【驚愕の事態発生】マニアックなまでの情熱を衣服に捧げているファッショニスタの妻が「1年間洋服を買わないチャレンジ」をしたら・・・

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気がつけば私たち夫婦の生活はミニマルでシンプルになり、消費で自己表現するようなことはなくなっていた。善き人たちとのつながりや、暮らしの心地よさが、私たちのいまの自己表現なのだ。

だから仕事も変わった。妻が生み出すアート作品は、都会のポップを全面に打ち出した絵画からだんだんと移行してきている。福井に拠点を構えてからは、越前の土着的で素朴な古風をとりいれた縄文土器のような焼き物にまで手を広げるようになった。私は彼女の作風に、「プリミティブ・アンド・ポップ」という短いキャッチコピーをつけた。

2月12日まで六本木ヒルズで開催されている松尾さんの個展では、今までのポップな絵と一緒に、あたたかみのある焼き物も並べられている。写真提供/松尾たいこ

地に足のついたスタイルに変わっていただけ

妻だけでなく、私のワークスタイルも、大きく変化した。

ノートパソコンをバッグに放り込み、小さな荷物でどこにでも気軽に移動していき、どこででも仕事する。善い人と出会えれば手弁当でもいいから一緒に仕事し、語らい、未来をともに見る。

お金はもちろん重要だけれど、気持ち良い人的ネットワークの中をぶらぶらしていれば、そんなの後からきっと付いてくる。そういう楽天的で気軽な仕事観を持つようになった。

最近、ときどき心に浮かぶのはチャーリー・チャップリンの名言だ。「人生に必要なのは、愛と勇気と少しばかりのお金」。

東日本大震災が起きた直後の2011年から12年ごろ、私はこの巨大な災が引き金になって社会が変わるんじゃないかと期待し、しかしたいして何も変わらなかったことに落胆した。

歴史を振り返ってみれば、日本社会をひっくり返したのは幕末の黒船来航や太平洋戦争の敗北などの「外圧」であって、災害は何もひっくり返さない。ただ世相をさらに暗くするだけだったというのは、20世紀初頭の関東大震災が裏付けている。

でも東日本大震災は、目に見えては何も変わらなかったけれど、実は大きな変化を私たちに引き起こしていたのだと思う。それは政治でも経済でも高邁な社会運動でも、そして単なるトレンドでもなく、もっと地に足の着いた「スタイル」の変化だったのだ。

かつては壁一面ぎっしりだった靴。拠点を複数にしたとはいえ、以前から半分以上靴の数も減った。写真提供/松尾たいこ

スタイルの変化は、人生を変え、社会を変えていく。松尾たいこの本から、そういう新たな心地よいスタイルの芽生えを読み取っていただければと思う。

 

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