2013年1月、中国では鶏肉の安全を揺るがす事件が相次いで発覚した。抗生物質や成長ホルモン剤を過剰に投与した鶏肉が、上海にあるケンタッキーフライドチキン(KFC)店舗で使用されていたことが分かり、大騒ぎになった。
さらには、河南大用グループという、家禽の飼育から販売まで行っている中国の大企業が、病死した鶏肉を中国国内のマクドナルドやKFCなどに卸していたのだ。日本マクドナルドも、製品の一部に河南大用の鶏肉を使っていたことを認めた。
日本にも数多くの農産物が入ってきている
中国の養鶏産業の実態はどうなっているのか。成長ホルモン剤は現場でどのように使用されているのだろうか。
北京から約1時間のフライトで、飛行機は山東省の省都・済南市の空港に降り立った。一帯は養鶏の盛んな農業エリアで、空港付近にも小規模な養鶏場が散在していた。山東省は中国最大の農産物生産拠点であるだけではなく、中国の農産物輸出に占める割合が著しく高い。もちろん日本にも数多くの山東省の農産物が入ってきている。
記者を案内してくれたタクシー運転手は、かつて養鶏事業をやろうと試みていたという。養鶏を営む親戚もおり、業界の事情に通じている。
「結局、あまり儲かりそうにないからやめたんだけどね。
どこも、(食肉を流通させる)親会社から飼料を受け取って育てる。成長促進剤は、自分の判断で投与しているはずだ。だいたい40日で2~3キロに成長して、出荷可能になる。出荷先は、北京や上海などの都会。生きたまま出荷するんだ。
安全かって? 安全な食べ物なんてないよ。どこも成長剤は使っている」
こうした事情をよく知っている彼は、成長ホルモンなどを過剰に投与したブロイラー“速成鶏”は決して食べないという。
「私が食べるのは、卵を産まなくなった雌鶏(いわゆる廃鶏)だけ。あんまり美味しくないけど、それでも速成鶏を食べるよりはマシだね」
「あの白い鶏は、絶対に買ったらダメ」
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タクシーが農村部にさしかかると、道端に鶏を乗せたリアカーが止められていた。すると、運転手が指差しながら「あの白い鶏は、絶対に買ったらダメ。あれがいわゆる速成鶏だ」と厳しい口調でまくしたてた。
過去に養鶏場を営んでいたという運転手の親戚にも話を聞いた。
「1年ほど前までやっていたんだけど、あまりに利益が出ない、むしろ赤字だったので廃業しましたよ。仲介業者への卸値は(生きた状態の鶏の体重換算)500gが4.6元ぐらいだが、原価が4.4元ぐらいはかかる」
出荷時に鶏が2.5kgになるとして、1羽当たりの利益は1元(取材当時のレートで約15円。以下同)程度だ。
日本と比べて1週間から10日ほど速い
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「鶏は、約43日間で出荷できる。エサからなにからすべて六和(山東六和集団は、中国最大の農牧企業。問題になった上海のKFCにもここが納入していた)から降りてくるんだ。流通も六和がやる。北京近郊でソーセージなどにも加工しているようだ。
抗生剤が人体に影響がないかって? それは当然あるだろう」
ちなみに、日本の養鶏場で育てられるブロイラーは、およそ50日間で出荷される。無投薬の場合には約60日とされる。したがって“速成鶏”は、日本のブロイラーと比べて1週間から10日ほど速く仕上がる計算になる。死んだ鶏を出荷していた冒頭の河南大用にいたっては、わずか30日で鶏を出荷していたという。
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日本でも中国でも、成長ホルモンや抗生剤を鶏の体内に残留させないための「休薬期間」が設けられている。日本の場合ならば1週間だが、出荷日数からわかるように中国では厳格に休薬期間を遵守しているとは言いがたい状況がある。かくして薬漬けの鶏肉が出回ることになる。
死骸は「犬のエサとして売れる」
続いて、付近の養鶏場でも取材を行った。本業は、ビニールハウスで野菜や果物を生産する農家のようだ。
「投資額は16万元(約240万円)だ。この1棟で8000~9000羽ほど飼育できる。大手の仲介業者を通じて売るんだが、やつらは最初だけは儲けさせるんだ。だんだんと卸値が安くなったり、その他のコストがかかるようになって、利幅が減っていく。卸値は仲介業者が決めるんだ。飼料等もここから買うので、経費を差し引いた額が手元に残る。それでも多い年では5~6万元は稼げる。5年ぐらいで投資は回収できるよ」
交渉の結果、養鶏場の内部に潜入することに成功した。
「2日に1度掃除すればいいだけだから、管理は楽だよ。流通先は、山東省のウェイファン(濰坊)にある冷凍倉庫。そこから加工工場に行って、KFCやマクドナルドに行くんじゃないか」
詳しい流通先については、生産している本人もよくわかっていないようだ。
養鶏場の中は、薄暗く空気が澱んでいた。入り口には、鶏の死骸が8羽ほど。とがめるような視線を業者に向けると、「これは犬のエサとして売れる」という。1つのゲージには6~12羽ほどの鶏が押し込められており、急激な成長のせいか、十分に羽毛が生えそろわず、地肌が見えている鶏もいた。
飲食店では産地表示の義務はない
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2004年以降、日本は中国産のブロイラー(生肉)を輸入していない。
「鳥インフルエンザの発生を受けて、中国からの鶏肉の輸入は禁じられています。ただし、加熱処理をした鶏肉に関してはこの限りではありません」(農水省消費・安全局動物衛生課)
そこで中国産の「鶏肉調製品」の輸入量を調べてみると、タイ産と並んで突出しており、2016年度には約17万トンが輸入されている。全体の輸入量の約38%を占めている。鶏肉調整品とは、から揚げやチキンナゲット、焼鳥などのことだ。
鶏肉調製品の加工・流通には、生産から出荷まで幾次もの工程があり、当の輸入業者ですらすべてを正確に把握できていないことがある。しかも、輸入される鶏肉調製品の大半は、外食産業で消費されている。飲食店の店頭では産地表示の義務はないので、消費者の胃袋には知らぬ間に中国産の鶏が収まっている。見分けるコツがあるとすれば、“値段”ぐらいだろう(高いからといって、中国産が使われていないとは言い切れないが)。
「これは私たちが食べる用に作ったもの」
中国には、こんな笑えない“冗談”がある。曰く「カネのない庶民は市場で中国産の食品を買う。少しお金を持っている人は外資系スーパーで食品を買う。では、大富豪はどうするのか? 彼らは、自分専用の菜園で自家用の野菜を作らせる」。根底にあるのは、口に入れるものに関して他人を信頼できないという根強い不信感だ。
山東省の山奥にあった養鶏場を訪れた際の出来事を思い出す。
遠くからやってきた我々に奥さんが簡単なラーメンを作ってくれたが、これまで取材現場で見た風景が脳裏にチラついて箸が進まない。不安そうな表情からなにかを感じ取ったのだろうか。彼女は、具のニラや鶏肉、卵について「これは、私たちが食べる用に作ったものだから安全だよ」と言い、ニヤッと笑ってみせた。
ある全国紙の中国特派員は、「中国の農家は、出荷用と自家用をわけて生産している。中国全土どこでも普遍的な現象だと思いますよ」と語る。
生産している当人や中国で暮らしている人々ですら口にしようとしない成長ホルモン剤漬けの鶏肉――。私たち消費者が取れる自衛策は少ないが、まずはこうした実態を「知っておくこと」が重要ではないだろうか。安い食べ物には理由があるのだ。
引用元:http://bunshun.jp/articles/-/6195