ノーベル経済学者が認めた「やっぱり人生は実家の収入で決まる」ノーベル経済学賞を受賞した米国のヘックマン教授が、40年以上にわたる追跡調査によって、就学前の幼児に対する教育が経済的に大きな効果をもたらすことを証明した。
格差は生まれた瞬間からはじまる
ノーベル経済学賞を受賞した米国のヘックマン教授が、40年以上にわたる追跡調査によって、就学前の幼児に対する教育が経済的に大きな効果をもたらすことを証明した名著だ。
最近、日本でも「就学前教育によって子どもが将来、富裕層になる可能性が高まる」との議論をする人が増えてきたが、その種本になっているのが『幼児教育の経済学』だ。
もっともヘックマンは、就学前教育によって富裕層予備軍を育成せよと主張しているのではなく、貧困問題の解決策として幼児期の子どもの環境に注意を向け、以下の警鐘を鳴らしている。
〈今日のアメリカでは、どんな環境に生まれあわせるかが不平等の主要な原因の一つになっている。アメリカ社会は専門的な技術を持つ人と持たない人とに両極化されており、両者の相違は乳幼児期の体験に根差している。
恵まれない環境に生まれた子供は、技術を持たない人間に成長して、生涯賃金が低く、病気や十代の妊娠や犯罪など個人的・社会的なさまざまな問題に直面するリスクが非常に高い。機会均等を声高に訴えながら、私たちは生まれが運命を決める社会に生きているのだ。(中略)
生まれあわせた環境が人生にもたらす強力な影響は、恵まれない家庭に生まれた者にとって悪である。そして、アメリカ社会全体にとっても悪である。数多くの市民が社会に貢献する可能性を失わせているのだ〉
そして、適切な社会政策を実施することによって、状況の抜本的な解決が可能であるとヘックマンは考える。
米国において、特に深刻な状態に置かれているのがひとり親家庭の子どもだ。
〈ひとり親家庭で育つ子供の割合は劇的に増加しており、その主要な原因は未婚のまま子供を持つ母親が著しく増えていることにある。未婚の母親を持つ五歳以下のすべての子供の割合は、学校教育から脱落した女性を母親として生まれた子供の三五パーセント以上にのぼっている。この傾向はとくにアフリカ系アメリカ人で顕著である。高学歴女性を母親に持つ子供と低学歴女性を母親に持つ子供との環境格差が生まれている。(中略)
高学歴な女性の就労率は、低学歴な女性の場合よりもはるかに高い。同時に、広範囲な調査研究によれば、大卒の母親は低学歴な母親よりも育児に多くの時間を割き、とくに情操教育に熱心だ。彼女たちはわが子への読み聞かせにより多くの時間をかけ、一緒にテレビを観る時間はより少ない。
教育程度の高い女性が未婚で子供を産む率は一〇パーセント未満だ。彼女たちは結婚も出産も比較的遅く、教育を修了することを優先する傾向が強い。自分自身の収入も配偶者の収入も安定している。子供の数が少ない。こういった要素がはるかにゆたかな子育て環境をもたらし、それが子供の語彙や知的能力に劇的な違いをもたらす。
両親が安定した結婚生活を営んでいる子供には恩恵がとくに明白で、子育ての質においての、持つ者と持たざる者との格差は、過去三〇年間に拡大した。高学歴の女性を母親として、安定した結婚生活を営む家庭に生まれ育つ子供は、そうでない子供よりも著しく有利だ。要するに、高学歴な母親ほど仕事を持ち、安定した結婚生活を営み、わが子の教育に熱心だということだ〉
給付金では何も解決されない…?↓
事前分配のメリット
このような状況だと、両親が高学歴で安定した結婚生活を営んでいる家庭の子どもは、知識と情操の両面で良好な教育が受けられるので、小学校に入ってからも学業も体育も素行も優秀で、高等教育機関に進む可能性が大きく開かれる。そして学校を終えた後も比較的高収入の職に就き、同じ階層から配偶者を見つけ、自分が受けたのと同じような良好な教育環境を子どもに保証する。
低学歴のひとり親のもとで育てられた子どもは、人生のスタート時点での遅れを一生取り戻すことができない。それだから、政府が適切な関与を就学前児童に対して行う必要がある。その場合、給付金政策はほとんど意味を持たないとヘックマンは考える。
〈貧困に対処し社会的流動性を促進するために、所得の再分配を求める声は多い。だが、最新の研究は、再分配はある時点では確実に社会の不公平を減じるものの、それ自体が長期的な社会的流動性や社会的包容力[訳注‥社会的に弱い立場にある人々を排除・孤立させるのではなく、共に支え合って生活していこうという考え方]を向上させはしないと主張している。
事前分配―恵まれない子供の幼少期の生活を改善すること―は社会的包容力を育成すると同時に、経済効率や労働力の生産性を高めるうえで、単純な再配分よりもはるかに効果的である。事前分配政策は公平であり、経済的に効率がいい〉
貧困層に属する人々は、生活習慣においても「弱い」人が多い。就学前の子どものために政府が補助金を支給しても、親がその金で酒を飲んだり、ギャンブルに使ってしまったりする可能性は排除されない。
このような給付金よりも、就学前教育を義務化するとともに、教材費、給食費を含め、一切、無償化することの方がずっと効果が期待できる。
日本においても子どもの貧困が深刻な問題になっている。現在も行政や民間のボランティア団体が、貧困層の子どものためにさまざまな活動を展開しているが、事態の悪化を食い止めることができていない。
保育園・幼稚園を義務教育化し、親の経済力に関係なく、子どもにはできるだけ平等に知育、徳育、体育のバランスが取れた教育を無償で受けさせられるような制度設計が必要だ。
それにかかる2兆円程度の経費は、消費税を1%上げれば確保できる。その結果、将来、生活保護に頼る人が減り、納税者が増えるわけだから、経済合理性もある。
引用元:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50755
引用元:http://www.akb48matomemory.com/archives/1078162596.html