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33:名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:14:44.48 ID:uxwqRYpB0

中学に入って新しい環境に馴染めず、
クラスで孤立した俺に唯一毎日話しかけきて、
「どうしたの?」って聞いてくれたのも幼馴染だった。

離れ離れになった後も、辛いことがあったとき、
俺が思い浮かべるのは幼馴染のことだった。

彼女がいなきゃ、今の俺は無かっただろうな。
まあ、無いなら無いでいいんだけどな。

とにかく俺は彼女に感謝していたんだ。
ここ数年まったく連絡はとっていなかったが、
もし彼女に何かあったら、真っ先に駆けつけようと思ってた。
どんな形でもいいから、彼女に恩返ししたいと思ってたんだ。

34:名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:17:21.94 ID:uxwqRYpB0

「その幼馴染さんですけど」とミヤギは告げる。

「十七歳で出産してるんです。で、高校を退学。
十八歳で結婚しますが、十九歳で離婚してます。
二十歳の現在は、一人で子育てしてますね。
ちなみに二年後、首吊り自殺することになってます。

いま会いにいくと、多分『お金貸せ』とか言われますよ。
あなたのこと、ほとんど覚えてませんし」

35:名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:20:27.06 ID:uxwqRYpB0

俺がどんな反応を示したかって?
そりゃ、がっつり傷ついたさ。がっつりな。
一番大切な記憶を台無しにされたんだからな。

情けない話なんだが、二十歳になっても、
俺の根っこの部分はどこまでもピュアと言うか
ナイーヴというかセンシティヴというか、
ようするに子供の頃から成長していなかったんだな。

何かが変わったり、何かが終わっていく、
そういうことが、いまだに耐えらないんだよ。
成人男性のくせにカナリヤ並に敏感なんだ。

36:名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:22:32.67 ID:uxwqRYpB0

それでも俺は極力気にしていないふりをして、
「ふうん」と言いながら煙草に火を点けた。

三本くらい吸うと、体調が悪いせいか、
嫌な感じに頭が痛くなってきてたな。
でも吸い続けた。色んなことを忘れるために。

ミヤギは部屋のすみに戻っていった。
で、ノートにさらさらと何かを書いてたな。

気が付くと、いつの間にか日が落ちていた。
俺は自分の書いたリストに目を落とし、
幼馴染の項に取り消し線を引いた。

それからもう一度リストをじっくり眺めて、
電話を手に取り、ゆっくりボタンを押した。

38:名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:26:23.27 ID:uxwqRYpB0

『どうしたの? 珍しいね、あんたからかけてくるなんて』
お袋の声を聞くのは、本当に久しぶりだった。
バイトと勉強が忙しくて電話をする暇がなかったからな。

「急で悪いけど、今から実家に帰っていいかな」。
俺はお袋にそう聞くつもりだったんだ。
で、家族の無償の愛とやらに包まれながら、
余生を穏やかに過ごそうと思ってたんだよ。
だが、こっちが何か言う前に、お袋はべらべらと喋り出した。

それは俺の二つ下の、弟の話だった。
お袋はことあるごとにあいつの話をしたがるんだよ。

というのも俺の弟、ちょっとした有名人なんだ。
野球をするために生まれてきたような男でさ、
一年の時から甲子園で投げてるんだよ。
テレビにもしょっちゅう出てるんだ。自慢の弟さ。

39:名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:28:05.41 ID:uxwqRYpB0

弟の相変わらずの大活躍については勿論のこと、
お袋は、弟が連れてきた恋人の話までし始めた。

「とにかく美人なのよ」とお袋は二十回くらい言った。
「同じ人間とは思えないほど美人でね、その上性格も……」
まるでもう孫ができましたみたいな話ぶりでさ。
俺の話なんて全く聞こうとはしてねえんだよな。

実家に帰ろうという気持ちは、段々としぼんでいった。
最近では、その弟の素敵な恋人さんってのを、
しょっちゅう家に招いて夕食を一緒にするらしい。
その場に俺が混ざるのを想像しただけで死にたくなったね。

俺は適当なところで電話を切った。実家に帰るのは、やめた。

 

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