはかされて
俺なにやってんだろう

もちろんヅラも被されて

お姉さんの店はあの都会の駅だ
電車にも乗った

派手な二人組だった

「お姉さん、流石にこれは」

「喋らんかったらバレんから大丈夫やって」

俺は喋れなくなった

次のページに続く!!

BARにつく
普通のBARだった
普通の、といってもなにが普通かわからんが
イメージ通りのBARだった

要はちょっと暗くてお洒落

小さな店だった

カウンターが七席にテーブルが一席

「なにしたらいいですか?」

「とりあえずトイレ掃除から。あ、上着は脱いでな」

ってなわけで俺は店の掃除を始めた

トイレ掃除
床の掃き掃除
テーブル拭き掃除
グラス磨き

「お客さんが来たらこれ二つずつ乗っけて出すんよ」

とそれはチョコとかのお菓子

「あとはそやな。これが~」

冷蔵庫の中のメニューを三つ教えてもらう
(お皿に盛り付けて出すだけ)

次のページに続く!!

「んでお客さんが帰ったらグラス回収やらしてテーブル拭いてな」

「は、はい」

「今日はそんな客多くないから緊張せずに慌てずに、やで」

「頑張ります」

「まあ自分の一番の役目はそんなんとちゃうけど」

お姉さんが悪い笑みを浮かべた気がした
その意味は後に知ることとなる

開店から三十分、二人組の女性が来る

「おねーさんこんちゃーってなにこのこ! ちょーかわいいやん!」
「おねーさんどこで誘拐してきたん!?」

「誘拐なんかせんでもほいほいついてきまうんよね」

「あかんで、あのお姉さんについていったら食われてまうでー」

「いや、あの、そんな……これ、どうぞ」
言われてた通りお菓子を出す。
女性二人は目を丸くしていた

次のページに続く!!

「……男の子やん! うわあうわあうわあああああ!」

二人の女性のテンションが上がる。

その後は落ち着いた女性客とお姉さんやらが話して
その日は計七組のお客さんが来た

入れ替わりがあったから満員にはならなかったけど

「はい、お疲れ」

お姉さんがジュースを出してくれる
なんだかんだで疲れた
主に精神的に

「いやー大盛況やったね、君」

「……はあ」

俺はようするにマスコットキャラクター代わりだった。
来る客来る客珍しいものを見る風に
ってか本当に珍しいんだろうけど
わいのわいのと騒ぐ

次のページに続く!!

「あの」

「ん?」

「真っ青な髪の男性客の人、今度ホテル行こうとか言ってましたけど、冗談ですよね」

「ああ、あれな」

「ほんまにホテル付いてってくれたらラッキーってなぐらいちゃう?」

世間は広い
俺は色んな意味でそう思った

閉店作業をして家に帰る
もう朝だ

家に着くなりお姉さんはお風呂に直行した

「一緒に入るか?」

とか言われたけど盛大に断った
恥ずかしくて無理

お風呂から出てきたお姉さんは凄くラフだった

次のページに続く!!

どっからどう見てもノーブラで
薄いパジャマを着ていた
前のボタンを途中までしか締めてなくて
胸元が思いっきり露出している

「熱いわー」

思いっきり乳首がががががががが

目を逸した

「ああ、そや、化粧落としたるわなー」

この間、服もどうすればいいのかわからないので
俺はずっと女の子である

化粧を落とすためにお姉さんは凄く近くに寄ってきた
勘弁してください

「玉の肌が傷んでまうからなー」

優しく化粧を落とすお姉さん
乳首が見せそうで見えない角度

次のページに続く!!

胸の横っかわはずっと見えてて
俺はそれに釘付けだった

息子も釘付けだった

「よし、顔洗ってき。そのまま風呂入ってき」

「はい」

急いで俺は浴室に直行した
もう性欲が限界だ

やばい、本当にやばい

そりゃしたさ
うん、そりゃするさ
だってガキだもん 猿だもん

そんなわけですっきりした俺は風呂から出て
またお姉さん下着パジャマに身を包む

コンビニ弁当を食べて
またコーヒーを頼んだ

次のページに続く!!

「飲めんやろ?」

「飲めます」

「はいはい」

出されたコーヒーにやっぱり梅干の顔をした

「はははっ、懲りんなあ」

暫く時間が流れて

「はあ、そろそろ寝よか」

「おやすみなさい」

「なに言うとん。一緒に寝るんやろ?」

目が点になった

なにを言ってるんだろうと思った
そんな約束はしていない

「なに驚いとん。髪撫でてくれるって言うたやん」

あれってそういう意味だったのか

「丹精込めて撫でてやー」

丹精込めて撫でるってなんだろう

次のページに続く!!

「ほら、寝るで。明日も仕事やねんし」

小さく頷く

お姉さんの部屋に入る
あの落ち着くBGMが流れてた

「奥はうちやから」

「はあ」

ベッドに誘われて入り込む
お姉さんの匂いがした
もうそれだけで眠れそうだった

「はい」

「?」

「ぼうっとしとらんで、ほら」

「あ、はい」

お姉さんの髪を撫でる
俺よりもずっと身長の高いお姉さんの髪
綺麗な髪
赤い髪

撫でる度にいい匂いがする

次のページに続く!!

「なあ」

「はい」

「彼女おるん?」

「いや、いないです」

「の割に髪撫でるの上手いな」

「多分、犬飼ってたから」

「犬? 犬とおんなじか」

「すみません」

「それも悪くないかなあ」

「はあ」

「だって撫でてくれるんやろ?」

別にお姉さんだったら犬でも猫でもワニでも蛇でも撫でる

「なら犬も悪ないな」

「お姉さんは」

「ん?」

「お姉さんは、その、彼氏、とか」

次のページに続く!!

「おらんよ。おったら流石に連れ込まんわ」

「ですよね、はは」

嬉しかった

「でも、好きな人はおるかな」

言葉が詰まる
息が苦しくなった

そのお陰で

「そうですか」

と噛まずに言えた

なんでだろう
凄く夢見た光景なのに
男の夢って具合なのに

なぜだか辛かった
きっとお姉さんに好きな人がいると聞いたからだ

理由はわかってた

次のページに続く!!

胸は苦しい
なのに心地いい

お姉さんを独り占めしている気がした
お姉さんの好きな人にだってこんなことはできないだろうと思った

けど俺はお姉さんの好きな人には成り代われない

結局、お姉さんはその内に眠っていた

泣きそうだったけど
俺もなんとか眠ることができた

起きると横にお姉さんがいた
頭を撫でて、起きてくださいと言う

お姉さんは寝返りをうって抱きついてくる
心臓が一気に跳ね上がる

もうずっとそのままでいたい

でもお姉さんはその内に目を覚ました
抱きついていることに気づくと、より深く顔を埋めた

次のページに続く!!

「ごめんな、ありがとう」

お姉さんの言葉の意味がわからなかったけど
とりあえずお姉さんが喜んでくれるならと
俺はお姉さんの頭を撫でた

店について開店作業

とりたてて難しいことがあるわけじゃないので忘れてはいない

その日も疎らにお客さんが入っていた

何組目のお客だったか
中盤ぐらいでその人はきた

「よお」

やけにいかつい顔の人だった
ってかヤクザだと思った

「なんやねん」

少なくともお姉さんはその人を嫌っているようだった

次のページに続く!!

「この前の借り、返してもらいに来た」

「自分が勝手にやったんやろ」

「でも助かったろ?」

席に座ったのでいらっしゃいませと通しを出す

「おお、この前のガキンチョか? 随分変わったなあ」

「?」

「なんだ覚えてねえのか。助けてやったろ?」

なにを言ってるのかさっぱりわからなかったのでお姉さんを見やる。

「不良に絡まれとった時、こいつが追い払ってん」

なるほど、それであの三人は逃げたのか。
そりゃこんな顔に睨まれたら逃げたくもなる。

「ありがとうございました」

「気にすんな。お陰でこいつにいいことしてもらえるからな」

「誰がするか」

「本気だ」

次のページに続く!!

ガキでも解る三段論法

俺を助けるお姉さんを助ける強面

それをネタにお姉さんを脅迫

原因は俺

「あの」

「ん? どうした、坊主」

「……困ります」

「……あ?」

「そういうの、困ります」

「おいガキ」

強面が俺の胸ぐらを掴んで引っ張り上げる
なんでこんなこと言ってるんだろう俺はと後悔した

「おいオッサン、その手離さんとキレるで?」

お姉さんがドスの低い声で強面に言う
でもそれもこれも嫌だった

次のページに続く!!

俺が子供だからこうなったんだ

「あの」

強面がこっちを向く
それに合わせて思いっきり手をぶつけてやった

平手で

多分、グーで殴ることが恐かった
そういう経験がなかったから
だから平手で殴った

強面は鼻血を出した

「ガキ……調子に乗りすぎだなあ?」

強面の恫喝に身が震えた
殴るなんてことはついやってしまったことに近くて
それ以上のなにかなんて無理だった

次のページに続く!!

外に連れ出された俺は
五六発ぶん殴られた

こんな痛いことがあるんだと知った
もう人を殴るのはよそうとか考えてた

お姉さんが後ろから強面を止める
強面がお姉さんを振り払うと、壁にぶつかった

お姉さんが痛そうな声をだした

なにを考えたわけでもなく強面に突撃する
なにもできないけど許せなかった

振り払われて、また殴られて

「気分悪い、二度と来るか」

捨て台詞を吐いて、強面は帰った

お姉さんが中の客を帰して
意識の曖昧な俺を看病してくれた

どう看病してくれたかは覚えてないけど

お姉さんは泣いていたような気がする

次のページに続く!!

ごめんな、ありがとう

と言っていた気がする
でも、俺にはやっぱり意味がわからなかった

殴られたからか、わからなかった

お姉さんが泣いているのは見たくなかったから
泣かないで、と手を伸ばした

お姉さんの頭を優しく撫でた

気づくとお姉さんの部屋にいた
いつの間にか気を失った俺はお姉さんに運ばれたらしい

寝起きだからかぼうっとする
でもおでこがひんやりと気持ちいい

「おはよ」

お姉さんはベッドの横にある勉強机みたいなやつのイスに座ってた
パソコンを触ってたらしい

次のページに続く!!

「おはよ、ございます」

起き上がろうとしたけど体が痛くてうめき声が漏れる

「あかんて、今日はゆっくりしとき」

「でも、仕事」

「なに言うとん。そんな面じゃお客さんびびるし、あの鬱陶しい客が二度と来ん言うてんから、うちとしては充分や。ほんまにありがとう」

「君はうちの幸運やな」

「役に立てました?」

「充分やって。あの客な、前から鬱陶しかってん。ああやって誘ってきてて。でも多分、ほんまに二度とこんやろ。なんせ、十五歳の子供に鼻血出されてもうたからな。メンツが立たんで」

にやりとお姉さんは笑う。

「凄いな、自分。恐かったやろ、痛かったやろ」

強かったけど、痛かったけど
それどころじゃなかった
そんなことどうでもいいぐらいに怒っていた

次のページに続く!!

「別に」

「かっこつけんなや。でも君」

「かっこよかったよ」

嬉しいよりも照れくさい
俺は布団の中に顔を隠す

「なんか食べられそうなもん持ってくるわ。口ん中切れとるやろうけど、ゼリーなら食えるやろうから」

ゼリーは確かに食べられたけど
口の中は切れてて痛かった
でもまあ

「はい、あーん」

「自分で食べますよ」

「ええから」

「いや」

「はよ口開けろや」

「はい」

次のページに続く!!

お姉さんが食べさせてくれたからなんでも食べれた
お姉さんが食べさせてくれるなら納豆でも食べれそうだった
納豆嫌い

「なんか欲しいもんある?」

「欲しいもの?」

「漫画でも食べ物でも用意するから。高いもんは勘弁してほしいけどな」

「じゃあ」

俺はこの時も知らなかったけど
殴られすぎると熱がでるらしい
だから思考があやふやになって
突拍子もないことを言ってしまうようだった

「お姉さん」

言ってから後悔した
なんてことを言うんだ俺は、って

「な、なんでもないです」

「うちは奥やからな」

お姉さんがベッドに潜り込んでくる

次のページに続く!!

一緒に眠った経験もあるわけだけど
その時とは雰囲気が違って
俺は借りてこられた猫のように固まった

「こんな」

お姉さんの手が頭に触れる
いつも俺がそうするように
優しく髪を撫ではじめる

「こんなぼろぼろになってもうてな」

「ごめんな」

別にぼろぼろになるのもぼこぼこになるのも
お姉さんを守れたならそれでよかった

お姉さんが喜んでくれてるし
ちょっとでも役に立てたみたいだし

お姉さんが頭を撫でる
それはとても心地いい

次のページに続く!!

「ほんで」

「どないしてほしいん?」

それに答えられるわけもなく
恥ずかしくなって顔を反対側へ背けた

「なんてな、はは」

「それはちょっと卑怯やな」

お姉さんの手が首の下に移動する
それこそ犬猫のようにそっと撫でられて
くすぐったくて体が跳ねた

「こっち向いて」

耳元でそっと囁かれた甘い言葉に脳が痺れた

視界すらぼうっとしている中でお姉さんの方に振り向くと

唇が唇に触れる

ファーストキスだ

とか思う間もなく

次のページに続く!!

お姉さんの舌が口の中に入ってくる
生暖かい別の生き物が

滑りを立てて侵入する

動く度にそれは音を発して
俺とお姉さんがつながっていることを証明した

舌と舌が絡んで
お姉さんの舌が口の中の全てを這う

横も
舌の裏も
上も
歯も

口の切れた痛みも忘れて
ただ侵されることに集中した

これ以上ない幸福が詰まっているような気がした

次のページに続く!!

お姉さんの手が俺の右手に触れて
指先ですっとなぞる

それは手から全身に電流を流して
意識が更に拡散していく

手を握られる
俺も握り返す

お姉さんが手をどこかに連れていく

そこで離される

合図だと思ったから手を滑らせる

初めて触る、女性の胸

舌がすっと引いていって
お姉さんが視線を合わせる

「ええよ?」

小さな吐息に混ざった声で
俺の消し飛んでいたと思われる理性が外れた

次のページに続く!!

柔らかな、胸

手の平いっぱいに感触を確かめるため
ゆっくりと揉んだ

手の中心部分にお姉さんの突起があって
それは揉むとかイジるとかよりも
舐めたり吸ったりしたい気分が勝る

でも、揉む

だって揉むとお姉さんが

声を殺して息を吐く

「ん」

それを俺が見つめていると
恥ずかしそうに視線を逸した

「見んといてや、年下に感じさせられるんなんて恥ずいわ」

胸の内で想いが強まる
何度も何度も
お姉さん
って呟いた

次のページに続く!!

胸の内で
想いが深くなって

俺の方からお姉さんにキスをした

とても綺麗で
とてもかっこいいお姉さん

そのお姉さんが俺にキスをされて小さな声をあげる

とても愛らしくて
とても可愛いお姉さん

胸を弄られながらキスをされて
だんだんと体温が上がっている気がした

でも、どうしたらいいんだろう
俺はまだ経験がない

エロ本の知識しかない
それは基本的に間違っているとみんな言う
だから下手なことはできない

次のページに続く!!

突然だった
突然股間に衝撃が走った

お姉さんが握ってきたのだ
生で

「年下にやられっぱなしは性に合わんわ」

俺が覆いかぶさっていた体勢をぐるりと回して
お姉さんが俺を覆う

布団はずれてはだけたお姉さんの服
綺麗な胸があらわになっていた

「なあ、気持ちいい?」

お姉さんの細長い指が俺のを握って
微かに上下へと動き始めた

気持ちいいに決まってる
けど気持ちいいなんて言えるはずがない

次のページに続く!!

俺はどういう対応をしていたのだろう

気持ちいいけど恥ずかしくて
その顔を見られるのが嫌で背けてたのかもしれない

ちらりと横目でお姉さんを見ると
うっすらと笑みを浮かべて
楽しそうに俺を眺めていた

「なあ」

耳元で囁かれる声
俺はそれに弱いのか脳がくらくらと泳ぎだす

「気持ちいいやろ?」

問われて、答えられるはずがないのに
つい口を出てしまいそうになった

お姉さんは変わらず手を動かしていて
でもそこに痛みはなく
ただただ気持ちいい

次のページに続く!!

「言わんとやめるで?」

その言葉を聞いて凄く胸が苦しくなった
やめないでほしい
ずっと続けてほしいくらいだ

やめないでください

息も絶え絶えに発する

「なんかいった?」

お姉さんの手が止まる

「やめないで、ください!」

ええこやな、とお姉さんはつぶやいて。

俺の首筋をすっと舐める。

その右手はまた動き始めて
上下だけではなく
先端を凝らしてみたり
付け根を押してみたり
さっと指先でなぞってみたり

次のページに続く!!

性的な快楽以外のものを感じていたような気がした

「ぬるぬるしたのでとんで」

お姉さんの言葉に耳が犯されることは

「かわいいなあ、君は」

本来なら性行為の補助であるはずなのに

「ここ、こんなんにして、気持ちいいんやろ?」

それが快楽の全てである気がした

「気持ちいです」

「もっとしてほしい?」

「もっとしてほしいです」

「もっと気持ちよくなりたいん?」

「なりたいです」

「お願いは?」

「お願いします」

「足らんなあ」

「お願いします!」

次のページに続く!!

「どれをどないにしてほしいん?」

「僕のを、お姉さんの中に、お願いします」

「……なんかいうた?」

「僕のを! お姉さんの中に! お願いします!」

「ええこやな」

お姉さんの声が遠ざかっていく
どこに行ってしまうんだろうと不安になって目で追うと
お姉さんは

俺のそれを口の中に収める

じゅるり
と奇妙な音を立てながら
ぐじゅぐじゅ
といやらしい音を立てながら

「だ、だめ」

「ん? どないしたん?」

次のページに続く!!

「イキそう、です」

「ええよ」

俺が嫌だった
現時点で既に人生の幸運を全て使ってしまったような状況だけど
でも、一番の目的がまだだったから

「い、嫌だ」

「ほら、だしや」

お姉さんの涎に塗れたモノを手で上下に動かしつつ先を舌先で舐めながら
お姉さんは俺を嬉しそうに見詰めた

「嫌だ、でちゃい、ます」

言ってもお姉さんはやめてくれない。
嫌だと言いながらも俺は激しく抵抗しない、できない。

「お願い、お姉さん、やめて」

お姉さんはじいっと俺を眺める
俺をじいっと観察する

次のページに続く!!

声を殺して息が漏れた
下腹部に集まった大量の性欲が
意思と無関係に発射される

体の中心が割られたような衝撃だった
一人じゃ味わえない快感だった

お姉さんは俺の液体から顔を背けずにいた
快楽の余韻に浸りながらお姉さんを見ると俺の精液でどろどろになっていた

「いっぱいでたな」

言うと、お姉さんは再び性器に口をつけ
舐め取るように、吸い上げるように綺麗にしていった

それは気持ちよさよりもくすぐったさの方が上だったけど
なによりも心が満たされていった

「ほな、お風呂はいろか」

「先入っとって。すぐ入るから」

言われて、シャワーを浴びる。
湯船のお湯はまだ半分ぐらいしか溜まっていない。

次のページに続く!!

シャンプーで頭を洗っていると電気が消える。

「入るでー」

速攻で足を閉じてちむぽを隠した。

「さっきあんなんしたんに見られるの恥ずかしいん?」

けたけたと笑うお姉さん。

「髪洗ったるよ。手どかし」

言われるがままに手をどかし
お姉さんにシャンプーをお願いした。

内心未だにどきどきしっぱなしだったけど
それ以上に俺は後悔していた

だって、もうできるチャンスはないだろうから

お姉さんとできるチャンスを俺の逃したのだ

「流すでー」

人に頭を洗ってもらうのは気持ちいい
流されて、溜まった湯船に二人して使った

次のページに続く!!

「どやった?」

「なにがですか?」

「言わんでもわかるやろ」

「お姉さんってSですよね」

「君はMやろ?」

「みたいですね」

ごぼがぼごぼ
お湯に隠れたいけどそうもいかない

「一週間まであと四日やなあ」

「それは……」

それはお姉さんが決めたことじゃないですか、と繋げたかったけど
俺にそんなことを言う権利はなかった

なにせこのあともずっとここにいたら
それはとても嬉しいことだけど

俺は沢山のことでお姉さんに迷惑をかけるだろうから

「ま、また次があるやろ」

なんのことだろうと首を傾げる

次のページに続く!!

「ん? いや、したくないならええねんけど」

「え」

「うちは君みたいな可愛い子好きやからな、別にええよ、うん」

「は、はい」

男ってのは現金な奴だ
男、ってか
息子、ってか

次があると教えてもらってすぐにおっきくなりやがる

「ほんま、若いなあ」

にやにやとお姉さんが笑っている
恥ずかしくなって俯くけれど
それは同時に
嬉しくなって微笑んでしまったことを悟られたくなかったから

でも、お姉さんには好きな人がいる

風呂から出て、お姉さんの部屋へ

次のページに続く!!

俺は家にパソコンがなかったからお姉さんがパソコンで遊んでいるのに興味深々だった

「なに見てるんですか?」

「これ? 2ch言うてな」

因みに2chもお姉さんから知った

お姉さんと馬鹿なスレを覗いて笑っていた
お姉さんは話始めると話上手で
スレのネタに関連した話題をこっちに振ってくる

それに返すだけで話のやり取りが進む

そういうのはBARの店長だけあって上手だった

暫くして眠ることに
流石に翌日は仕事に行かなければならない

「僕も行きますよ」

「気持ちだけでええよ。辛いやろ?」

辛いとかそんなんじゃなくてお姉さんと一緒にいたいだけなのに

と思った

次のページに続く!!

「君はほんま可愛いなあ」

と思ったら口に出てた

「ええよ、やけど仕事はさせんで。それやと化粧できんし、まだ腫れとるからな」

二人で一つのベッドに寝転がる
このまま時が止まればいいのに

このまま日課にしてしまいたい行事
お姉さんの頭を優しく撫でて
お姉さんが眠るまで隣にいること

うとうとするお姉さんの横で
お姉さんが心地よさそうに震えるのを見てられること

「気持ちいいですか?」

「それさっきのお返し? 気持ちいいよ、もっとして」

撫でていると心が安らかになる
なんでか、お姉さんよりも優位に立った気がする

次のページに続く!!

「お姉さんも可愛いですよ」

「君に言われたないわ」

「ほんとに」

「はいはい……ありがと」

本当にたまらなく可愛いからいっそのこと撫で回して抱きしめ尽くしてむちゃくちゃにしたくなるけど
お姉さんはそのまま寝入っていくから

俺も暫くして眠った

店はその日繁盛していた
それもどうやら俺が原因らしい

「大丈夫やったん? なんか大変やったんやろ?」

そんな調子のお客様がたくさん来た
聞いてる限りだと
その時そこにいたお客様がmixiかなんかで呟いて
そっから馴染みの客が全員来たらしい

次のページに続く!!

だから満員で

「ほんまごめん、あとでお礼するから」

「いりませんよ、そんなの」

お姉さんは罰が悪そうにしてたけど
手が足りないっていうんで俺も手伝うことになった

俺の顔はまだ腫れてて
それを見ると女性客は慰めてくれて
男性客は褒めてくれた

「あいつも吹っ切れたみたいでよかったなあ」

気になる会話をしていたのはテーブル席の三人客だった

「吹っ切れた、ですか?」

お姉さんに渡されたカクテルを置く

「だって君を選んだんだろ? あいつ」

選んだ?

次のページに続く!!

「ん? 付き合っとんちゃん?」

お姉さんが俺と?

……男として見てくれてるかも怪しい。

「吹っ切れた、が気になるんですけど」

「ああ、それは……なんでもない」

お客様が視線を落としてはぐらかす。
肩を落として戻ろうとしたら、お姉さんが仁王立ちだった。

「余計なこといいなや」

とても怒っているようだった。
お姉さんは俺の頭にぽんと手を乗せて

「帰ったら話すわ」

と言ってくれた

そのあとも仕事は続いて
でもどことなく仕事に身が入らない
といっても、ミスをするような仕事内容でもないからいいけど

お客さんが話しかけてきてもぼうっと返事を忘れてしまうくらい

次のページに続く!!

家に帰るまで気が気じゃなかった
お姉さんの話っていうのは十中八九俺が知りたいことだろう

お姉さんが好きな人のことだろうから

家に帰って
お風呂にも入らずお姉さんは飲み物を用意する

もちろん俺はコーヒーを頼んだ

「飲めんくせに」

「飲めるようになります」

「ええやん、飲めんでも」

「嫌です」

「子供やなあ」

子供扱いされてついむくれてしまう

「はい、どうぞ」

差し出されたコーヒー

うげえ

「それで、話してくれるって言ってたことなんですけど」

「話逸したな」

ははっ、とお姉さんはいつものように快活に笑って
口を開く

次のページに続く!!

「好きな人おるって言うたやん? その人のことやねんけどな」

「手っ取り早く言うけど、もう死んどんねん、そいつ」

「なんつーか病んどったからなあ。死んでもた」

「ここで一緒に暮らしとった。BARはそいつと一緒に初めてんよ」

「親友やったし、同時に恋人やった」

「たったそんだけのありきたりな話や」

「なんで死んじゃったんですか?」

「さあな。遺言はあったけど、ほんまかどうかわからんし」

「まあ、そいつが言うには、恐かったんやて」

「うちを幸せにできる気がせんって」

「想像つくんかどうか知らんけど、うちもそいつもろくな家庭で育ってないねんよ」

「うちは親から虐待受け取ったし、そいつは親に捨てられてたし」

「十六ん時に会って、似たもの同士やからか気が合って」

「二人で金貯めて家借りて、店も出した」

「けっこう上手く行っとってん」

次のページに続く!!

「あいつはなにが恐かったんやろなあ……幸せにしてくれんでも、一緒におってくれるだけでよかったんに」

「あいつの保険金でこの家は買い取った。なんか、あいつが帰ってきたらって考えるとな」

「ありえへんのやけど」

「……まだ好きなんですか?」

「どやろな。うち残して勝手に死んだアホやから、まだ好きか言われたらそうでもないかもしれん」

「やけど忘れられへんねん。あいつのこと」

それは十五歳の俺には身に余る
とても重たい過去だった

「まあ、そういう話。たいしておもろないから話すのは好きちゃうんやけど」

「……君、うちのこと好いとるやろ?」

「あ……はい」

「やから、君には話とかななって」

「うちを狙ってもいいことないで、ってな」

「……関係ないですよ、そんなこと」

「俺はお姉さんのこと、好きですし」

次のページに続く!!

「お姉さんがこうしていてくれるなら、俺はそれだけで充分です」

「無理やん、それも」

「こうして大人になるとな、子供をそんな道に引っ張るんがアカン、ってことぐらい思うんよ」

「君にはどんなんか知らんけど家族がいるし、なにより未来があるからなあ」

「うちみたいな女にひっかかっとったらあかんねんって」

「引っ掛けたんうちやけどさ」

「お姉さんは俺のこと嫌いですか?」

「嫌いなわけないやん」

「じゃあ、いいじゃないですか」

「来年、というか暫くしたら高校生です。高校卒業したらこっちに来ます。それからじゃダメですか?」

「……」

お姉さんが口ごもる
なにを考えているんだろう
お姉さんが考えていることなんて一つもわからない

次のページに続く!!

俺が子供だったからなのか
お姉さんが特殊だったからなのか

お姉さんはたっぷりの間を置いて

ええよ、と答えた

けれどどうしてだろう、不安が拭えない
ええよ、と言ってくれるならどうしてお姉さんはそんなに

寂しそうだったんですか?

「今日が最期やな」

「最期じゃありません。暫くしたら会いに来ます」

「そやったな。ま、とにかく」

「今日は遊ぼか!」

「でもお店は?」

「自営業はな、融通聞くねん」

「どこに行きましょうね」

「映画なんてどない?」

「いいですね」

次のページに続く!!

「よし、じゃあ早速!」

「化粧はしませんよ」

「ええやん、あれ可愛いやん」

「俺は男ですから」

「今だけやで? 三年後はできんぐらい男らしゅーなっとるかもしれんで?」

「それでいいです」

「ったく、ケチやなあ」

なんとか化粧をされずに出かけることとなる
初めてのお姉さんとデート

映画を見て、ご飯を食べて、ゲームセンター行って
楽しくないわけがなかった

夜はお姉さんが料理を作ってくれることになり
帰りがけにスーパーで食材を買い込んだ

次のページに続く!!

「こう見えて料理には自信あんねん」

「楽しみにしてます」

「ほんまかいや。君どうも感情薄いからなあ。だいたい、いつまで敬語なん?」

「癖なんで」

「律儀な子がいたもんやわ」

慣れた手つきで食材を調理していく
野菜を切って、肉を切って
したごしらえして、炒めて

一時間ぐらいで料理が出された

「どないよ」

「おお……予想外」

「は? なんやて?」

「予想通りな出来栄え」

「それはそれでええ気分せんわー」

実際、料理は美味しかった
というか料理の美味さよりなによりも

次のページに続く!!

お姉さんのエプロン姿が一番刺激的でご飯どころじゃなかった

なんというか、お姉さんってほんと綺麗だなあ、と

「ごちそうさまでした」

「お粗末でしたー」

洗い物を手伝いながらふと思う
こんな風に生活できるのも、もう暫くはないんだと

三年
少なくとも三年は遠いところに居続けることになる

たまに会えてもそれだけだろう
なによりお姉さんは本当に俺を待っていてくれるんだろうか?

不安が顔に出ていたのか、お姉さんが後ろから乗っかかってきた

「な」

「はい」

「うち、好きな人できてん」

「はあ」

「気のない返事やな。告白されとんねんで?」

次のページに続く!!

「……嬉しいですよ」

「こっち向きや」

「はい」

触れるかどうかの小さなキス

「ほんまに、好きやで」

お姉さんと初めて会った頃のように
俺はまた動けなくなった

この人はどれだけ俺の知らないことを知っているんだろう

別々にお風呂に入ってゆったりとした時間を過ごす
何度でも挑戦するがやっぱりコーヒー

「さああ飲めるでしょうか!」

お姉さんはノリノリだ
因みにまだ飲めたことはない

ごくり、と喉を通す

あれ?

次のページに続く!!

「これ、飲めます」

「やったやん!」

「というかこれ、いつもと苦味が違います」

「うん、それについては謝らなかん」

「?」

「うちよう考えたら濃い目が好きでな。君が飲んどったんめっちゃ濃かってん。やから普通のお店レベルに薄めてみた」

「……はあ」

「ま、まあええやん、飲めたんやし。ほら、最初にきっついのん経験しとくとあとが楽やん? な? はは……怒った?」

「別に怒りませんよ。ちょっと、肩透かしな気分です」

「よかった」

時間は過ぎる
お姉さんといられる、短い夜

次のページに続く!!

「ほな」

寝よか

聞きたくない言葉は当たり前にやってきた

お姉さんは奥
俺は手前

七日間続いたお伽話も今日で終わる

明日、目が覚めたら
お姉さんが仕事に行くついでに俺は帰る

嫌だ
帰りたくない
ずっとここにいたい

そう考えても意味がない
言えない気持ち

言ってもお姉さんが困るだけだ

撫でる髪は今日も柔らかい
お姉さんの綺麗な髪は今日もいい匂いがする

次のページに続く!!

ずっと撫でていたい

ずっと傍にいたい

どうして俺は十五歳なんだろうなんて
どうしようもないことに苛立った

お姉さん、お姉さん

「なあ」

答えられなかった

今口にしたら、なにかを言葉にしたら

一緒に涙まで出てしまう

「この前の続き、しよか」

「目、つぶってや」

言われたままに目をつぶる

布団が浮いて、冷たい空気が入り込んできた

ぱさり、と

絹擦れの音が聞こえた

次のページに続く!!

「ええよ、開けて」

カーテンの隙間から通る傾いた月の光がお姉さんを照らしていた

それはとても幻想的で
物語の中だけでしか見られない存在に思えた

肌が白く輝いて
髪が淡く煌めいて

「綺麗です」

「ありがと」

「うちな、この前みたいなんも好きやけど、今日は普通にしたいかな」

「はい」

「やから、今日は君が頑張ってな」

「はい」

「ははっ」

「ええこやな」

キス

次のページに続く!!

お姉さんが上でこそあれ
重ねるだけの普通のキスをして

お姉さんは横になった

俺は興奮の中で混乱することなく
きっとそれはお姉さんのお陰なんだけど

自分からお姉さんにキスをする

感情をいっぱい込めてキスをする

好きという気持ちが伝わるように
伝えるようにキスをする

舌を入れて
お姉さんがしてくれたみたいに舐めあげていく

乱雑にすることなく
ゆっくりと
愛でるように

全ては愛でるために

次のページに続く!!

たまに、お姉さんが息を漏らす
たまに、お姉さんが体を震わす

舌と舌がもつれあい
唾液がお姉さんと行き交って
一つに溶けていく

「好きです」

離れて囁くと

意外にもお姉さんは呆気にとられて
恥ずかしそうに顔を背けた

「知っとるわ、アホ」

本当に、俺は心からお姉さんが好きだ

お姉さんの胸に手を伸ばす
触れるのは二度目
それでも喜びは尽きない

次のページに続く!!

男の喜びが詰まっているようだった
でもなによりも
お姉さんの胸だからこんなにも嬉しいんだろうと思った

触れると、それが丁度性感帯に当たったのか

「んっ」

お姉さんが喘ぐ

既に乳首は固くなっているように思えた
その判断がつかない辺り童貞だけど
そんな気のする固さだった

口を近づけていって、舌先で舐める

お姉さんがぴくりと跳ねた

嫌がられることがないと知って、気が軽くなる

突起を口に含んで小さく吸う

お姉さんの体が小さく喜ぶ

口の中で転がすように遊んだ
どうしてそうしたくなるのかわからなかったけど、すぐにわかった

次のページに続く!!

「んぅ」

お姉さんが喘ぐ
それはきっと感じてくれているからだ

俺はお姉さんが喜ぶことをしたい
もっと、お姉さんを感じさせたい

胸を触りながら、そこに意識する
全く未経験の、そこ

もっと下にある未知の領域

触っていいのだろうかと考えて、振り払う
ここまでしてくれていて、いけないはずがない

それをお姉さんに聞くのはきっといいことじゃない

右手をお姉さんの太ももにあてた
それだけで感じ取ってくれたのか、少しだけ

本当に少しだけど、お姉さんは足を開く

次のページに続く!!

緊張する
この上なく緊張する
色んな意味で爆発しそうだ

けれど理性で必死に抑えつけた
欲望のままに暴走したら、お姉さんを喜ばせられない気がした

けど、お姉さんはそんな俺はお見通しだと言うように

両手で俺の顔を引き寄せて、耳にキスをした後

「さわってええよ」

細く囁いた

いっそのこと一気に結合してしまいたくなったが
それを止めたのは理性というよりも

多分、愛情だった

太ももからなぞるように手を持っていき
そこに触れる

それだけでお姉さんが震えて

既に溢れた液に導かれるまま
俺はゆっくりと指を入れていく

次のページに続く!!

お姉さんの声が次第に膨らんでいく
声を殺すのも、億劫なほどに

指を埋めた肉厚のはずなのに
指に埋もれた肉厚と考えてしまうのは
それだけ女性器の中が神秘だからなのか

どこをどうすればお姉さんが感じてくれるのかわからず
ひとしきり指を動かしてみる

たまに、だけど

ちょうどいいところなのか
一際お姉さんが喜び震える場所があった

それを幾度も試して
どこなのか突き止めて
ようやく場所がわかって

次のページに続く!!

押し上げる

お姉さんの腰が浮く
明らかに違った声色が響く
気持ちよさのあまり綺麗から遠ざかった声を漏らす

だけど、俺にはやっぱり綺麗だった

とてもとても綺麗だった

綺麗という言葉しか思いつかないことが申し訳なるくらい

もう一本指を入れて
お姉さんが一番悦ぶところを押し上げる
救い上げるように
引っ張り出すように

「だ、めっ」

お姉さんが発した言葉は
あの日俺が発した意味と同じなのだと知って

次のページに続く!!

ああ、そうだね、お姉さんと俺は納得した

これはやめられない

あの時のお姉さんの気持ちがわかる
遅れて共感できたことが嬉しかった

お姉さんはこんな気持ちで俺を攻めていたのだろう
どこか嗜虐的な、歪んだ気持ちで

だけど
だけどきっと

今の俺と同じような気持ちだったと信じたい

もっと、もっと、喜んでほしいと願う心があったのだろうと

掻き回す指に連鎖してお姉さんが声を出す
偽りのない性的な声に興奮も高まっていく
気づけば汗でぐっしょりと湿っていた
指を動かす度に淫らな音が響き渡る

次のページに続く!!

自分の行いで快楽に身悶えるお姉さんが愛らしい
もっと、もっと愛でていたい
好きという気持ちに際限がないように
ずっとこのままでいたいと思う

強く、抱きしめて

「もうっ」

荒く、かき乱して

優しく、囁いて

「好きです」

「んんっ――」

糸切れた人形のようにお姉さんが固まる
腰を中に浮かせたまま、電気信号のように身体が跳ねた

くて、と横たわったお姉さんは顔を腕で隠して息を荒くしていた

「ははっ」

荒げた息の間でお姉さんは

「イカされてもたわ」

少女のように、照れていた

次のページに続く!!

「お姉さん」

「ん?」

「入れていいですか?」

「え、う、今? 今なあ……」

当時の俺にはお姉さんがなんで躊躇うのかわからなかった
それも、今、という限定で
今ならわかるけど

「よし、ええよ、入れて」

なにかしらの覚悟を決めたお姉さんに了承を得て
俺はパンツを下ろしてそれを出す

「ゴムだけはちゃんとしよな」

「もちろんです」

「つけれる?」

「授業で習いました」

冷静に答えてみるものの
渡されたゴムを上手くつけられない

次のページに続く!!

「ははっ、こういうとこはやっぱ初物やな」

「初物って」

「ええよ、つけたる」

「すみません」

膝立てをして性器を晒す
恥ずかしさが二乗して襲ってきた

お姉さんは俺からゴムを取ると

「これも男のこの夢やったっけ?」

と聞いてきた

なんのことだろうと思っていたら

お姉さんはゴムをはめるより前に俺の興奮したそれを口に含んだ

わざとだろうか
激しく音を立てて、寧ろそれが目的のように吸い尽くす
このまま続けられたまたイってしまう

次のページに続く!!

「お姉さん、やめ、て」

「わかっとるよ」

今回は素直に引いてくれたので安心する
お姉さんはゴムを取り出してなにかをしている

するとまた俺のを口に含んだ

気持ちよさに震えるがそれ以上に違和感があった

どうやっているのは不思議だけどお姉さんは器用に口でゴムをつけた

「ふう、上手くいった」

「どうやるんですか、それ」

「君は知る必要ないやろ、男やねんから」

「そりゃそうなんですが」

「まああれやな。男もアホなこと覚えとるように、女もアホなこと覚えんねん」

「そういうもんですか」

ちょっと雰囲気が外れてしまったかに思えるが
俺は童貞で、なんだかんだでしたくてたまらない猿だ

次のページに続く!!

お姉さんを押し倒す

「もう我慢できないです」

「そやな、ええよ」

自分のを持ってお姉さんの穴にあてがった
ここか?

「もうちょい下やな」

ずらすと確かにそれらしき窪みがある

「うん、そこ」

色んな感情が渦巻く中
俺はゆっくりと腰を落としていった

どんどんと沈み込んでいく中
入れる具合に反応してお姉さんの息が吐き出される

ゆっくり、ゆっくり
中はうねっていて奇妙だった
こんな快楽がこの世にあったんだと素直に感動した

次のページに続く!!

暖かくて心地よい神秘の世界
お姉さんの全てが詰まった、一つの秘境

さっと血の気が引いた
やばい

やばい

やばい

「うあっ」

冗談だったらやめてほしいけど
なによりも俺が一番冗談じゃないと知っている

きょとんとしたお姉さん
恥ずかしくて速攻目を逸した

お姉さんはそんな俺を見て笑うでもなく

「しゃーないしゃーない、初めてやねんから」

と言ってくれた

「したりんやろ? もっかいしよか」

その言葉だけで再び性欲の熱が沸点を目指す

次のページに続く!!

「あ……そのゴムラストや」

地獄に突き落とされる言葉ってこういう言葉かもしれない。

「ま、えっか。安全日やし。中に出したらあかんけど」

思考が固まった

「はい、抜いて」

言われるがままに抜くと、お姉さんが体を起こしてゴムを外す

「……生は恐い?」

「いや、あの、子供……」

「まあできんやろうけど、そやなあ。君って今なんのためにエッチしとるん?」

「それは」

単純に気持ちいいから
だけど多分、それ以上に
お姉さんとなにかを残したいから

次のページに続く!!

「子作りのためちゃうやろ? やから、子供は気にせんでええよ」

「それに、まあ、できんやろうし」

お姉さんはそれをとても悲しそうに呟いた
ガキとはいえ、なぜそんなに悲しそうなのかと聞く気にはなれなかった

嫌な想像しか浮かばないけど

「うちは君と、ちゃんと繋がりたい。やから、しよ?」

「はい」

お姉さんは再び横になって

二度目ということもあり、スムーズにその場所へと持っていき

先ほどとは打って変わって

一気に突いた

根元まで挿入されると様々な感情が浮かび上がる
喜び、悦び、期待

そして、不安

最期の感情を振り払うように
一心不乱で腰を動かした

次のページに続く!!

突くたびにお姉さんは喘ぐ
見られまいと顔を背けて

かなぐり捨てて動き続ける
お姉さんに全てを受け取って欲しくて

好きだから、ずっと一緒にいたい
けれど、お姉さんとずっと一緒にいられない

お姉さんはいつかまたと言ってくれたけど
お姉さんは本当にそう思ってくれたのだろうか

だとしても、お姉さんは綺麗だから
かっこいい男が現れたりするだろう

そんなの嫌だ
俺はお姉さんとこうしていたい

仕事して、遊んで、髪を撫でて

突く力が強まるのは、不安を吹き飛ばそうとする度合いだ
突くだけでなく、沢山キスをした

次のページに続く!!

これが夢じゃないかと疑いたくない
これは本当のことだったと、なによりも自分に覚えててほしい

なんの壁もなく一つになっている

お姉さんと一つになっている

なっていたい

お姉さん

性器に溜まる欲望が急速に炙る
限界が近い

「イキ、そうです」

「うん、イキな」

「お姉さん」

「ん?」

「好きです」

お姉さんは突かれながらも

「うちもやで」

と微笑んだ

次のページに続く!!

どくどくと溢れる熱量が
お姉さんのお腹にぶちまけられて冷えていく

疲れ果てた俺は倒れこむように横になった

「気持ちよかった?」

「はい……お姉さんは?」

「気持ちよかったにきまっとるやんか」

「よかった」

安心する
俺のしたことは喜んでもらえた

お姉さんに頼まれたのでティッシュを取る
ああ、そうか、こういうとこにも気を付けないと

お姉さんがティッシュで俺の精液を拭き取った

「こうせんと布団が汚れてまうからな」

「もう今日はこのまんま寝よ」

お姉さんが裸のまま抱きしめてきて
足も絡めてくる

次のページに続く!!

それはつまりお姉さんの胸があたり
太ももにお姉さんの性器があたり
俺の性器も擦れるということで

「おお、もう復活したん」

「いえ、大丈夫です」

「……ええよ、いっぱいしよか」

結局、寝るまでに後三回した

合計すると五回も数時間で出したってことになるわけだから
若いって凄いな、と思う

翌日

昼過ぎに起きた俺はお姉さんに黙って部屋の掃除を始めた
トイレ、お風呂、玄関、物置、キッチン、リビング

最期にお姉さんの部屋

次のページに続く!!

「……なにしとん?」

「掃除。お世話になったので」

「生真面目やな、ほんま。こっちおいで」

「はい」

寝転がっているお姉さんの横に行くと、頭を撫でられた

ええこやな、といつも口調で

嬉しかったからお姉さんの頭を撫で返す

ええこやな、とお姉さんを真似て

「……関西弁へったくそやな」

「そうですか?」

「なんかイントネーションがちゃうわ」

「難しいですね」

「今のまんまでええよ」

「君は君のまんまでええよ」

「はい」

お姉さんが仕事の支度を始めたら帰るのはもうすぐだ

家に帰ったら両親は怒るのだろうけど、どうでもいい

次のページに続く!!

それだけ価値のある人に出会えた

「行こか」

それには答えられずただ
引かれた手に連れられて外に出る

家を出て近くの駅へ
そこから都会の駅まで僅か十分

お姉さんはずっと手を繋いでてくれた
お姉さんの手はとても暖かった

白状するけど俺は既に泣いていた

声を殺して
俯いて
泣いていることを悟られずに泣いていた

きっとお姉さんはお見通しだったろうけど

都会の駅に着く

俺の家はここから本当に遠い

次のページに続く!!

「暫くのお別れやな」

「ありがとうございました」

「今度はいつ来る?」

「夏にでも来ます。速攻バイトして、お金貯めて」

「そっか。ほんじゃ、待っとくわ」

「あの、これ」

「ん?」

「携帯番号です。電話、くださいね」

「うん、電話するわ」

嫌な予感しかしなかった
今ここでお姉さんの手を離したら
二度と会えなくなるような気がした

「お姉さん」

「ん?」

「ごめんなさい」

「なに謝っと……」

俺よりも身長の高いお姉さんの
肩を掴んで引き下げて
無理矢理キスをした

次のページに続く!!

そこはまだ駅のホームで人目がつく

長い時間のように思えて
それは一瞬のことだった

「強引やな」

「ごめんなさい」

「嫌いちゃうけど」

「すみません」

「お返しっ」

今度はお姉さんの方からキスをしてきた
その時間は本当に長かった

二分、三分?

お姉さんは白昼堂々と舌を入れてきて
人目も気にせずに没頭した

俺もなんだかだんだんどうでもよくなってきて
人目よりもなによりも
お姉さんの気持ちに応えたくて

次のページに続く!!

だってお姉さんは俺よりもずっと大人で
お姉さんはとても綺麗な人で
BARの店長とか格好良い職業で

モテないわけがない

こんな一瞬、奇跡に違いない
夢でないことがいい証拠だ

だからきっとお姉さんは俺を忘れる

俺はいつまでもお姉さんを忘れられないだろうけど

「大好きです」

「うちもやで」

「また来ますから」

「うん」

「絶対に来ますから」

涙が止まらない

この約束が嘘になると思ってしまって
ずっと涙が止まらない

次のページに続く!!

電車が来る

お姉さんが微笑む
俺の頭を撫でる

俺は泣きじゃくったただのガキで
駄々をこねるただのガキだ

電車が扉を開ける

中に入る

泣くなや、男の子やろ?

扉を締める合図が響く

お姉さんが僕を抱きしめる

ほんまに

ぎゅうっと強く、抱きしめる

ほんまに

車掌の警告が響く

大好きやで

けたたましいサイレンが鳴る

次のページに続く!!

ありがとう

お姉さんが離れる

ドアが締まりかけた頃合で

お姉さんは快活に微笑んだ

目尻に込めた涙を無視して

「バイバイ」

別れの言葉を口にした

家に帰ると鬼の形相をした両親に迎えられた
がーがー怒っていたけど、なぜだろう
俺はそれがとても嫌だったのに、ふと思った

二人も子供なんだろうな、って

お姉さんがお姉さんだったように
お姉さんだけどお姉さんじゃなかったように

大人だって子供なんだな、って

「俺さ、二人が喧嘩するのが嫌で家出したんだよ」

そういうと二人は黙ってしまった

次のページに続く!!

喧嘩の原因ってなんだろう
考えてみれもどうでもいい

頭の中でお姉さんが離れない
お姉さんがいつまでもそこにいる

お姉さんは、そこにいるけど

俺の携帯はいつまでも鳴らなかった

高校に無事入学して、夏

バイトをしてお金を貯めて、お姉さんに会いに行く夏

だけど、相変わらずお姉さんから着信は来なかった

学校の友達もできた
好きな人はできなかったけど

というか
お姉さんを知って他に好きになれるとか、無理だろう

結局、俺はお姉さんに会いに行かなかった

臆病だったから?
不安だったから?

答えはまあ、三年後

次のページに続く!!

三年後

高校を卒業してそのまま働くと伝えたら両親は落胆していた
因みに俺の家出が切欠か、あれ以来二人は不仲が解消したようだ
少なくとも家で喧嘩はしていない

しかも勤め先を遠くに選んだから余計だ
理由を問われたけどその街が好きだからとしか言えなかった

就職はまあ、なんとかなった
高卒なためいいところとは言えんが選ばなけりゃなんとでもなる

家も決めて、一人暮らしの段取りをしつつ

三月に入って俺は学校に行くのをやめた
あとは卒業式以外どうでもいいわけだし

それよりもなによりも俺にはやることがある

家を探す時や就活の時に訪れているわけだが
改めて来てみると不思議な感覚に襲われた

次のページに続く!!

あの都会の駅の前にある広場はどうにも健在らしい

そこのベンチでぼうっと座っていると、お姉さんが

なんてことは流石にない

暫く佇んで、お姉さんを探すべく歩き出す

といっても行く先なんて決まっている
あのBARとマンションしか知らないんだから

夜の八時過ぎ
あのBARが開いている時間帯だ

こうして見ると怪しい雰囲気だな、と思った

お姉さんに連れられた三年前は気づかなかったが、これは一人で入れんと思った

ドアを開けるとベルが鳴る

店の看板とかなにもないから不安だったけど、BARはまだやっているらしい

中に入るとお客さんは一人もいなかった

でも、一人だけ、その人はいた

赤く長い髪の
綺麗なお姉さん

次のページに続く!!

「こんにちわ」

「らっしゃーい」

どうやらお姉さんは俺の存在に気がついていないようで
これはこれで面白いと俺は自分を明かさなかった

まあ、なんだかんだで
今ではお姉さんより身長も高いしなあ

三年経ってもお姉さんはお姉さんだった
綺麗ですっとしていてモデルみたいで

大人の色気が増したと言えばいいのか
しかし十八の俺に大人の色気はよくわからん

「お客さん、初めてだよね?」

「ですね」

「なんでこんな見つけづらいとこに」

「友達に聞いたんですよ。真っ赤な髪のマスターがいるBARがあるって」

「ああ、これ。ははっ、もういい年なんやけどねー」

次のページに続く!!

「でもとってもお似合いですよ」

「あざーす。いや、なんか照れるわー」

「どうして赤髪なんですか?」

「これ? これな、むっかあああああしの知り合いに褒められてなー」

死んでしまった人のことだろうか

「大切な想い出なんですね」

「いやそんなんどうでもええねんけどな、今となっては」

「?」

「ぷっ」

「どうしました?」

「いや、そんでなー」

「この赤い髪を綺麗ですね、って褒めてくれたガキンチョがおんねん」

「ガキンチョ」

次のページに続く!!

「そうそう。そいつな、うちに惚れとるとかいいよったくせにな、くせにやで? 携帯番号ちゃうの教えて帰ってん」

……うそん

「連絡ください言うた割に連絡通じへんやん? どないせーってのな」

「そ、それはそれは」

冷や汗が沸き立つ
まじで? それで連絡こなかったの?

「会ったらほんまどつきまわしたらなあかんなあ」

迂闊に名乗れなくなった

「そ、それと赤髪がどういう?」

「ん? やからさ、あのアホンダラが戻ってきた時、うちのトレードマークがなかったら気づかんかもしれんやん?」

「そんなこと……」

ありえて嫌だ
お姉さんの赤髪とピアスは凄い印象強いから

次のページに続く!!

「ところでお客さん、なに飲む?」

「おすすめのカクテルを」

「いや無理やわー」

とお姉さんはドン、っと机が揺れるぐらいの勢いでコップを置いた

「自分みたいなガキンチョにはこれで充分やろ?」

それはいつか出されたジュースだった

「……はは」

「ははっとちゃうわドアホ! いつまで待たせんねんおばはんにする気かおどれぁ!」

「あ……バレてました?」

「バレバレや言うねん! 君身長高くなっただけで顔つきほとんど変わってないやんけ可愛いわボケぇ!」

「可愛いなんて、もうそんな年じゃないですよ」

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「そこだけに反応すんなアホ! 首傾げる仕草もなんも変わってないいうねん……」

唐突にお姉さんは体を背けて顔を隠す
ああ、お姉さんも変わってないな

「どんだけうちが待っとったおもてんねん……」

ふるふると震える肩
いつもそうだった
お姉さんは弱味を俺に見せたがらない

恥ずかしい時も
哀しい時も
苦しい時も

顔を背けてそれを隠す

椅子を降りてカウンターの中に入っていく
土台が同じ高さになったため、俺はお姉さんよりも大きくなった

次のページに続く!!

「ほんま、背高くなったなあ」

「牛乳飲んでますから」

「……君ええボケ言うようになったやん」

「そりゃお姉さんと一緒になるの、夢見てたんで」

「タバコは?」

「身長伸びませんから」

「迷信やろ」

「プライバシー効果ですよ」

「プラシーボ効果やろ」

自分より小さくなったお姉さんをそっと抱きしめる
自分の腕の中に収まるお姉さんは、とても可愛らしくて愛くるしい人だった

「大好きですよ」

「あっそ」

「つれないですね」

「知るか、三年もほっとったアホ」

「どうしたら許してくれます?」

「そやな」

次のページに続く!!

「とりあえず、うちより身長低くなりや」

「はい」

「うん、ええ位置やな」

引き寄せて、お姉さんはキスをする
三年ぶりのキスは相も変わらず、優しくて、この上ない喜びが詰まっていた

「なあ」

「はい?」

「うち、ええ歳やねんけど」

「結婚とか興味あるんですか?」

「君とする結婚だけ興味あるな」

「そうですか。じゃあ、暫くしたらしますか」

「なんでしばらくやねん」

「まだ新入社員ですよ、俺。いやまだなってもないのか」

「就職したん? ここがあんのに」

「それも悪くないんですけど、やりたいこともありまして」

「へえ、なんなん?」

「秘密です」

次のページに続く!!

改めて席についてジュースを飲んだ

「一つ気になってたんやけど」

「はい」

「なんで夏にこんかったん?」

「……そうですね」

「連絡が来なくてムカついてたんで」

「君のせいやろそれは!」

「ですね。でもあの時の俺は本当にそうだったんですよ。恋人ができたのかな、って。だから三年溜めて、まずは社会人になって、もしダメだったら」

「ダメだったら?」

「ストーカーにでもなろうと思ってましたよ」

「どこまで本気やねん」

「半分。ストーカーは冗談ですけど、仮に彼氏さんがいるなら奪おうとは思ってましたよ」

「本気やな」

「そりゃまあ、お姉さんは僕の人生を変えた人ですから」

次のページに続く!!

「言いすぎ……でもないんかな」

「うちの人生を変えたんは、君やしな」

「それは意外ですね」

「君はあの一週間をどう覚えとる?」

「妄想のような一週間ですかね」

「妄想て。雰囲気でんわ。でもうちにしたって、ありえん一週間やった。だってそやろ、家出少年かくまって、いろいろあって、恋して」

「でもそういうの慣れてると思ってました」

「よく言われるけどなあ、そういうの。うちかてただの女やしな」

「……そうですね」

「そこは同意なんやな」

「もう十八ですからね。お姉さんが普通にお姉さんに見えますよ」

「なんやそれ。ってか君、いつまでお姉さん呼ぶん?」

「お姉さんって呼ばれるの、好きなんだと思ってましたよ」

次のページに続く!!

「嫌いちゃうけど、今の君に呼ばれるんは違和感しかないわ」

「でも」

「なんやねん」

「名前で呼ぼうにも名前知りませんし」

「……ほんまやな、うちも君の名前知らんわ」

「名前も知らない人を泊めてたんですか、いけませんよ」

「名前も知らんお姉さんに付いてったらあかんやろ、殺されんで」

「ほな」

「はい」

「○○ ○○です、よろしゅー」

「○○ ○○○です、よろしくお願いします」

「ははっ、なんやねんこの茶番」

「っていうかお姉さん、意外に普通の名前なんですね」

「君は古風な名前やな。しっくりくるわ」

そのあともお姉さん、基、○○との会話は続いた
お客さんが何組か来て、ついいらっしゃいませと言ってしまったりもしたけど

次のページに続く!!

俺はお姉さんの家に泊まることになった

「コーヒーお願いします」

「飲めるん? ってそや、薄くせなな」

「そのままでいいですよ。あれ以来濃い目のしか飲んでませんし」

「なんで修行しとんねん」

「○○と同じ味を覚えたかったから」

「……君、照れずにようそんなこと言えるな」

「鍛えましたから」

「それ絶対間違っとるわ」

差し出されたコーヒーに口をつける
強めの苦味が口の中でふんわりと滲んで、これはこれで嫌いじゃない

「ほんまや、飲めとる」

「三年も経てば飲めますよ」

「敬語はいつやめるん?」

「唐突ですね。やめませんよ」

「変な感じやな」

次のページに続く!!

「そうですか? これで慣れてしまってて」

「だってもううちら恋人やろ?」

「ああ、はあ、そう、ですね」

「なに照れとんねん、やっぱ子供やなあ」

「いやあの、今のは突然だったので」

三年前と違って会話はすらすらとできた
三年も会っていなかったからか、話したいことが山のようにあった

暫くして、変わらないあの言葉

ほな、寝よか

俺の腕に小さな頭を乗せて
縮こまるお姉さんは可愛らしい

優しく撫でると香るあの匂いに
急速に三年前を思い出す

「ずっと会いたかってんで」

「ごめんなさい」

「もうどこにもいかんよな?」

次のページに続く!!

「卒業式には帰らなくちゃならないのと、家を借りてるのでそれを解約するのとありますね」

「うん、ここにいたらええよ」

「家賃は払いますから」

「いらんよ、借家ちゃうし」

「結婚資金にでもしておいてください」

「お、おう」

こうして思えばお姉さんは照れ屋だったのだろう
三年前の俺はそんなこと全くわからなかったけど

その内にお姉さんはすやすやと寝息を立て始める
俺の腕の中で安らかに眠る

こんな日々がこれから一生続くのだろうと考えたら
俺はなんとも言えない喜びに包まれて

幸福の中で眠りについた

次のページに続く!!

それは春が訪れる
桜が咲く前のこと

ってなわけで悪いがエロなしで終わり

俺九時間も書いてたのか
そりゃどうりで頭が痛いわけだ

読んでくれてありがとう、お前らお疲れな

ここから質疑応答・・・

Q:この春から一緒に暮らすの?

A:ん、春からってから正確には再来月ぐらいになりそうかな

就職したばっかでばたばたするし、家の解約とかやることけっこうあるし
住民票とか、親の説得とかな

次のページに続く!!

Q:そいやまだ過去の男と子供の伏線が回収されてないからその話もあるわけか?

A:過去の男? それは寧ろ片付いたと俺が思いたいぞwww
子供のあれはな  まだ聞いてない
でも聞きたくもないし聞けない
聞くのはデリカシーがなさすぎ 今後聞く必要はあるだろうけど

Q:今どこにいるの?

A:いえないってwww
設定にフェイクは入れてるからなwww

Q:これで現在まで追いついたかんじ?

A:そやね。追いついた感じ

次のページに続く!!

Q:上手く言えないが、その後は幸せなのか?

A:もちろん!
こんないいお姉さん捕まえて幸せじゃないなんて奴、いないだろ?
もうお姉さんと再開できた時点で畳む話で
そっから先は蛇足だからな

悪いが終わりだ

Q:お姉さんに秘密でやりたいことってなに??

A:俺は物書きになりたいんよね
まあ、まだまだだけどさ
ほら、お姉さん自営業だし夜だし
物書きだったらそれなりに時間合わせられるし場所選ばないし

次のページに続く!!

改めてありがと
こんなスレ伸びるとは思わんかったけどさ

あ、最期にみんなに伝えておくことがあるんだわ

釣られたみなさま、本当にお疲れ様でした

と書こうと思ったけどやめた
まあいっか、お前らいいやつだし

んじゃ、おやすみ