お調子者の後輩にちょくちょく飯を奢らされていた。ある日、俺「腹の調子が悪いからまた今度」後輩「先輩の好きなところでいいっすよ」→馴染みの小料理屋に連れて行った結果

物語いい話

聞けば、あの後、一人で何度も通っているとのこと。
私と一緒に行った日に食べた鯖の味噌煮が、
Aの亡くなった祖母の味とそっくりだったため
懐かしくなり、酒は頼まず
定食だけを食べに来ていたのだそうです。

店のご夫婦ともすっかり仲良くなったようで、
それからも度々、彼を店で見かけました。

二年後、Aは会社を退職し、
その小料理屋で働き始めました。
やがて調理師の資格をとるために学校へも通い、
私とBが店に行くと、定食に小鉢を
おまけしてくれたりするようになりました。

Aはそれまで料理など
ほとんどしたことがなかったはずです。
けれどもその頃には店のご主人が太鼓判を押すほど
腕を上げておりました。

過日、その店のご主人が体調を崩され、
Aに店を譲って隠居する運びとなりました。
店はしばらく休んでいたのですが、
今夜、私とB、ほかに常連さんや
店のご夫婦のお知り合いなどを呼んで、
ちょっとした引き継ぎ式のような席を設けます。

週末には、Aが初めて主人として、
引き継いだ小料理屋の厨房に立ちます。
十年ほど前に結婚したAの奥様が、
まだお元気な先代の奥様に手伝っていただきながら
接客をされるそうです。

Aの言った
「あの日、先輩が腹を壊していてくれて良かったです」
という、冗談なのかよくわからない言葉が
思い出されます。
調子のいい、口のよく回るところは
ジジイに片足を突っ込んだ今も変わっておりません。
きっと、良い店主になるでしょう。

本当に、人の縁、人生の転機というものは
予想が付かないものだと考えさせられます。

今夜は鯖の味噌煮を出してくれるとのこと。
楽しんで来たいと思います。

引用元:http://www.tanoshikoto.com/archives/52154088.html?ref=popular_article&id=5630417-4570721