ビジネスの問題解決では、同じ問題であっても、複数の「解」を提案できるものが勝つ。では複数の「解」を導くには、どうすればいいのか。中学受験を専門にする塾講師の松本亘正氏は、平面図形の難問を解説するうえで、事前にいつくかの「基本」をしっかり教えるようにしているという。松本氏は「解を増やす重要性は、中学受験の合否にも影響する」という。どういうことなのか--。
解ける? 解けない? 中学受験の算数に挑戦
中学受験で難関校突破の鍵となる科目は、算数だ。特に、図形問題は合否に直結する。受験に備える小学生はどんな問題に取り組んでいるのか。今回、大人のみなさんに「平面図形」の問題をいくつかご紹介したい。もし、さっと解けるというのなら、かなりの図形センスの持ち主である。
挑戦いただきたいのは、この問題である。
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Q:AD=CD、BC=10cm、四角形ABCDの面積が64平方cmのとき、辺ABの長さは何cmですか。
小学生を指導していると、ときおり先天的な資質を感じる子に出会う。どれだけ難しい問題でも、いきなり答えをポンと書いて正解する。ただ、どうやって解いたの? と尋ねても、どういう思考過程で正解できたかの説明は不得手。それでも大人が思いつかないような発想や切り口を考えられるのだ。
もし、わが子にそうした素質を感じるならば、壁にあたるまでは自由にやらせたほうがよい。下手に誘導したり、型にはめたりすると天賦の才能を失わせる危険性があるからだ。
しかし、わが子がある難度になってスランプに陥っている場合や、そもそも図形のセンスがあまりなくて苦労している場合は、今回紹介する方法を参考にしてほしい。
これなら解ける! まずは基本の図形問題に挑め
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さて、冒頭の問題を解く前に、よくある基礎的な問題をひとつ。小学生であれば一度は解くタイプの問題だ。
Q:辺ACの長さが16cmのとき、三角形ABCの面積を求めなさい。
正解は64平方cm。解法は4つ示していくが、まずは基本的な解法を2つ紹介する。
解その1はBからACの中点に垂線をおろし、同じ長さや二等辺三角形をいくつも作る解法である。底辺がAC=16cm、高さが16÷2=8cm。よって、三角形の面積を求める公式に従い、(底辺)×(高さ)÷2で、16×8÷2=64平方cmと求められる。
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解その2は、正方形を作り、その半分の面積を求める解法である。ACは正方形の対角線となるので、16×16÷2=128平方cmが正方形の面積である。
三角形ABCはその半分なので128÷2=64平方cmと求められる。この2つの解法は塾でも必ず指導する。おそらくは世間でも一般的な解法であろう。
解その2は正方形を強く意識している。複雑な図形の問題であっても、自分が知っている形や把握しやすい形に落とし込むことで、糸口が見つかることがある。迷ったら、そういうことを考えるといい。ちなみに、小学生相手には、「直角二等辺三角形はもともと正方形だったのに、かわいそうに半分に切られてしまったのかもしれない」と説明することもある。
では、この問題、小学生でも解ける解法を他に探ることはできないだろうか。√を使うことなく、考えてもらえるとうれしい。
4つの解法を思いつくことができる人1つだけの人
図形のセンスを磨くためには、さまざまなアプローチを試す訓練をさせたほうがよい。その中でどれがベターかベストかまではわからなくてもよい。まずはさまざまな選択肢を思いつくことが大切だ。ビジネスの世界で、多くのソリューションを思いつくことが重要であるのと同じことだ。
小学4年生くらいまで算数が得意だったが、高学年になってつまずいたり、成績が下降線をたどったりする子は、答えが出ることに満足してしまうタイプが多い。特に図形分野は「複数のアプローチを考えられることが賢い」とすりこんでおいたほうがよい。
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では、残り2つの解法を紹介しよう。解その3である。
解その3は、途中までは解その2と同じだが、最後に正方形を作る解法である。自分が知っている形や把握しやすい形に落とし込んでいる。
最後は、解その4である。解その2では直角二等辺三角形ABCを2つ組み合わせて正方形を作ったが、4つ組み合わせても正方形になる。そして、ACは正方形の一辺となるので、三角形ABCの面積は16×16÷4=64平方cmと求められる。
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わざわざ4つも組み合わせるのは非効率だと考える人もいるだろうが、同じものを組み合わせてひとつの形を作るという発想、特に「自分が知っている形や把握しやすい形」にするというアプローチは応用が利くものだ。
では、冒頭の問題の解説に移ろう。簡単な問題の解説をここまで続けてきたのには、もちろん理由がある。
11×11=121、12×12=144 ●×●=256は?
冒頭の問題の内容をおさらいしよう。
Q:AD=CD、BC=10cm、四角形ABCDの面積が64平方cmのとき、辺ABの長さは何cmですか。
それでは解説を始めよう。解法は2つ示す。
同じ図形を4つ組み合わせると、大きな正方形になる。
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64×4=256平方cm
正方形の面積を求める公式は、一辺×一辺なので、
●×●=256 ●=16cm 16-10=6
図の「○」の部分が辺ABの長さと等しいので、答えは6cmとなる。
最初のポイントは●×●=256の●が16とすぐに出ないと解けないということだ。受験生の多くは11×11=121、12×12=144、13×13=169……、16×16=256といった数字が頭に入っている。算数は前述したように、いくつかの解法へのアプローチを思いつくことも重要だが、こうした「基本的な数字」をしっかり覚えておくことも合格への生命線となるのだ。
あるいは、●×●=256の一の位に注目すると良い。256の一の位は「6」。つまり、4×4=16か、6×6=36をヒントに、●は14か16のどちらかだと絞り込みを行うことができる。
この問題のもうひとつのポイントは同じものを4つ組み合わせて正方形を作るという点にある。前出の直角二等辺三角形の問題と同じアプローチである。前出の問題からの応用問題というわけである。
図形問題を繰り返し大量演習させてもセンスは磨かれない。それどころか、ワンパターンの訓練を繰り返せば繰り返すほど、柔軟な思考力は育たなくなり、パターン化された問題やマニュアル化されたことしかできない人になってしまう。
一方、一見異なる問題でも、実はアプローチは同一であるというのは、図形問題に限らない。ビジネスにおける問題解決への道筋でも同じだろう。異なる問題でも、同じ解決へのアプローチが適用できることは小学生のうちから教えておきたい。
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問題自体を暗記するのではなく、アプローチを引き出しにいれておくことが重要なのだ。
「いろいろな解法を思いつく子こそ賢い」
では、もうひとつ解法を紹介する。
図形問題では<分ける><全体から引く><移動>のいずれかを使う確率が高い。次の解法は、図形を分けて、移動させる解き方である。
図のように三角形ABDを移動させると、直角二等辺三角形になる(図1、2)。面積が64平方cmの直角二等辺三角形。先ほどの問題の答えと同じだ。
あとは、次のいずれかのアプローチで長さを求めていけばよい(図3、4)。
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【図3】64×4=256 ●×●=256 ●=16cm 16-10=6
【図4】□×□=64 □=8 8×2-10=6cm □は辺ABの長さと等しいので、答えは6cm
今回は、簡単な問題を使って、より難度の高い問題を解くことができるような配列にした。過去の問題やこれまで習ったことを「使う」ことで、センスは磨かれる。自分には才能がないからといって諦めることはない。答えにたどり着くためのアプローチを複数考える癖をつけ、「習っていない、知らないからできない」ではなく、「習った(経験した)何と近いのか、何を応用すれば正解にたどり着けるだろうか」と考える訓練が、センスを磨く。
今年、最難関校のひとつと言われる、筑波大附属駒場中学校に合格した生徒のエピソードを紹介したい。小学6年生の彼が質問に来た時は大変だった。
「先生、これを教えてください」ではなく、「先生、ぼくはこう解いたのですが、ほかに良い解き方はありませんか?」だったからだ。
いろいろな解法を思いついてこそ賢い、と授業中に口ぐせのように話し、言葉のやりとりをしていたことが、この6年生だけでなく塾講師の私の成長にもつながったのだ。
引用元:https://www.sankeibiz.jp/econome/news/171022/ecc1710221312002-n1.htm?ref_cd=RelatedNews